第356話・ラーメンの恨み!!!
「……あなたですね、この騒動の主犯は」
同じく宝具の剣を構えたテオドールに、眼前の大天使は改めて名乗る。
「私は天界執行官ウリエル。ガブリエルのヤツに習うなら……大天使とも呼ばれているな」
ふと見れば、ウリエルの金眼が薄く輝いていた。
魔法に精通したテオドールからすれば、看破など容易。
正体を一瞬で見抜く。
「その目はカメラ代わりですね? さしずめ、配信でもしているのでしょうか」
彼女の言葉に、視界と同期したコメント欄がざわついた。
【またバレたぞ】
【ウリエル様を見て動じないのか、勇ましいが……無謀なガキだな】
【まっ、どうせ一方的な勝負だし。見てる俺らは安心してれば良い】
目を細めたウリエルは、否定せず話を続けた。
「いずれ目覚める”主”のために、必要な過程なんでね。君らの死にざまは天界全市民に中継させてもらうよ」
「そうですか、ならこちらも好都合というものです」
剣のグリップを強く握ったテオドールは、魔力で髪を輝かせた。
「わたしはさっき食べるはずだったラーメンを、あなた達に奪われているんです」
「ラーメン? 一体何を言って……」
ウリエルの背筋に、ゾッと寒気が走った。
長年の戦闘経験が、彼にとっさのガードをさせる。
––––ガギィンッ––––!!!
ジェットを噴射したテオドールが、音速で斬り掛かってきたのだ。
もし一瞬でも躊躇していれば、あっという間に両断されてしまっていただろう。
「悪いですが、ラーメンのために死んでもらいます」
「ッ!!!」
腕に纏った魔力が、凄まじい勢いで剝がされていく。
緊急で振り払い、すぐさま距離を取った。
攻撃を受け止めた右腕はビリビリと痺れており、さっきの一撃がいかに重たかったかを示している。
「お姉ちゃん!!」
「!?」
テオドールが叫ぶと、海面を突き破ったベルセリオンが急上昇。
そのままウリエルへ突っ込んだ。
「チッ……!! わかってはいたけど硬いわね」
ベルセリオンの一撃は、ウリエルの魔導防壁によって止められていた。
これが以前倒したサリエルなら、貫通していただろう。
やはり、こいつこそ転移魔法の主犯。
魔力出力に特化した、戦闘タイプの大天使だ。
執行者と正対しながら、ウリエルは防壁を解く。
「生憎だが、私をサリエルなどという諜報タイプと思ってくれるな?」
彼の左右から、レイピアのような宝具が2機召喚された。
「行け」
レイピアだと思っていた宝具が、スラスターを噴射。
超高速で執行者姉妹を挟んだ。
先端部が輝き、超高出力の魔力が放たれる。
「お姉ちゃん!!」
「わかってる!!!」
すぐさま回避。
両者は足裏をお互いに叩きつけると、それを踏み台に空中で攻撃をかわした。
【ウリエル様の『ソドム』と『ゴモラ』を見切っただと!?】
【なんであんなガキにそんな芸当が……】
【魔導スーツにしては性能が高い、ウリエル様! 気を付けて!!】
回避を終えた執行者が、スラスターを噴きながら転換。
最初にテオドールが斬り込んだ。
「はぁああ!!!」
振られた剣をかわし、ウリエルは海面へ急降下。
その際、『ソドム』と『ゴモラ』も追従。
追撃する執行者姉妹へ、引き撃ちによるビーム弾を撃ちまくった。
「あの小型宝具を先に潰すわよ! 中国軍は一旦『まや』に任せて、こっちは全力であの大天使を狩る!!」
東京湾上空は、まるでファンタジー映画の舞台のようだった。
入り乱れる戦闘機とミサイルに負けず、天使と執行者がマッハで機動しているのだ。
ここで、テレパシーにより同期した透の声が響く。
『テオ! 相手のビームは亜光速で放たれる、当たれば即死だ』
「じゃあ透が指示をお願いします!」
『俺が!?』
「詳しくは聞きませんが、今日の透は昨日と別人のように生命力が豊かに感じました。透の今のコンディションなら可能です!」
そこまで言われれば、マスターとして応えないわけにはいかない。
車内の運転席で感覚を同期していた透は、己の危機察知能力を大きく広げた。
本来自身のみを対象とする特殊能力を、他人へ付与。
確かに、昨日までの透であれば脳がオーバーヒートを起こして死んでいてもおかしくない。
『口で言ってたんじゃ間に合わん! 俺の感じたチリチリをテオに感じさせる! それを頼りに避けろ!』
「了解です!!」
四条からの指示を受けたベルセリオンと離れ、テオドールが単騎で突撃。
接近していくと、相手の宝具が光った。
「ここ!!」
「何ッ!?」
完全に直撃するはずだった亜光速ビームを、テオドールはアッサリ回避。
剣を上から振り下ろした。
「チィイッ!!」
ウリエルは空間から3個目の宝具である剣を取り出すと、ギリギリで攻撃を受け止めた。
激しく火花が散る中で、光に照らされたテオドールが笑う。
「手札が多いのは結構ですが、いつまでもちますかね?」
「貴様……、ただの執行者じゃないな? 何者だ!!」
鍔迫り合いを終え、両者が正対。
再び剣を構えながら、テオドールは大きく名乗った。
「我が名はテオドール、美味しいご飯を食べるために戦う執行者ですッ!」




