第357話・無敵! 最強! ほえドール!!
「美味しい……、ラーメン? 貴様、ふざけているのか?」
「ふむ、ふざけているように聞こえますか……」
フルアーマーな執行者が細い首をかしげた瞬間だった。
––––バギィッ––––!!!!
「ぐぅッ……!!!」
目では追えない速度まで加速したテオドールが、左手でウリエルの腹筋に強烈なパンチを叩きつけた。
ソニックブームの大音響が広がる中、彼女はいたって真剣に回答する。
「知らないようですね、食べ物の恨みは恐ろしいと」
「ッ……!! 舐めるな!!」
吹っ飛ばされながらも、『ソドム』と『ゴモラ』を使って反撃。
この距離で外すわけがなく、ウリエルはカウンターによる勝利を確信して––––
「よっ」
「ッ!?」
ウリエルの目が驚愕で見開かれる。
なんと、テオドールは弾幕の中をすり抜けるようにして、無傷で肉薄してきたのだ。
「今のわたしには透の加護があります、そんな雑な弾幕当たりませんよ」
すれ違いざまに、左側でビームを放っていた『ソドム』を両断。
空中で花火のような爆発が起きる。
「まずは1つ」
鬼神のごとき戦闘技術を見せつけられ、ウリエルはもちろん……観戦していたコメント欄も震えあがっていた。
【亜光速だぞ!? なんで見える!!】
【ガブリエル様に次いで実力のあるウリエル様が押されてる……? 信じられん】
【頼む! ここで勝って停滞した俺たちに希望をくれ!!!】
だが虚しいかな、フルアーマー・テオドールと大天使ウリエルでは、もはやその実力に明確な差があった。
相手が弱いわけではない。
今までの彼女であれば、既にウリエルに敗北していただろう。
「ッ! 見えない……! なんて機動だ!!」
魔導スーツによる大幅強化、透による危機察知能力の付与、なにより––––極上のご飯をお腹いっぱい食べたことによる圧倒的バフ。
これら全てが重なり、本来初期スペックで上回るはずの大天使を翻弄していた。
このままでは押し負ける……!
中国軍機による援護を期待したかったが、
「残念ながら、援護は来ませんよ」
少女の見透かした一言。
目を向ければ、そこにはフルアーマー・ベルセリオンによって蹂躙される解放軍機の姿があった。
計画であればとうに邪魔者は下し、第一陣の燃料切れに合わせて中国本土に返すはずだった。
それが、現在テオドールとの戦闘により大規模転移魔法が使えない。
アフターバーナーすら焚けなくなった戦闘機隊は、無尽蔵の魔力を持つ執行者から逃げきれず、ハルバードによって次々と両断。
東京湾から離れようとした戦闘機は、全くの容赦なく『まや』が対空ミサイルで叩き落としていた。
戦闘はもはや一方的であり、中国空軍の殲滅まで時間の問題と言える。
そして、ウリエルにとって凶報はさらに続いた。
––––まずい……! 第一陣の最終便が間もなく転移してくる……!!
しかし、もうキャンセルはできない。
テオドールの背後で、空が再び輝いた。
光の中から、10機の大型輸送機が飛び出てくる。
これらは、那覇で爆撃機と思われていた大型機だった。
【やばいやばいやばい!!!】
【時間差で転移させたのが裏目に出た!!】
【やっとマトモな援軍が来たんだ! なんとかダンジョンまでたどり着いてくれ!!】
半ば狂乱状態と化すコメント欄。
そう、今回の作戦の目的は––––解放軍兵士をダンジョンへ送り込むこと。
ダンジョン内で正式に戦闘員となるためには、転移魔法ではなく、直接本人の意思で入場しなければならない。
この制約は、内部の拡張空間を維持するためにどうしても必要な縛り。
自衛隊員を殺し、エネルギーにするため。
ひいてはダンジョンの直接支配のため、業を煮やした中南海が発案した戦争行為。
全ては中国とダンジョンが、地球の覇者となるための一気呵成な作戦だった。
アレが落ちれば、全てが失敗に終わる。
ウリエルと残った中国軍戦闘機が、余力を全て使って執行者を引き付ける。
「くぅっ……!!」
捨て身に近い攻撃を受け、さすがのベルセリオンも近づけない。
事態を察知した『まや』がESSMを即座に放つが、『ゴモラ』によるビームがこれを撃墜。
輸送機群が、ダンジョンへ向かって全速で突っ込んで行った。




