第358話・騎兵隊の到着だ!
「お姉ちゃん!! アイツら阻止して!!」
大規模転移によって現れた中国軍に、執行者姉妹は後れを取ってしまった。
「ごめん!! 残った戦闘機がこっちにミサイルを撃ちまくってきてる!! 回避で精一杯!!」
海上に出た輸送機の編隊が、猛スピードでダンジョンへ突っ込んでいく。
中国・ダンジョン連合の全てが掛かった作戦。
失敗するわけにいかないのは、相手も同じだった。
なんとか阻止しなければ––––
「行かせん!!」
「くっ!!」
超機動のジェット加速で迎え撃とうとしたテオドールを、すかさずウリエルが阻止。
鍔迫り合うすぐ真横を、大柄な輸送機が駆け抜けて行った。
「もう間に合わん、我々の勝利だ!」
歯ぎしりするテオドール。
もう後10秒もすれば、ダンジョンへ敵が到達してしまう。
構造物の頂上へ、入口となるゲートが”何者か”によって開けられようとした瞬間だった––––
「なにっ!?」
先頭の輸送機が、突然爆発を起こしたのだ。
機体がバラバラに引き裂かれ、炎上しながら急降下していく。
さらにそれだけに留まらず、後続として続いていた4機も一斉に爆発を越した。
まさか、こんな短時間でと全員が思考。
ダンジョン・中国連合へ凶報を叩きつけたのは、グレーの”日の丸”を付けた戦闘機。
『こちらライトニング隊! アムラーム全弾命中、敵輸送機を撃墜した』
北方の空から姿を現したのは、三沢基地を飛び立った航空自衛隊のF-35A戦闘機だった。
その数16機。
彼らは帰投無視でアフターバーナーを焚き続け、あっという間に関東へ侵入していた。
その時からミサイルの射程圏内へ入っていたが、解放軍戦闘機が邪魔で兵装を使用できずにいた。
だが、テオドールとベルセリオンの活躍により、アムラーム中距離空対空ミサイルを必中距離から放つことができたのだ。
そして、三沢の部隊が来たということは……西方の空に機影を映す時間になったことも示す。
「こちらダンジョン突入部隊!! ロックオンされた!! 振り切れない!!」
最後に残っていた輸送機5機が、ウリエルの目の前で一瞬にして爆炎で包まれた。
墜落していく中国軍輸送機の背後から、新たな航空機が現れる。
「こちらワイバーン隊! 遅くなった! これより戦闘に参加する!!」
激しくアフターバーナーを焚きながら戦線に参加したのは、同じく航空自衛隊のF-15J戦闘機だった。
こちらも数は16。
翼下には大量の空対空ミサイルが吊られている。
彼らもまた、小松への帰投を無視した燃料効率で到着。
だが天使にとっての凶報は、さらに続いた。
『こちらイージス護衛艦『きりしま』! たった今出航––––湾内へ入った! これより戦闘に参加せり』
『同じく護衛艦『おおなみ』、本艦も加勢する!』
続々と戦線に突入してくる自衛隊増援部隊。
こうなれば、後は一方的だった。
『全機! 解放軍機を1機も帰すな!! 他所様の首都で好き勝手した罰を食らわせてやれ!!』
『全艦! 対空ミサイル発射!! 叩き落とせ!!!』
執行者と天使の周囲で、自衛隊のミサイルが雨のように飛び交った。
逃げる手段を既に失った解放軍機が、まるで七面鳥撃ちのように落とされていく。
『ここは日本の空だ! 勝手はよしてもらうぜ!』
SU-35戦闘機の真後ろについたF-35Aが、AIM-9X空対空ミサイルを発射。
フレアをばら撒きながら回避するが、最新鋭のIR FPA(赤外線センサー)と10G以上の負荷に耐える追尾力からは逃げられず、呆気なく撃墜。
また、F-15Jも自慢の兵器搭載量から惜しげなくミサイルを発射。
一部のドッグファイト狂は、機銃で次々と撃墜していた。
「どうやら、勝敗は決したようですね」
鍔迫り合いを終えたテオドールが、冷たく言い放つ。
当初の絶対防護目標だった輸送機が落とされ、健在だった戦闘機部隊も全滅は時間の問題。
彼女の言う通り、連合軍の敗北は明らかだった。
「……私に、このまま苦渋を飲んで負けを認めろと?」
「その通りです、いさぎよく死んでください」
勝負を決めるべく、剣を構えるテオドール。
魔力効率ではこっちが上、このまま叩き落とそうとして––––
「えっ……?」
彼女はようやく気付く。
自らの背後に、ウリエルの遠隔宝具である『ゴモラ』が回り込んでいることに。
なぜ、透の危機察知能力は反応していないのに……!
––––ビッ––––!!!!
「ッぅ!!!!」
全力で体を捻り、間一髪の回避を行う。
亜光速のビームが向かった先を見て、テオドールは探知ができなかった答えを知る。
「攻撃対象は……わたしではなく、敵機!?」
上空で、ターゲットにされた解放軍機がビームに貫かれる。
ウリエルは彼女に付与された危機察知能力を避けるため、攻撃対象をテオドールではなく……射線上の中国軍機に絞ったのだ。
『新海透の危機察知能力は、自分自身に向けられた殺意しか原則探知できない。彼の眷属と相対するなら……覚えておくと良い』
作戦前に、林少佐から聞いた言葉が活きた結果だった。
今、目の前には回避によって無防備となったテオドールの姿。
ウリエルは、右手に持っていた剣を逆手にし、彼女の首目掛けて全力で投擲した。
回避不能の一撃が迫る。
最後の最後で詰めをミスった己に、激しく後悔の念を抱いたと同時だった。
「え……」
テオドールの顔に、鮮血が飛び散った。
だがそれは、自分のものではない。
「ッ……!!!」
「残念……!! でした……ッ!!!」
テオドールの前へ飛び出したベルセリオンが、自らの腹部を剣に貫かれながら……最愛の妹を庇った。




