第36話・装備品は消耗品、命に比べれば安い物
「未知の細菌に備えて持って来た武器が、まさかここで役に立つとは……」
到着した中本1尉は、広場に転がる大量の結晶を見て呟く。
火炎放射器を下ろした透は、安全確認をしっかり行なった後に答えた。
「こいつを貸してくれて助かりました、連中––––北日本の雪よりは貧弱でしたね」
透の言葉に、中本1尉も空っぽとなった本体を受け取りながら返す。
「かつて東北の豪雪に手も足も出なかった分、今回活躍できてコイツも満足だったろうな。改めて––––」
姿勢を正し、軽く頭を下げる。
「ありがとう新海3尉、ウチの偵察員を救ってくれて……まさか高機動車のサイドミラーを破壊して突っ込むなんて、我々では思いつきもしなかった」
このカミングアウトに、配信のコメント欄もさすがにざわついた。
【発想がぶっ飛んでて草】
【でも確かに間一髪だったぞ、間違ってはいない】
【これで文句言う背広組がいたら終わってる】
当初戻って来た隊員の説明を聞いた上で、選択肢は2つしか無かった。
1つはその隊員がバイクでもう一度戻り、すぐさま救援に向かうという案。
だが、銃弾が効かないという情報から、たった1人戻ったところで何もならないと考えた。
それどころか、弾薬切れでミイラ取りがミイラになる結末すらあり得た。
もう1つは、全員で全力疾走をして迎えに行くというもの。
僅かな奇跡に賭けて、時間を使ってでも対抗策を持って行く案だ。
しかし、これでは間に合う可能性が限りなく低かった。
猶予も一切無い中、静止した時間を破ったのは銃を持った透だ。
「まぁ……真似は推奨しません。自分は錠前1佐から好きにやって良いと言われていたので、吹っ切れただけですし」
立ちはだかるタワーの前––––全員を遠ざけた後に、透はいきなり到着したばかりの高機動車へ近づき、サイドミラーを銃弾で吹き飛ばしたのだ。
傍から見て常軌を逸した行動だが、結果として死ぬ間際だった隊員を助けることができた。
カメラを弄った四条が、透の肩を叩く。
「まぁ最近の日本経済はとても良好ですし、高機動車くらいすぐに買い直してくれるでしょう。隊員の命と天秤に掛ければ……装備科も文句は言わないはずです」
25年度の6月〜8月予想GDP(国内総生産)は、なんと成長率驚異の19%強だった。
これがいかに凄まじいかと言うと、経済力世界2位の中国でさえ同月は成長率4.5%が良いところ。
これでもかなり上方に盛っているので、実際はもっと低いものとなる。
現在の日本にすれば、高機動車など隊員の命に比べればいくらでも使い潰せる消耗品。
それだけの体力を十分に持っていた。
「しかし、ここから先はかなり狭い通路……ダイエットした高機動車でも通れないな」
中本1尉の言う通り、この噴水広場の先は明らかに歩兵しか入れなさそうな雰囲気だった。
長いライフルには過酷な戦闘が予想されたが、透は1人の部下に目をやる。
「大丈夫です、ちょうど先日––––近接戦闘を極めたプロが入ったので」
視線の先にいたのは、『G17 Gen5』ハンドガンをホルスターから抜いた久里浜だった。
彼女はニッと、得意分野を振られた子供のように笑う。
「了解、新海小隊長––––昨日奢ってもらったお菓子の分は働くわ、だから安心してちょうだい」
––––ガチャンッ––––!
銃上部の重たい鉄製スライドが、コッキングにより弾丸を咥えて前進した。
2名を負傷者搬送。
15名を制圧用に広場へ残し、特殊作戦群––––久里浜士長を先頭に、18名の隊員が通路へ突入を開始した。
いざ深部へ。
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