第324話・復活の号砲
エンデュミオンの胸から、ナイフを抜いた。
「お前の負けだ」
勝敗は決した……。
敵はその場で膝をつき、喉から溢れ出す己の血で溺れていた。
「クッソ……がぁ!!! ゴフッ……!!」
嗚咽混じりの、怨嗟にまみれた声を漏らす。
本当ならここで殺してしまいたいが、もしそれが原因でダンジョンが東京湾に落ちたら最悪なので、一旦保留にする。
結束バンドで拘束しようかと思った矢先、……“それ”は起きた。
「なっ!?」
上空に、突如として巨大な穴が出現。
とてつもない勢いで、何かを吸引しているようだった。
その対象は、すぐにわかる。
「きゃっ!?」
四条の身体が浮かび上がる。
だが、周囲の建造物や瓦礫は、なんの影響も受けていない。
あの穴は、魔力を持った者を対象に猛烈な勢いで吸い込んでいるのだ。
「四条!!」
宙に浮いた恋人へ向かってジャンプし、手を掴み間一髪で引き留めることに成功。
また、透自身も凄まじい引力によって引っ張られていた。
「やっぱし魔力を吸い込んでるのか……!」
見れば、瀕死のエンデュミオンが穴へ吸い込まれて行くのが映った。
どうすることもできないまま、透は見逃すことしかできない。
「マジかよ……」
それだけではない。
遥か後方にいたはずの敵軍団までもが、その引力によって吹っ飛んできたのだ。
ワイバーンから歩兵、挙句はウロボロスがまとめて吸い込まれていく。
「透さん! これ、結構ヤバいです!!」
「わかってる!! 絶対に手離すなよ!!」
必死で家屋を掴み、引力に抗う。
まるで、上空に突然ブラックホールが現れたかのようだ。
敵軍団が1体残らず吸い込まれてもなお、その勢いが止まることは無い。
––––天使、いや……それ以上の“何か”がやっている!
「ッ……」
ドンドン腕が痺れてくる。
この分では、後方に下がったテオドールやベルセリオンすらヤバい。
全員飲み込まれる……!!
どうする、何をどうやったらこの状況から脱出できる!!
考えろ! 考えろ考えろ考えろ!!! 一体、どうすれば……!!
このままじゃ、みんなあの穴に吸い込まれて––––
「みんな、頼もしくなったね」
「「えっ…………!?」」
降ってきたのは、聞き慣れた上官の声。
ふと上を見れば、屋根に立っていたのは……”現代最強の自衛官”。
「やっ」
––––錠前1佐だった。
当惑する透と四条の前で、錠前は自身も受けているはずの引力など全く気にせず、サングラスに手を掛けた。
「最後の詰めがちょっと甘かったけど……」
サングラスが上げられると、紅く輝く“魔眼”が姿を現した。
「まっ、合格点かな」
女子ウケの良い顔でそう言った錠前は、全身から呆れるほどの出力で魔力を引き出しながら、構えを取った。
彼––––錠前勉の焼き切れていた魔眼は、“既に回復”している。
「暁天一閃––––『極ノ弾』」
放たれたのは、以前に新宿から渋谷を真っ二つに引き裂いた最終奥義。
超高速で撃ち出された極超高密度の火球が、引力の発生源たる穴を一瞬で掻き消した。
上空で凄まじい爆発が起こり、高熱のあまり大気がプラズマ化していた。
まさに規格外……、この世の法則を外れた者として完全復活した錠前の姿が、そこにはあった。
「ハハっ……」
笑うしかない透の前に、錠前が降りてきた。
あれだけ強烈だった引力も、完全に打ち消されていた。
彼の放った技が、いかにバカみたいな威力だったかよくわかる。
「まっ、こんなもんでしょ」
楽々と言う錠前に、銃を拾った透と四条が近づく。
「最初から来てくれれば、もっと楽できたんですが」
「いやー、ゴメンゴメン」
特に悪びれる様子もなく、サングラスを掛け直した。
「僕も結構忙しい身でね。でもみんなが実質勝ちに持っていってくれたから、余計なお節介だったかも」
っと言いつつ、錠前は「一件落着じゃないけどさ」と呟く。
「第1〜第3エリアまで制圧したのに、一体どこからアレだけの軍団を呼んだのか気になってさ……みんなが戦ってくれてる間に、調べてみた」
「それで参戦が遅れたわけですか。ちなみに、魔法はもう使えなかったんじゃないです?」
「新海たちにこの1か月、配信しながら魔力結晶を集めさせたのは覚えてる?」
そういえばと、頭の中で記憶が蘇った。
「細かい部分は省くけど、みんなが沢山集めてくれたおかげで魔眼の治療が早く進んだ。感謝してるよ」
「そんな意図があったんですね……。それで、敵がどこから来たかはわかったんですか?」
透の問いに、錠前は親指を立てた。
「もっちろん! ばっちり捉えたよ。とりあえず結論から言おう––––」
そう言った錠前は、ニヤニヤと笑う。
「”海の向こう”。仮称とするなら––––第4エリアとでも名付けようか。そこに何かがある」
戦闘は終結した。
敵軍団は撤退し、ダンジョンマスターにも勝利したことで、後は天使を名乗る連中さえどうにかすれば良い。
––––この時は、そう思っていた。
ユグドラシル駐屯地防衛戦編、終了です。
対戦ありがとうございました!
最後は最強が名実共に復活して終了……っというか、この男はいつも美味しいところを奪っていきますね。
次章より新章、物語も予定の3分の2……いよいよ終わりが見えて来ました。
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