第33話・偵察隊の意地
ラビリンス・タワー内部へ最初に侵入したのは、偵察用オートバイに乗った隊員2名だった。
安心と信頼の国産バイクが唸りを上げる中、内部を偵察した隊員は思わず面食らう。
「驚いたな……、ここまで外観と中身が一致しないとは」
外から見た限りでは、このラビリンス・タワーの内部をどうやってバイクで駆けるんだと思った。
しかし、今彼らの前に広がっているのはあまりに異質な光景。
巨大な通路と、一定間隔で入り込む庭園のような空間。
何より、それらは全てがコケや植物などで深く浸食されているのだ。
あちこちに木まで生えているのだから、正気を失いそうになる。
「––––知ってるか、アダムとイブの話」
隣を走る隊員が、無線で話し掛けて来た。
唐突な問いに、思わず普通に返事をしてしまう。
「アダムとイブって……、アレですよね? 聖書に出てくる楽園を追放されたっていう」
「そうだ、俺はこのダンジョンがどうにも胡散臭くてたまんねぇ。こんな物は普通存在できない、言うならば––––神の所業だ」
「まさか、ダンジョンが神の造った物とでも?」
「それはわからねぇ、だがこんな異常事態だ……俺たちの築いた人類史より、聖書とかの方にヒントがあると思わないか?」
壁を見れば、絶えず紋様が描かれている。
一見バラバラのように見えるそれは、ちゃんと1つのモチーフを守っていた。
そう––––“ヘビ”だ。
アダムとイブに、知恵の実を食べるようそそのかした怪物。
まさかと思ったところで、正面の噴水広場に何かがいた。
「クソっ! 止まれ!!」
通路の途中でバイクを止めて、そのまま伏せる。
20式ライフルを即座に構え、バイクを盾代わりにして奥を見つめた。
「なんだありゃ……!」
小銃に付いたショートスコープを、最大でズーム。
そこには、白い霧状の人型が何体も佇んでいた。
顔にはモザイクのようなものが掛かっており、30万円するスコープですらよく見えない。
だが––––
「ッ!!」
その内の1体と、明らかに“目が合った”。
モザイク画の奥のはずなのに、確かに感覚を持ったのだ。
「撃てッ!!」
セミオートで発砲を開始。
飛翔した5.56ミリNATO弾は、霧状の人型を霧散させた。
それでも、彼らは射撃をやめなかった。
何故なら、広がった霧が再集合して同じ形へ戻ったからだ。
そこへさらに異常が起こる。
モザイク部分が激しく動き、不気味に流動したのだ。
それに合わせて、顔部分に赤色の魔法陣が浮かぶ。
「バイクに乗れ!! 足を失ったら終わりだぞ!!」
すぐさま射撃しつつバイクを起こす。
小銃を担ぎ、2人がアクセルを開けた瞬間だった。
「ぐぅッ!?」
隊員の1人が、ふくらはぎへ熱線を受けた。
迷彩服が、赤色に染まる。
音を立てて倒れた。
これではもう、入り組んだダンジョン内を高速で走れない。
「ッ……!! 行ってください! 俺には構わず! 早く!!」
「ふざけんな!! 無謀と勇敢は違う! 諦めるんじゃねぇ!!」
怒鳴る隊員に、負傷した彼は再びバイクを盾にしながら銃を構えた。
「いいえ、ここで死ぬつもりはありません。先輩の弾薬をありったけ置いて行ってください。俺たちは斥候……必ず先輩が本隊を連れて戻ってくると信じています」
「ッ…………!!」
先輩と呼ばれた隊員は、自らの持つ全てのマガジンと手榴弾を彼の傍へ置いた。
発砲が続く中、熱線が食い止められている隙にバイクをふかす。
「必ず戻る」
「えぇ、それまで射的をやって遊んでますよ。こんなの小学生以来だ……」
「弾薬は好きなだけ使え! 景品は俺たちが来るまで取り放題だからよ!!」
「それは結構! 楽しんでおきます!!」
銃声を背に、隊員は全速でバイクを飛ばした。
道は全て暗記しており、タワーを出るまで10分も掛からなかった。
外に出た先で、すぐさま透と中本1尉に報告。
彼らの行動は異常に早かった。
「四条、坂本、久里浜––––中で射的をしている隊員がいるらしい、見せに行こうぜ。俺たちの方がよっぽど上手いことをな」
配信のスタートと同時に、フル装備の本隊35名が全速力でタワーへ突入して行った。
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