表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
359/457

第359話・決着! 東京湾大空戦!

 

「お姉……ッちゃん!?」


 テオドールの眼前で、剣の勢いが殺される……。

 最大出力まで上げた防壁に加え、執行者ベルセリオンが……自らの身体でもって、妹に向かっていた狂刃を止めたのだ。


「言ったでしょ……、わたしはアンタの……ゲホッ。"お姉ちゃん”……だから」


 墜落していくベルセリオンを、テオドールはすぐさま追いかけてキャッチ。

 とにかく急いで、とりあえずの陸地としてダンジョン外延部へ降り立った。

 ヘリポートの傍で、瀕死の姉を下ろす。


「お姉ちゃん……!! お姉ちゃん!!!」


 既に刺さった剣は本人によって抜かれており、常人なら即死する量の出血をしている。

 半泣きで叫ぶテオドールに、ベルセリオンは優しく笑みを見せた。


「だ、大丈夫……致命傷じゃない。でも治癒魔法が効くまでに数分かかる……だからっ!!」


 口から血を溢れさせながら、ベルセリオンは目一杯の力で妹の肩を掴んだ。


「アンタが決めなさいッ……! テオドール」


「ッッ…………!!」


「大丈夫、アンタはわたしの妹……絶対に勝てるから。自分を信じなさい。不覚の反省は……後でいくらでもやって良いから!」


 そうだ。

 今は起きたことを悔やんでいる暇など無い。

 姉が繋いでくれたバトンを持って、最後まで走りきる。


 それが偉大な姉の妹として、最優先されるべきことだった。


「話は終わったようだな? 貴様を仕留め損なったのは痛いが……まぁ結果オーライだ」


 ウリエルの従える『ゴモラ』が、彼の前で静止した。


「君たちが勝ったことは認める。だが私は諦めの悪い騎士として有名でね……視聴者の手前。最後まで恰好をつけさせてもらおう」


 直後だった。

 大天使ウリエルは持ちえる全ての魔力を、『ゴモラ』へ注ぎ込んだ。

 中国軍を転移魔法で大量に送り込んだ時以上、まさしく感じたことの無い莫大な魔力出力に……テオドールはもちろん、遠隔で同期した透も汗を出す。


 だが、2人には焦りなど微塵もない。


『テオ、お前の得意でやってくれるようだぞ』


 不敵に笑った透の声と同時に、テオドールは剣を亜空間へしまった。

 全身を覆う魔力が燃え上がり、長く柔らかい銀髪が光り輝く。


「えぇ透、見せてあげましょう。わたしが一体なんなのかを!」


 青空、ダンジョン、ミサイルの白煙……。

 それらに囲まれた東京湾上空で、2人の存在が己の矜持を掛けて––––全身全霊、本気の技を出す。


「光属性魔法––––”暁天一閃”。『極ノ槍』!!!」


 ウリエルの『ゴモラ』から、魔法戦の極地である暁天一閃が放たれた。

 全ての攻撃魔法の頂点。


 眩く輝くレーザーが迫る中、執行者テオドール……もとい。

 自称”宇宙戦艦の主砲系女子”は、渾身の一撃を撃ち放った。


「『二連装(ツイン)・ショックカノン』ッッ!!!」


 テオドールの両手から、青白いビームが発射された。

 ギュルギュルとねじれながら一体化したそれが、ウリエルの『極ノ槍』と衝突。

 太陽のような閃光を、湾上空に発生させた。


「ぐぅううッ……!!」


 今度は剣ではなく、エネルギー同士での激しい鍔迫り合い。

 青と赤の魔力がそれぞれぶつかり合うが……。


「無駄だ、魔力出力で私の右に出る者は存在しない。貴様だけは––––ここで私が仕留める!!」


 ウリエルの魔法出力が、数倍に跳ね上がった。

 そのパワーは、かつて戦ったアノマリーであるリヴァイアサンに近いレベル。

 空戦で消耗した状態のテオドールでは、とてもではないが勝てない。


「ウグッ……!! うぅッ!!」


 足裏の地面がえぐられていく。

 相手の魔法が近づいてきたことで、熱風が顔と髪を覆う。

 およそ8対2の状態まで押し込まれたあたりで、テオドールは顔に諦めを浮かびかけ……。


「諦めんじゃ……! ないわよ!!!」


 正気に戻される。

 なぜなら、魔法を放つテオドールの背後で……負傷したベルセリオンが優しく抱擁したのだ。


「お姉……ちゃん!」


「大丈夫!! アンタなら勝てる! あんなヘナチョコ魔法––––サッサと押し返してみなさい!!! 運も必然も、全部テオドールの味方だから!!」


 偉大な姉の言葉は、直後に現実となった。


『全機! 編隊構成完了!』


『よし! あの膨大な熱エネルギーのおかげでようやくロックができる。空域内の全戦闘機は、全力で執行者の援護を行え!!!』


 中国軍戦闘機を驚異の技量で殲滅した航空自衛隊機が、高速でウリエルへ突進を行う。

 さらにその動きは、海上でも同じだった。


『全護衛艦隊へ! 残った全てのミサイルを使い、執行者を援護せよ!! 出し惜しみは無しだ! 撃ちまくれ!!!』


 洋上を航行していた護衛艦『まや』、『きりしま』、『おおなみ』が隊列を整える。

 ミサイル誘導用のFCSが、上空へ向けられた。


『全機! 全兵装発射(フルファイア)!!』


『ESSM、一斉発射(サルボー)!!!』


 航空自衛隊の戦闘機、および海上自衛隊の護衛艦隊から、ありったけの対空ミサイルが発射された。

 センサーはウリエルの放つ赤外線を完璧にロックしており、必中は確定。


「くそッ!!」


 反射的に、ウリエルは自身の周囲へ大出力の魔導防壁を展開。

 ミサイルを防ぐことに成功した。

 しかし、それはその分だけ––––『極ノ槍』へのリソースが減ったことを示す。


 訪れたチャンスを逃すほど、執行者テオドールは甘くない。

 もう燃え尽きても構わない、この一撃で日本を守る。

 透とベルセリオンから残った魔力を引き継いだ彼女は、最大出力––––”エネルギー充填120%”の全力を放った。


「爆雷––––波動砲オオォォォッッッ!!!!!!!!!!」


 膨れ上がった異次元のエネルギーが、テオドールの両手から撃ち放たれた。

 圧縮・解放された魔力粒子の爆縮放射は、ウリエルの奥義を飲み込んで余りあるほどに突進。

 光に照らされた大天使は、ついに真の勝敗を悟った。


「……認めよう、君たちの方が強いと」


 極太の『爆雷波動砲』が、ウリエルを包み込んだ。

 そのまま直進したエネルギー流は、遥か先にある高空の電離層を割りながら大気圏外で爆発。

 凄まじい輝きを放ち、昼間にも関わらず……東日本全体へオーロラを発生させた。


「はぁっ……、はぁっ……!」


 全てを出し切ったテオドールは、姉と一緒にその場で仰向けに倒れた。

 輝いていた銀髪が、ゆっくりと元に戻っていく。


「んっ」


 隣で倒れていたベルセリオンが、柔らかい笑みと一緒にグーを向けて来たので––––


「うん!」


 テオドールもまた、グーで手を合わせた。

 オーロラと陽の光、そして青空が……幼くも強い少女たちを祝福する。


「だーっ……!! 疲れたぁ……」


 精神リンクを解除した透が、大汗を流しながら背もたれに掛ける。

 その横では、同じく汗だくで同期を解除した四条が笑顔を向けていた。


「お疲れ、透」


「衿華もな、ったくギリギリ過ぎる……テオにアニメを履修させといて良かったよ」


「まったくです、でも……」


 少し笑った四条が、屈託のない声で告げる。


「サポートしてる透も、凄くカッコよかった」


「……ッ、義務を果たしただけだ。俺はテオの親代わりだし」


 溢れ出る照れと笑みを隠すべく、透はひとまず横を向いた。


 日本の首都を脅かしたこの一大決戦は、後に”東京湾大空戦”と呼称されることになる。

 そして、一線を越えた中露への反撃は––––ここから始まるのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
順番が明示されてないので間違っているとは言い切れませんが、電離層は成層圏より上です。
厳密には「自分達の戦力運用のミスを日本側に完璧に突かれたから」だと思うんだけどな…。執行者の育成管理の仕方、エルフ達の扱い、戦術の組み立て方、高過ぎるプライドetc……。極端に言えば半分自滅なの分から…
ダンジョンは人間を殺すしてエナジー的なのを回収してると書いてありましたよね、中国やロシアで騙して回収すればいいと思うけど
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ