第354話・出撃! フルアーマー執行者!!
「と、透……。これってエルフが使っていたスーツですよね? なんでここにあるんですか?」
いきなり過ぎる状況に、まずテオドールが質問する。
トレーラーに乗せられていたスーツは、ダンジョン運用時代と比べてかなり綺麗になっており、しかもサイズまで子供仕様。
明らかにテオドールとベルセリオンが乗る前提だった。
「詳しい経緯は長くなるから省くが、”錠前1佐が用意した”。この一言でとりあえず納得してくれ」
透の説明は雑そのものだったが、なぜか納得できる言葉だった。
確かにあの狂人なら、このような常識外れのシチュエーションも想定しかねない。
唾液と一緒に疑問を飲み込んだテオドールは、すぐさま頭をラーメンから執行者モードへ切り替える。
「と、とりあえずわかりました。これ、動く……っというか飛べるんですか?」
「わからん、練馬駐屯地でエルフに聞いたら……執行者ならギリいけるらしい。この状況だ、まずは着用してくれないか?」
見れば、確かに足裏や背中の羽根に推進器らしきものが付いている。
航空自衛隊がやられた現状では、みんなを守るのに選択肢は1つ。
テオドールとベルセリオンは、拒否することなく着替えた。
「な、なんか慣れない恰好ね……」
「し、仕方ないよお姉ちゃん……。普通の服だったら入らないもん」
魔導スーツ専用のレオタードに着替え、トレーラーから下ろした銀色の魔導スーツに体を収める。
サイズはピッタリ、後は魔力を流し込むだけだ。
––––ドォンッ––––!!!
響く爆発音。
おそらくだが、東京湾を航行していたイージス艦が迎撃行動に入ったのだろう。
時間が無い。
「と、透……スーツを起動したらどうすれば良いんですか?」
「テレパシーで視覚共有しながら、指示を出す。この事態だ……ぶっつけ本番で行くぞ」
「わたしも、全力でベルさんをサポートします」
マスター2人の心強い宣言。
ざわつく群衆の中央で、真島と氷見が人払い。
もう一度自分の姿を見下ろしたテオドールは、ふと最近見たアニメを思い出す。
「なるほど、つまり今日だけは宇宙戦艦の主砲から、ガン〇ムにジョブチェンジですね!」
「そういうことだ、行ってこい!!」
執行者の莫大な魔力が注がれると、スーツに紋様が浮かび––––
「うお!?」
魔力を推進剤として、2人の執行者が大空へ飛び出した。
その速度はゆうにマッハを超えており、近くのビルの窓ガラスを粉砕してしまう。
あっという間に離れて行った姉妹を見て、真島が呟く。
「ガン〇ムっつーか、ストライク〇〇ッチーズだな……」
◇
東京湾海上を航行していたイージス護衛艦『まや』は、殺到する中国軍機に襲われていた。
艦長の伊良部が、CICで席に着く。
「司令部から発砲許可が出た。湾上空の敵機のみ叩き落とす、なんとしてもダンジョンに近づけるな!!」
アラートが鳴り響き、砲術員がミサイルの入ったVLSを開いた。
「両舷対空戦闘! CIC指示の目標、ESSM(短距離対空ミサイル)攻撃始め!! サルボー!!」
パネルがタップされると、『まや』の前後部VLSから次々とミサイルが発射された。
飛翔したそれらは、民間商船を襲おうとしたJ-15に命中。
スマホで撮影していた乗組員の鼻先で、爆発……海上へ落下した。
「トラックナンバー1536から1540、撃墜!」
「新たな目標! 本艦3時方向より急接近!!」
敵機は明らかに『まや』を警戒しており、幸いにも攻撃は散発的。
だが辛いのはこちらも同じだった。
イージス艦というのは、本来数百キロ離れて交戦する前提の兵器。
まさか、東京湾内で人民解放軍と干戈を交えるなど考えてもいなかった。
「敵の狙いは、おそらく防空兵器の殲滅だ。横須賀港の状況はどうなっている?」
伊良部の言葉に、通信員がすぐさま返す。
「司令部は全艦の緊急出航を命令中、即応可能艦は『きりしま』と『おおなみ』とのこと!」
「米軍はどうだ?」
「第7艦隊は現在、大半が出払っています。残っていたミサイル駆逐艦『デューイ』が出撃準備中!!」
思わず舌打ちする伊良部艦長。
とてもではないが、間に合ったものではない。
『まや』がやられた瞬間、横須賀本港はあっという間に空爆されるだろう。
そうなれば、ダンジョンが完全に無防備となってしまう。
「敵機! 対艦ミサイル発射!! 数8!! まっすぐ突っ込んでくる!! 距離3000!!」
「ESSMは間に合わない、主砲とCIWSで対処せよ」
『まや』の前部甲板に設置された127ミリ速射砲が旋回し、連続で発砲。
精密な狙撃によって、対艦ミサイルを次々に叩き落としていくが……。
「クソっ! 2発抜けた!」
「CIWS、AAWオート!!」
距離1000で、2基の20ミリファランクスが起動。
ガトリング砲を発射した。
曳光弾が大量にばら撒かれるも、海面スレスレでミサイルが突っ込んでくる。
「敵対艦ミサイル! 弾着まで10秒!!」
「弾幕を展開しろ!!!」
「ダメです!! 間に合いません!!」
「衝撃に備えッ!!!!」
全員が被弾に備え、手近な物にしがみついた。
ここまでか……。
無念の想いを心中で抱いた瞬間だった。
––––ボボンッ––––!!
『まや』に直撃するはずだった対艦ミサイルが、空中で真っ二つに斬り裂かれ……爆発した。
一体何が起こったのかと思った瞬間、艦橋から通信が飛んでくる。
『こちら艦橋……、敵ミサイルが落とされました』
「CIWSが間に合ったのか?」
『いえ、それが……”空を飛ぶ少女”によってミサイルが斬り落とされました』
同時に『まや』のレーダーに、初めて友軍機の姿が映った。
『FA・テオドール』。
『FA・ベルセリオン』。
イージス艦の敵味方識別装置は、そう呼称していた。
FAはフルアーマーの略として表示されています




