第353話・首都強襲! ラーメンタイムが台無しです
転移魔法による、戦闘機部隊の奇襲。
あまりに無法な戦法を受けたことにより、航空自衛隊 横田基地にある作戦指令室はパニックへ陥っていた。
「何が起きた!! レーダーサイトと早期警戒機は何をしている!!!」
運用室長の叫び声に、オペレーターが振り向きながら返す。
「わかりません!! 日本海側、太平洋側……共に中国海軍空母艦隊は確認できていません!!」
「空母艦載機じゃないだと? 至急ログを出せ!!」
数百インチのモニターに、直近10分以内のレーダープロットが表示される。
あり得ない光景だった……。
平穏そのものだった関東の空が、たった1分で国籍不明機によって覆われたのだ。
さらに言えば、その中の編隊が横田基地へ猛スピードで向かって来ていた。
迎撃は間に合わない。
「敵機直上!! 急降下!!!」
指示を出す暇すら無く、基地が大きく数度揺れた。
「状況報告!!!」
照明が大きく明滅する中で、血相を変えたオペレーターが叫ぶ。
「管制塔から報告! 滑走路に誘導爆弾多数の命中を確認!! 離陸途中だった米軍のC-130輸送機が巻き込まれました!!!」
照明がバチンと落とされ、非常警戒用の赤色灯が光った。
次いで、絶望的な報告が舞い込む。
「百里基地、厚木基地も滑走路に爆撃を受けた模様……! 被害甚大! こ、これでは……戦闘機が発進できません!!!」
「ッ……!!」
最悪の事態だった。
奇襲開始から3分の間に、関東の主要航空基地が壊滅的な打撃を受けたのだ。
どういう手段かはわからないが、今はやられた事実のみを一度飲み込む。
「敵機の出現は関東のみか!?」
「はい、計84機が突然出現しました……! 那覇からの連絡によれば、爆撃機も確認していたようです」
「北空と中空に繋げ!! ダイレクトラインで直接スクランブルを要請する!! 三沢は無事だな!?」
「三沢、オールグリーンです!!」
奇襲開始から5分。
航空自衛隊は、被害を受けなかった三沢、小松の両基地から戦闘機部隊を緊急発進させた。
しかし、どんなに急いでも7分以上は掛かってしまう。
相手の目的が何かはわからない。
ダンジョンの破壊か、それとも直接的な占領か……。
いずれにせよ、最悪の事態と言えた。
これを受け、政府はJアラートを即座に発動。
日本は戦後初めて、航空機による直接爆撃に晒されることとなった。
◇
「これ……めっちゃピンチですね、多分関東の空自基地やられましたよ?」
群衆を避けるため、4人は一度近くにあった路地へ逃げていた。
上空を見上げた真島が、この場で一番魔法の扱いに長けた者へ質問する。
「テオドール、ベルセリオン。転移魔法ってのはこんな大規模に展開できるものなのか?」
この事態が、中国・ダンジョン連合軍の仕業なのは明らか。
銀座の空を、我が物顔で人民解放軍の戦闘機が飛んでいる。
「透たちには前に話しましたが、転移魔法で移動可能なのは原則として本人のみです。ただ、例外として師匠など……魔法を極めた魔導士は複数人いけると聞きました」
「その考えを取るとしても、いささか規格外としか言いようが無いが……」
「はい、おそらく……敵に魔法出力で大きく特化した者がいるのでしょう」
「そいつを叩けば良いわけか、単刀直入に聞く––––倒せるか?」
真島の質問に、ベルセリオンが首を横に振った。
「難しいわね、相手がまた天使だったら空中にいる可能性が高い。わたしたちは別に空を飛べるわけじゃないから……」
顔をしかめるベルセリオン。
だが、そんな彼女が可愛く見えるレベルで、銀髪の少女から赤いオーラが溢れ出ている。
その金色の目は、怒りで黒く据わっていた。
「人のお店ラーメンを邪魔するとは……、敵はよほど死にたいらしいですね」
普段、温厚なテオドールがここまで怒りを露わにすることは皆無に等しい。
しかし待ち侘びたご馳走を奪われたことで、ダンジョン勢力時代の狂暴な顔が出てしまっていた。
すっかり日本に馴染んだことで、この辺りの逆鱗も日本人と同じになっているようだ。
「おー怖……」
食い物の恨みは恐ろしいと、氷見が再認識。
せめて、例の切り札があればと思った矢先––––
「おっ! 見つけた。怪我は無いか? テオ、ベルセリオン。あと公安の方々」
ふと大通りを見れば、群衆を割って突っ込んで来た大型トレーラーから声が掛けられる。
運転席でブレーキをかけたのは、新海透だった。
「あっ、透!」
「衿華まで……、っていうか何その車両?」
路地から出ながら、目を丸くする執行者。
そんな彼女たちへ、助手席から飛び降りた四条がすかさず告げた。
「すみません2人共! 時間が無いので端的に言います。今から”空を飛んで”ください!」
その言葉と同時に、トレーラー後部へ掛けられていたシートが払われた。
姿を見せたのは、第3エリアでエルフが運用していた古代兵器––––『魔導スーツ』だった。
「ほえ……?」
「ふえ……?」
全く整理できない状況。
突然名指しされた執行者姉妹は、揃って首をかしげた。




