第329話・第4エリア攻略会議
「っというわけで、第4エリア攻略作戦の会議をしまーす!!」
小会議室に集められた第1特務小隊の面々は、相変わらずハイテンションな錠前にいきなりそんなことを言われた。
なので、当然であるが状況が全く飲み込めない。
「第4エリア……1佐はこないだ、海の向こうって言ってましたよね? アレは結局どういう意味だったんですか?」
長机に座った透が、グーで挙手して質問。
真隣に腰を下ろす四条も、コクコクと頷いていた。
「良い質問だ新海、言葉より見てもらった方が早い」
そう錠前が言うと、なにやら視線で奥に合図を送った。
同時に、坂本が手元のリモコンを操作。
音を立ててスクリーンが天井から降りてきた。
「その演出いります……?」
「もちろん、ブリーフィングイベには必須でしょ……。むしろ新海はもっとユーモアを持った方が良い。なんならこのグッドルッキングガイ錠前勉が––––」
「そういうのいいんで、早く教えてください」
古今東西、錠前相手にここまでドライな態度が取れるのはおそらく透だけだろう。
「はいはい」とつぶやいた上官は、スクリーンに画面を映した。
そこに現れたのは、想像通り……しかし予想以上のものだった。
「まるで沖縄あたりの海みたいですね……」
感嘆した様子の四条が一言。
そこに映っていたのは、まさに無限大とも言えるような蒼空と大海原だった。
さらに言えば、画面中央に”島”が見える。
「これ……どこの風景ですか?」
透の疑問に、錠前がすぐさま答えた。
「第3エリアから150キロ進んだ場所に、文字通りこの海が発見された。前の襲撃の時に辿った痕跡を……UAV(無人機)で探らせたんだよ」
「とても信じられませんね……、まさかダンジョンの中に海があるなんて」
そう透が言っていると、島がズームされる。
形は絵本であるような丸いものではなく、東西に伸びたバナナのような島。
それでもかなりの面積があり、広大な森や山を備えていた。
上空から見る限り、沖縄本島でも見ているような気分だ。
「これが第4エリア……、しかしこれでは陸上戦力が送れませんね」
唸る四条。
まったくその通りで、ダンジョンに軍艦など持ってこれない。
っとなれば、ヘリやボートで近づくしかない。
これまでのような、戦車や自走砲を用いた攻略なんてできないと思ったが……。
「そのことなんだけどさ、今回向かう戦力はもう統幕に提出しちゃってるんだよね」
「はい!?」
前のめりになった透と四条に、錠前は笑みを見せた。
「大部隊は無理ってわかってるからさ、第4エリアは少数精鋭で攻略するんだよ。メンバーは新海と四条2曹、坂本3曹に久里浜士長。それからテオドールくんとベルセリオンくん。最後に僕だ」
「……マジっすか?」
「僕はいつだって大マジだよ、っというわけで––––」
グッと親指を立てた錠前は、最高の笑顔で喋る。
「みんな、水着用意してきてね!」
「すみません、意味がわからないです」
「察しが悪いぜ新海、じゃあここを見てごらん」
言われた場所をよく見ると、長く伸びた”砂浜”が映っていた。
「僕はさ……沖縄旅行の不完全燃焼感を、ずっと引きずってるんだよね。年に一度の休暇をダンマス君に潰されたんだよ」
「して、その心は?」
「なら遊ぶでしょ! せっかくのビーチだよ? バーベキューとか花火で配信も大盛り上がり間違いなし。さらにダンジョン攻略も進んで一石三鳥って算段さ」
一見ふざけているように聞こえるが、よく考えればその真意も見えてくる。
まず大部隊は無理、っとなればダンジョンで一番柔軟性の高い部隊は第1特務小隊しかいない。
そして、ただ攻略するだけが透たちの任務ではなかった。
配信を通じて、自軍の圧倒的な有利と快進撃の様子を、国民に見せなければならない。
プロパガンダと言えばそれまでだが、錠前はバカを言っているようで、案自体はかなりマトモだった。
「水着……、学生時代に買って以来全然でしたね……」
隣で四条が真剣に熟考している。
どうやら、錠前の提案に乗るようだった。
っというより、統幕が既に承認してしまっているので、どのみち選択の余地は無い。
「それじゃあ各自! 水着とバーベキュー、ライフルの準備をするように……って、言いたいところなんだけどさ……」
声を低くした錠前が、ようやく全員が疑問に思っていたことを口に出した。
「久里浜士長はどこで遊んでんの?」
そう、なぜか小隊ミーティングに久里浜がいないのだ。
予定は予め伝えられていたので、もしかすると何かあったのかもしれない。
「坂本3曹、LINE打って」
「あー……、了解っす」
10秒ほどして、返信が来た。
「まだ女子寮にいるみたいです」
「僕のミーティングをすっぽかすとは良い度胸だ、坂本3曹に念のため聞くが……彼女さんが悲鳴を上げる光景は許されるかな?」
「別に大丈夫っす、アイツ最近慢心が酷いんで1佐が絞めてくれるなら僕も安心です」
「決まりだ、全員で女子寮に突入用意。許可は僕が出す」
言うが早いか、スクリーンの片づけをする錠前を一旦置いて、3人が先に久里浜のいる部屋へ至急向かった。
距離が近いこともあり、特に問題なく着いたのだが––––
「ほええぇぇぇえええええ!!!! 誰かぁ、助けてくださいぃいー!!!」
部屋の中から、執行者テオドールの悲鳴が聞こえてきた。




