第320話・ユグドラシル駐屯地防衛戦⑩
戦場に現れたのは、かつてエンデュミオンの下で働いていた執行者。
ベルセリオンだった。
溢れ出る水色の魔力は、秋山バフによって勢いを増している。
「下がっていいわよ、こいつの相手はわたしがするから」
「だが……」
「その出血でいられても困る、大丈夫だから––––ここは任せて」
大隊長は自分の怪我を確認すると、すぐさま部下を率いて下がった。
広場が静かになったのを確認すると、不敵に笑ったベルセリオンが口を開く。
「久しぶり、”元”マスター?」
眼前に現れた執行者に、さすがのエンデュミオンも余裕が無くなっていた。
理由は単純、それが自分の知る執行者とかけ離れていたからだ。
––––なんだ、アイツの魔力量と生命力は? 大幅に増えた……なんてものではないな、まるっきり底が見えん。
以前に会った時とは、明らかに別次元の存在となったベルセリオンに、エンデュミオンは僅かに困惑する。
底が見えないと言うことは、弾き出される出力もわからないということ。
執行者などちょっと使えるだけのガキだと思っていたのが、まるで別物だ。
相手の実力が不透明な以上、接近は危険だった。
「それ以上は近づくなよ」
まずは様子見。
エンデュミオンの背後から、そこらの建物を超える大きさの蛇型モンスターが現れた。
それはさっきまでの低級モンスターはおろか、前線で透たちが戦ったウロボロスよりもさらに邪悪な魔力を秘めていた。
「へぇ、まだそんな手札持ってたんだ」
感心するベルセリオンに、エンデュミオンも笑みを見せる。
「『霊聖獣バジリスク』、貴様らがウロボロスと呼んでいたモンスター種の最上位存在だ。そうだな……以前の貴様であれば相手にもならん等級のモンスターだ」
「2個前の世界で輸入したヤツでしょ、それ」
「あぁ、貴様ら執行者は知らんかったろうが……その世界で神として崇められていた”特級神獣”だ」
バジリスクは剝き出しの牙から、紫色の猛毒を垂れ流していた。
液体が地面に落ちると、一瞬で硬い石畳が溶解する。
体格、魔力量共に沖縄や韓国の神獣を遥かに凌駕していた。
「お手並み拝見といこう」
バジリスクを従えたエンデュミオンに対し、ベルセリンは即座に行動へ移った。
「ハルバード!!」
自身が持っていた巨大な武器に、膨大な魔力を付与。
歯を食いしばり、大きく振りかぶった後––––それをぶん投げたのだ。
その速度は投擲時からマッハ2.5を超えており、エンデュミオンが見切る暇もなくバジリスクの頭部へ命中した。
––––バズンッッッ––––!!!!!!!
「っ!!!??」
ベルセリオンが投げたハルバードは、たった一撃で特級神獣バジリスクの頭を真っ二つにして見せた。
あまりに予想を超えた威力と速度に、エンデュミオンの顔が歪んだ。
同時に、武器を離して身軽になったベルセリオンが、姿勢を低くしながら走り込む。
「わたしの魔力量が測れなくて近づけないようね! だったらその身体に教えてあげる。なんでこんなに変われたのかを!」
攻撃を避けられないと悟ったエンデュミオンが、両腕に全開の魔力を込めてガードに移る。
だが、彼女は遠慮なく右腕を振りかぶった。
「美味しいお菓子と、大人からの愛情よ」
––––バギィッッッ––––!!!!!
ガードした両腕を粉砕して、ベルセリオンの拳がエンデュミオンの頬を砕いた。
凄まじい勢いで吹っ飛ばされ、家屋を10軒以上貫通。
奥にあった噴水に激突することで、ようやくエンデュミオンは止まった……。
「ガードを無視してここまで吹っ飛ばされたか……、以前のヤツにこんな力は無かったはず」
起き上がったエンデュミオンは、ニヤリと笑いながら千切れた両腕を治癒魔法で生やした。
「大人の愛情か……」
ベルセリオンもハルバードを手元に戻し、転移魔法で傍まで瞬間移動した。
立ち上がったエンデュミオンが、再生の終わった手に光を宿す。
––––特級クラスの毒や魔導防壁も通じないとなると、錠前勉用に残してある等級の高いモンスターは使えんな。だが……。
目を細め、今や最強格となった執行者を睨む。
––––錠前勉が後続に控えているこの状況で、俺はこの怪物を……果たして1人で喰らえるだろうか。
「林め、ずいぶんな頼みを俺に押し付けてくれたものだ」
ふえ




