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第343話・狂犬の本気

 

 ヘリが爆散する様子は、階段を登っていた久里浜にもしっかり見えていた。

 機体が木っ端みじんに吹っ飛び、燃え盛った残骸が近くのビルへ激突。

 そのまま大爆発を起こした……。


 幸いにも封鎖区画内のビルは無人、パイロット以外に被害は無いとわかっていたが……。


「……不愉快ね」


 忘れがちだが、久里浜にも愛国心というものはある。

 他人様の首都で、こうも派手に暴れまわられれば……自衛官として怒りが湧いてくるのも必然。

 殺されたパイロットは闇バイトで雇われた捨て駒だろうが、やはり気持ちのいいものでは無かった。


「民生のヘリならおそらく降りたのは多くて6人、予想通りならこっちが本命ね」


 銃のグリップを握る手に、力がこもる。

 そう、彼女はあえて危険度の高い精鋭の相手を、坂本ではなく自分で行おうとしていた。

 恋人の実力を疑っているわけではないが、特殊部隊の相手は同じ特殊部隊でないと釣り合わない。


 たとえ重傷を負おうとも……いやむしろ、坂本を危険から遠ざけたかった結果だ。

 それだけ、今回襲ってきた敵は手ごわいと予想していた。


「思い出せ、先輩たちと行った訓練を……! 思い出せ、スペツナズの基本ドクトリンを、必死に叩き込んだ資料を!」


 息を切らし……なんとか15階に到達。

 既にお気に入りのセーターとショートパンツは煤まみれで、疲労から真夏のような汗をかいている。

 極力音を立てずに曲がり角をピークした瞬間だった。


 ––––パパスッ––––!!!


「あっぶ!!?」


 ミリ秒単位の差で、久里浜の顔面の近くを弾丸が横切った。

 間一髪だったが、相手からすれば初撃で仕留め損なったことは痛い損失。

 引き換えに、久里浜は大量の情報を手に入れた。


 ––––超高速2点バースト……、撃ってきたのはAN-94で確定。サプレッサーが付いてたから取り回しは悪いはず、先手を取って来たことから最低2眼、最悪4眼のナイトビジョンは装備してる。ならすべきことは1つ。


 掛けられた思考時間、なんと僅か0.003秒。

 もはや思考ではなく、感覚で動いた彼女は素早く手元のHK416A5を持ち上げた。


 ––––ダンダンダンッ––––!!!


 移動しつつ発砲。

 この15階は建設が途中で放置されていたのか、太いコンクリート製の支柱のみで構成された広い空間。

 逃げ場は無いが、逆に言えば––––


「全員ぶっ殺す」


 久里浜千華という近接戦闘大好き人間にとって、最高のバトルフィールドだった。

 小柄な体躯で機動する彼女に、ザイツェフ大尉はナイトビジョン越しで発砲。

 2点バーストで軽快に射撃するが––––


「チッ」


 当たらない。

 久里浜も特戦時代には、高価な4眼ナイトビジョンを使うことが多かった。

 NVは暗所でも昼間のような視界を得られるが、同時にデメリットも大きい。


「その2眼NV、アリエクとかで仕入れたわけ?」


「ッ!!?」


 柱を盾にした久里浜が、まず端にいたロシア人へ肉薄。

 2眼NVの限られた視野角の隙間に入り込み、HK416A5を棒術のように使用。

 ストックで相手の持っていたライフルを弾き飛ばすと、弾の節約も兼ねて強烈な回し蹴りを顔面へ放った。


「ごあッ!?」


 押し込まれたナイトビジョンが眼球を潰す。

 生じた隙を見逃さず、久里浜は悶える敵の腰にあったホルスターから『MP443』自動拳銃を奪った。

 ハンマーが落ちていることはわかっていたので、防弾保護がされていない首へ3発撃ち込んだ。


 この間、彼女は体格の大きい敵を盾にしていたこともあり、カバーする隙間を完全に潰していた。


「まず1人!」


「クソガキが!!」


 ようやく側面に回った兵士が発砲するが––––


「待て! 罠だ!!」


 ザイツェフ大尉が叫ぶも、遅かった。


「おっも」


 久里浜は殺したロシア兵の死体を盾として使用。

 放たれた5.45ミリAP弾をアッサリ防いだ。


「肉の壁戦術は、なにもアンタたちの専売特許じゃないってことよ」


 腕と脇の間から、HK416A5を発砲。

 カバーに入った敵を、立て続けに2人射殺した。


 ––––あと3人!


 戦闘は久里浜が有利。

 だが油断はできなかった。


「ハァッ、ハァッ……!」


 朝から苛烈な追跡を休みなしで逃れ続けた上、ここまでずっと連戦続き……彼女の体力は既に限界だった。

 今動けているのは、アドレナリンと坂本に近づけさせないという意思の賜物と言って良い。


 こんなコンディションでロシア特殊部隊を相手するのは、さすがに容易ではなかった。


「あと2マグ……!」


 ––––ダダダダダダッ––––!!


 盾が機能している内に、左右から射撃していた兵士2人を射殺。

 同時に、死体の着ていた防弾アーマーが限界を迎えた。


「あと1人……!!」


 肉盾を捨てた久里浜、そしてザイツェフが一騎打ちを開始する。

 両者は部屋を走りながら発砲。


 互いの練度は全くの互角。

 将棋の竜王も真っ青な読み合いが行われる中、1つの柱がその疾走を止めた。


「「ッ!!」」


 互いが隠れた瞬間、同じタイミングで肉薄を決断。

 結果として、至近距離からお互いに銃を向け合った。


 あれほどうるさかった銃声が鳴き止み、両者がピタリと睨み合う。


「驚いたな……こんなガキに俺の部隊は壊滅させられたのか」


「はっ、島国根性を舐めんじゃないわよ……!」


 一瞬のやり取りの後、2人の銃口から発砲炎(マズルフラッシュ)が瞬いた。

リアクションとかも結構見てます

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― 新着の感想 ―
闇バイト扱いされるマスゴミくんに爆笑を禁じ得ない。 ホンマ、何度この国に仕掛けて壊滅してんのかって話ですよピロシキ。
日本に来た以上、 四肢の一つや4つ、いや 全身を無くして貰おうか
某宇宙刑事が蒸着するより早い、だとっ!
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