第339話・執行者、資本主義に屈する
少女に快楽を教え込む悪い大人たち
新宿方面へ逃げた坂本&久里浜を見送った4人は、再び車両に乗車。
下道でのんびりと目的地へ向かう。
秋の東京は一見すると穏やかで、青空の下……半端ではない数の車がタイヤを回していた。
これら全てが、関東という世界最大クラスの経済圏を動かしているのだ。
「おい氷見、その録画してるやつ……今度公開するんだよな?」
清潔に掃除された運転席でハンドルを握った真島が、ふと隣を見た。
「はい、新海透からの頼みでして……。あっ、最新の機種なんで画質超良いですよ?」
「違うわボケ。さっきの反社潰し発言……、公開されたらヤバいって話だ」
「ご心配なく係長、不味い部分は切り取るなりピー音を入れるなりで誤魔化せます。今までオールドメディアがやってきた事をお返しするだけです」
「なら良いが……」
車は代々木に入ると、1つの店の近くにある駐車場で停まった。
秋風と群衆を抜けると、目に入ったのは––––
「ここは……、ハンバーガー店?」
銀色の前髪の奥で、これまた金色の目をパチクリさせるテオドール。
実はこの執行者姉妹、今までハンバーガーというものを食べたことが無かった。
「もし勉だったら大手のチェーンに連れてっただろうが……、お前らは”わかってる”人間だしな。俺のおススメの物を食わせてやるよ」
「すっごく良い匂い……、は、早く食べたい……!」
涎を垂らしかけたベルセリオンを見て、真島は早速注文を取った。
幸いにも混んでおらず、商品をスムーズにゲット。
机で待っていた一同の前に、それは置かれた。
「ほえ!? こ、これがハンバーガー……!? まるで第2エリアのラビリンスタワーみたいです」
驚くのも無理はない。
なんせ皿に乗せられていたのは、某ビッグなんちゃらも驚愕するほどに高く積まれたハンバーガーだったからだ。
なんとその陣容、フワフワのバンズに”5枚”の肉とチーズが交互に挟まれた、ハイパー高カロリー兵器。
しかもパティは不揃いながらも非常に分厚く、大量のチーズもしっかり溶けている。
オリジナル製法のケチャップも相まって、執行者姉妹は完全に魅了された。
「こ、こんな……! こんなにお肉とチーズを使うなんて……ゆ、許されるんですか?」
「あぁ、ダンジョン時代は苦労したと聞いてる……気にするな。日本では誰でもこういう飯が食える」
「ッ……!!」
あまりのインパクトに押し黙る2人。
肉もチーズも貴重品だったダンジョン時代からすれば、こんな食事ありえなかった。
これが日本のパワー、世界トップクラスの資本主義の力。
もはや考える思考を失った2人は、豪快に紙の上から掴むと––––
「「はむっ!!!」」
思い切りかじりついた。
真島と氷見が、不敵に笑う。
「「ッ!!!!!!???」」
襲って来たのは罪の味。
深夜カップ麺に似ているが、全く別種の旨味の暴力。
肉汁、チーズ、ケチャップ。そしてそれらを包括するバンズ。
全てが口の中で混ざり合い、お子様の未成熟な舌をぶっ壊した。
「ほ、ほえぇ………………」
「ふぇー………………ッ」
資本主義に、異世界の執行者が屈した瞬間である。
「よっしゃあ! 鳴いたぁ!!」
撮影担当の氷見が、片手でガッツポーズした。
彼女はもう隠す意味も無いが、大の執行者推し。
業務の間にこっそり配信を見ては、仕事のモチベを上げているほど。
今までスマホ越しでしか拝めなかった異世界人の笑顔に、こちらも屈していた。
「ほえぇ! な、なんですかこれは……!! こんなにジャンキーな食べ物が存在していたなんて……」
「ふぇー!」
思わず感嘆するテオドール。
海鮮丼の時からそうだったが、ベルセリオンに至っては完全に語彙が消滅していた。
それもそうだろう、成長期真っ只中の子どもが食べるにはあまりに手頃。
齧った先でチーズがほどけ、重厚なお肉と混ざり、舌の上でダンスするのだ。
トドメにスパイシーなケチャップが加えられ、その旨味成分を構成するグルタミン酸との相性は抜群。
「はむっ! むぐっ…………むふぅっ」
「モグモグ……、ふええ………………!」
目論み通りの結果に、真島も腕を組んで満足。
氷見に至っては、姉妹の食事風景をとろけ顔で眺めていた。
「係長、これが”推し”という概念です。この子たちのためなら私……余裕で銃弾に突っ込めます」
「…………」
本当に幸せそうにハンバーガーを頬張る執行者たちを見て、真島の顔もほころぶ。
「まっ、わからんでもないな」
幸せで満たされた食い倒れメンバーが食事をするテラス、その前を––––
「おっ、衿華! 水着売ってるとこあったぞ!」
「ようやく見つけましたね、わざわざ代々木まで来た甲斐がありました。これで第4エリアの備品は揃いそうですね」
世界で一番有名なリア充、透&四条が横切った。




