第326話・ほえふえ深夜ラーメン
執行者2人が、こっそり深夜ラーメンを食べている。
そんな疑念を抱いたのは、まだ第1エリアが結界で覆われている頃だ。
テオドールとベルセリオンは転移魔法が使えるので、駐屯地のあちこちの部屋に出没するのが最近では当たり前になっている。
なので、行く先々で自衛官からお菓子や諸々をもらっていた。
なのになぜラーメンかと言うと、最近……透は寝ている時にラーメンを食べる夢を見るようになったのだ。
最初は偶然か気のせいかと思ったが、食堂で四条と一緒にご飯を食べていた時だ。
「えっ、透さんもラーメンの夢を?」
なんと、全く同じタイミングで彼女もラーメンの夢を見ていたと言うのだ。
疑念が確信に変わる。
マスターと眷属の間では、若干のテレパシーが確立している。
おそらく、自分が寝ている間に2人がラーメンを食べていると悟った。
しかし証拠は無い。
本人たちに問い詰めても、まずしらばっくれるだろう。
なので、透は直近でテオドールが転移していた部屋の2等陸士を何人か絞めた。
その結果、彼らが2人にカップラーメンをあげていたことが判明。
彼女らが本気で索敵する時は赤外線域で探るのは知っていたので、錠前に頼んでギリースーツを調達。
その甲斐あって、こうして現場を押さえることに成功した。
「こっちに気づいてませんけど、声掛けに行きますか?」
同じくギリースーツを着込み、隠れながら小声で言う坂本に、透はポケットをごそごそ弄りながら返す。
「親に隠れて深夜にカップ麺食うとか、俺らもよくやってただろ。カロリー管理は大事だけど……そこまで束縛するのは俺の方針じゃない」
「まぁ確かに、僕も高校時代はしょっちゅう徹夜しながら、ラーメン食ってゲームしてましたね」
「だろ? そもそも最初に教えたのに後で心配になって、結局禁止にした俺の落ち度でもある。見た感じたまにしかやってないみたいだし……ここは大目に見ようと思う」
そう言って、スマホの電源を入れた。
「まっ、タダでは帰らんがな」
映し出されたのは、配信の画面だった。
既にタイトルと枠の予約が取られており、題名は。
【魔法少女の深夜ラーメン、観察してみた】。
っというもの。
「錠前1佐にインプレッションを上げるよう言われてるからな、見逃す代わりに配信させてもらう」
「でもここからじゃ映しにくいんじゃないっすか? それに声も聞こえません」
「エリカに頼んで暗所用のカメラと、指向性マイクを借りた。既にカメラは正面の棚に隠し置きしてあるから……あとはスマホで起動するだけ」
「さすが隊長」
無線イヤホンを着けて、リンクさせたマイクを2人に向けた。
どうやら、お湯を入れてちょうど3分が経ったらしい。
良いタイミングだ。
透は配信を開始した。
「お姉ちゃん、出来上がったよ」
「フフッ、楽しみね……」
さすがは20万円超えの国産指向性マイク。
2人の声が、ばっちり聞こえた。
【ほえふえキター!!】
【深夜ラーメンかぁ、さすが若いなぁ】
【これ隠し撮りか? よく魔法少女相手にバレずにやるな】
【自衛官の練度を舐めない方が良い、特にこの小隊はな】
同接数は一瞬で5000万を突破。
相変わらず異次元な数字だが、透は最近もう慣れてしまっていた。
そして、いよいよ2人がカップ麺に手をつけた。
「では、いただきます」
「いただきまーす」
【誰もいないと思ってるのにちゃんと言えて偉い】
【すっかり日本に染まっちゃって】
姉妹仲良く、同時にラーメンをすすった。
麺の最後尾がチュルンと吸い込まれ、ゆっくり咀嚼。
そして––––
「ほえぇ……」
「ふええ……!」
鳴いた。
【よっし!! 鳴いたああぁぁぁあ!!!】
【顔がとろけてるwww】
【最高に高いカメラで、ほえふえを眺める……これ以上の贅沢は無いだろう】
【防衛戦頑張ったもんね、いっぱいお食べ】
やはり世界のアイドル。
コメント欄の反応は、大変良いものだった。
「豚骨の風味がガツンと効いて、すごく美味しいです~」
「むはぁ~……、煮干しの香りがたまらないわねぇ」
2人の執行者は、無我夢中で麺をすすった。
その姿は見ているこっちまでお腹が空くものであり、大変美味しそうに食べている。
長い銀髪をかき上げ、チャーシューを齧るテオドール。
「むふふぅ……、美味しいですぅ」
至極の笑顔が、視聴者をぶち抜いた。
【俺はここまでのようだ、最期に最高の光景が見れて良かったぜ】
【駄目だ我慢できん!! コンビニ行ってくる!!】
【もう僕もカップ麺開けるしか無くなっちゃったよ……】
10分ほどで食べ終わった2人は、スープまでキッチリ完食。
ゴミを持ってから、転移していった。
同時に、透も配信を終了。
「最大同接数1億……、やっぱとんでもない人気だな」
この日、日本中の棚からカップ麺が消えた……。
深夜に昼間並みの人間が殺到したことで、24時間営業の各コンビニは在庫分を含めて緊急放出を行うなど、相変わらずその影響と経済効果は凄まじかった。
成長期だからね、こっちが驚くぐらいたくさん食べてもらった方が安心できますよね




