第32話・アメリカ合衆国という国
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––––東京都港区 赤坂。
周囲の建造物と、外見はほとんど同じはずなのにどこか異質さを放つ建物があった。
それがここ、“在日米国大使館”である。
正面ゲートを通って車で入場したのは、柳防衛大臣と角松外務大臣だった。
「いつか来るとは思ってたが、まさかこのタイミングとは……やはりアメリカは油断なりませんな。角松さん」
「あぁ、それがアメリカという国だ」
案内に従って入った部屋で、2人は数人の白人に出迎えられた。
その中央––––笑顔で握手を求めて来たのが、在日米大使。
ロッキード・ヴィルバー大使だった。
初老の様相だが、にこやかな笑顔がとても似合っていた。
2人はロッキード大使に握手し、英語で話し掛ける。
「お久しぶりです大使、以前は確か横田での非公式会合で会いましたかな?」
角松の言葉に、ロッキードは頷く。
「えぇ、それを言えば今回も非公式ですがね。とにかく急な呼び出しに応じてもらって助かりました」
大使の案内で、柳と角松は椅子に座った。
向かいには、当然だがロッキードが座る。
彼は元軍人で、アメリカ海軍の艦隊司令官を務めたこともある超エリートだ。
そんな彼が、開口一番で口にした言葉は––––ある意味予想通りだった。
「あのダンジョンが出現して2ヶ月、日本政府は実に堅実な対応を続けている。米国が貴国を信頼し続けた甲斐があったというものだ」
ロッキードの顔には、相変わらず笑顔が張り付いていた。
しかし、角松外務大臣からすればあまりに薄気味悪かった。
「日本政府も、常に米国と共にあります。極東アジアの安全保障は––––我々太平洋を跨いだ蜜月の関係により、秩序をもって構築されるべきです」
「もちろんだ角松大臣、時の首相が提唱した“自由で開かれたインド太平洋”は、我が国のアジアにおける基本方針。決して揺るがないものと信じている」
そんな大使の言葉に、前のめりになった柳防衛大臣が答えた。
「では何故ダンジョン出現時、アメリカは空母を横須賀からシンガポールへ移したのですか? 傍目に見ても……見捨てたとしか思えませんが」
「戦力展開の一環だよ柳防衛大臣、東シナ海の緊張は高まっている。ダンジョン出現で混乱する日本をサポートするため、第7艦隊はあの時動いたに過ぎない」
「その第7艦隊が、相模湾で“戦闘態勢”に移行しているとの情報があります。大使、説明してください! なぜ同盟国の領海で艦隊を展開しているのですか!」
海上自衛隊の情報で、シンガポールを出航した空母『ジョージ・ワシントン』率いる計8隻の艦隊が、相模湾で輪形陣を取っているとのことだった。
ニミッツ改級原子力航空母艦1隻。
タイコンデロガ級イージス巡洋艦2隻。
アーレイバーク級イージスミサイル駆逐艦5隻。
特に、ニミッツ改級たる『ジョージ・ワシントン』には、最新鋭ステルス戦闘機F-35Cが搭載されていた。
これだけで欧州連合の海軍力を上回る、世界最強クラスの艦隊だ。
明確な威嚇行為に他ならない。
柳の問いに、ロッキードはあくまでポーカーフェイスを演じる。
「聞いた話によると、今ダンジョン内部で新しいエリアの攻略が進んでいるようじゃないか。例の配信チームは、我々も注目している」
大使の言葉は半分事実で、半分嘘だった。
配信チームに興味を持っているのは本当だろう、だがまだ新エリア攻略の配信は始まっていない。
米国が日本の極秘情報を諜報している、れっきとした証拠である。
この国は、たとえ同盟国であろうとスパイを送り込むのだ。
「もしエリアの攻略に成功すれば、また日本に新しい恩恵が現れるやもしれん」
「であれば僥倖。同盟国の強化は、米国にとって利益になるはずです」
「そうだな、韓国がようやく西側重視になって久しい……そこへ来て極東における日本の役割強化は、合衆国としても望むものだ」
「なら––––」
勢いのついた角松を、ロッキード大使が手で制する。
「それでも、あのダンジョンを放置することが正しいことか……合衆国内では疑問の声がある」
「どういう……ことですか」
「簡潔に述べよう、我が合衆国はあのダンジョンが“国連管轄”となることを望んでいる」
「ッ!!」
国際連合で共有の所有物とする。
つまり、その意味は––––
「貴国の主張は、我が日本国の主権を侵害している! ダンジョンが日本領内にある限り、我が国がアレを全面的に管理する権利を持つ!」
「ダンジョンが未知の侵略者による兵器だった場合、日本はどう責任を取るのだね? 我が合衆国には、世界平和を守る義務があるのだよ」
「アフガニスタンを見捨て、中東を焼いた国が面白いことを言う。なぁ柳さん」
「ロッキード大使、貴国の主張は防衛省としても全く受け入れられません。すぐさま第7艦隊を横須賀かシンガポールへ戻してもらいたい」
2人の大臣の言葉に、ロッキード大使は毅然とした物言いで返す。
「……それが日本の選択かね?」
「日本は主権国家です、ダンジョンを国連管轄に入れれば––––必ず常任理事国の軍隊が派遣される。アメリカだけならともかく、中露の軍を東京に入れることなどできない!!」
非常に強い口調で断った2人の前で、ロッキードは一言……「残念だ」と呟いた。
「日本政府の方針は理解した、第7艦隊は横須賀に戻そう。それで良いかね?」
「問題ありません」
話が終わり、2人の大臣が部屋を出てから––––ロッキード大使は側近に口開く。
「空母に乗り込んでいる『海軍特殊部隊』を、予定通り上陸させてくれ。大統領に伝えろ……日本はダンジョンをあくまで手放さないとな」
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