第325話・秘密の時間
新章です、対戦よろしくお願いします
––––2025年、10月3日。
ユグドラシル駐屯地防衛戦から、約2日が経った。
基地自体に被害は無かったものの、第1エリアは全域に渡って酷く損壊した。
このままではゲートからの物資輸送に障害が出るおそれがあったので、現在は施設科の部隊が全力で瓦礫を撤去している。
また、幽霊対策だった結界の再展開については現在保留となっていた。
理由は2つあり、1つは今回のような奇襲をまた許す恐れがあったからだ。
結界は特定の電磁波を除いた、可視光線や赤外線なども遮断してしまうため、今回のように軍団規模の戦力が隣にいても気づけない。
もう1つは錠前が力を取り戻したことで、簡易だが幽霊対策の処置を施せたからだ。
前回の結界は必要なものまで遮断する力技だったが、現代最強たる男であればより上位の対策が可能だった。
なので、現在は日本本土との往来が復活している。
消費した弾薬は即座にダンジョンへ搬入され、代わりの物はアメリカ本土から次々と送られてきていた。
現在の自衛隊は、米軍の弾薬庫を好きなだけ使用できる状態となっているので、まず消耗戦で負ける可能性は億に一つもありえない。
そんなユグドラシル駐屯地で、2人の少女が部屋に集っていた。
「……みんな寝静まったようね、後起きてるのは当直の警備といつもの小隊くらいかしら」
時刻は夜の12時過ぎ……。
パジャマ姿で髪を下ろしたベルセリオンが、扉から引き返してきた。
髪と同じ水色をした、柔らかい生地の長袖と長ズボン。
スリッパは、四条に買ってもらった少し高いものを履いている。
「四条や久里浜はどうですか?」
同じく寝間着のテオドールが、ベッドに座りながら聞く。
こちらは長袖のカーディガンを羽織り、下はいつものショートパンツという恰好。
スリッパは、透に貰ったキャラ物だ。
「あそこは別ね、今日も寝ずに編集作業? とか言うのをやってるわ。さっき覗いたら、エリカにしごかれてる久里浜千華の泣き言が聞こえてきた」
「またですか」
壁に耳を当ててみると、確かに声が聞こえてきた。
「四条先輩~! 今日は寝かせてくださいよぉ、2徹はさすがに訓練以外でやりたくないですよぉ!」
「そうは言っても、錠前1佐からこないだあった防衛戦の動画を、早くアップしろと催促が来てるんです。今夜中にドイツ語とイタリア語の翻訳をお願いします。わたしは英語を担当しますから」
「お、鬼……? 先輩はこんな可愛い後輩を痛めつけるんですか……?」
「残念ながら自衛隊は国営のブラックです、恨み言は1佐にお願いします」
壁から耳を離す。
どうやら、第1特務小隊は修羅場を迎えているようだった。
彼らは人外魔境な錠前の部下なので、他の自衛官の数倍は稼働している。
「秋山が任官拒否? っとか言うのをしたのもわかるわね……アレの部下は常人じゃ多分務まらない」
っと、そんな大人組たちの様子を確認した2人は、ニッと笑った。
「フフフ、じゃあ始めよっか。お姉ちゃん」
「オッケー」
悪い笑みを浮かべたテオドールが、引き出しから出したのは”カップ麺”だった。
【特盛! チャーシューたっぷり特濃豚骨ラーメン】
【芳醇、煮干し風味のアッサリ醤油ラーメン】
っと描かれた、いかにもハイカロリーなインスタント食品。
「では行きましょう」
外用の靴へ履き替える。
瞬間、2人は転移魔法で真っ暗な食堂へ移動。
暗い空間を魔法によって赤外線域でスキャン……誰もいないことを確認してから、ラーメンを机に置いた。
「むふふー、久しぶりの深夜ラーメン……楽しみですね」
「バレたらどれだけ怒られるかしらねー」
「その背徳感が良いのです、ここなら匂いでバレたりしませんしね。師匠は今日錠前に用があるらしいので今度誘いましょう」
そう、この執行者2人はマスターによって禁じられている”深夜ラーメン”を頂こうとしていたのだ。
別に食事が足りていないわけではない。
単純に、夜遅く食べるカップ麺にハマってしまっているのだ。
発端は結界による隔離生活の最中。
以前、透によって食べさせられた深夜ラーメンの味が忘れられなかったテオドールは、他の自衛官たちからこっそりお裾分けしてもらったインスタント麺を貯蔵。
頑張った後などの時に、こっそりマスターに隠れて食べていたのだ。
「ヤカンに水入れたわよ」
「了解です」
こんなところに電気ケトルなどは当然無い。
なので、テオドールはヤカンの底へ手を当てた。
「ほい」
炎属性魔法を発動し、高熱で一気に水を温めていく。
2分もすれば、中の水が沸騰した。
「お姉ちゃんは今日どっち食べる?」
「サッパリ系が良いわね、煮干しの方をもらうわ」
「じゃあわたしが豚骨を頂きます」
そんな、ほえほえふえふえした空間を……。
「良いんすか隊長、カロリー管理結構厳密でしたよね?」
「まぁ、そうだな」
マスターである新海透と部下の坂本が、対赤外線加工の施されたギリースーツを着て、陰からこっそり見ていた。




