第352話・食い倒れ最終ツアーです
再出発した透と四条が戦線に復帰した頃。
真島率いる食い倒れ組は、徒歩で銀座を歩いていた。
目的地はもちろん、今回の外出の目玉である––––ラーメンだ。
「真島、これからオススメのラーメン屋さんに連れてってくれるんですよね?」
隣を歩く執行者テオドールが、ウキウキとした表情で聞いた。
「あぁ、正直俺でもどれにしようか悩んだんだが……やはり東京なら、醤油ラーメンが一番手堅い」
「お店のラーメンを食べたいとは言いましたが、実はインスタント以外あまり知識が無いのです。具体的にはどの辺りが違うのでしょう?」
「まぁ、全部だな」
「雑すぎます、もっと情報が欲しいです」
フードの中で銀髪を揺らしながら質問する少女。
真島的には百聞は一見に如かず、食った方が早いと思ったが……ここは同じ食通の同志。
事前情報くらいは教えようと思案。
「––––ラーメンは基本的に地方によって美味い味が違うんだ、有名どころを上げるなら……九州は豚骨、北海道が味噌。マイナーだが福井なんかの北陸地方でも、独自のラーメン文化がある」
「へぇー。日本って1つの国なのに、大陸並みに文化が分かれてるわね」
ベルセリオンの感嘆した声に、気を良くした真島が続けた。
「元々ラーメンは戦後、貧しかった日本人が創意工夫して改良を続け……現在の大衆料理に至った経緯がある。具体的には、80年代にタレと鶏ガラを使った日本式ラーメンの基礎が確立。2000年代からは重層的な味わいを重視した、スープメインのラーメンへと変わった」
「重層的……?」
「要は複数の出汁を組み合わせて、複雑な味わいと多様性を生んだんだ。これは現在まで続くラーメンブームの火付け役であると同時に、海外展開まで行われた革新的なイノベーションだ。台湾なんかでは日式拉麺なんて呼ばれてたな」
言われてみれば、インスタントでも銘柄がたくさんあったなと2人は思い出す。
あれも全国各地の名物ラーメンを再現したものであり、ラーメンというのは実に多様性に満ちた料理であると理解。
「ふぅむ……なるほど、じゃあ真島の理屈でいくと、東京は醤油ラーメンが美味しいのですね?」
「ピンキリだがな。2000年代に世間を席巻したいわゆるニューウェイブ系と呼ばれるラーメンなんかは、現代でもさらに進化してる。今回お前らに食わせるのは、現代人に最適化されたものだから、楽しめるはずだ」
隣で聞いていた氷見は、正直興味が無かったので「業務用スープとそんな変わんなくないですか?」と発言。
真島の鉄拳を食らった。
そんなラーメン談義をしていると、いよいよ目的地まであと僅かとなった。
目の前に迫るラーメンに、2人の執行者の顔がワクワクで満ちる。
後は〆をここで決めて、今回の休暇も無事終了––––
「ん? なんでしょう……アレ」
するはずだった……。
タンコブを押さえながら上空を見上げた氷見の視界には、空一色。
問題は、青色で満ちたそれらの中から……”眩い光”が放射されたこと。
同時に、テオドールとベルセリオンがフードを捨てる勢いで脱いだ。
「お姉ちゃん!!!」
「わかってる!!!!」
2人の髪が魔力で輝く。
ほぼ同じく、光の中から”誘導爆弾”が数発投下された。
「伏せろ!! 氷見!!」
真島が氷見の上へ覆いかぶさる。
落下してきた誘導爆弾は、近くの道路へまっすぐ落下していた。
「『ショック・カノン』!!!」
「『空裂破断』!!!」
執行者2人が、魔法を発動。
放たれた魔力エネルギーが、上空の爆弾を撃ち落とす。
「きゃああ!!」
「なんだ!?」
「爆発したぞ!!!」
突然のことにパニックとなる群衆。
テオドールが見上げた先から、それは現れた。
「そんな……、まさかこんな規模で……?」
絶句する彼女の上空で、中国人民解放軍の”J-15”戦闘機が突如ワープしてきた。
その数、東京都だけで実に30機。
さらに郊外まで含めると、防空識別圏を飛び越えて、計80機以上の中国軍戦闘機が転移魔法によって日本上空を覆った。
関東圏にジェットエンジンの轟音が鳴り渡る中、中国大使館内で林少佐は80インチモニターを眺めていた。
「さて、どう出る……? 自衛隊」




