第319話・ユグドラシル駐屯地防衛戦⑨
飛翔した3発の特殊砲弾は、弧を描きながら市街地に降り注いだ。
通常の榴弾であれば爆発するところだが、炸裂したそれは広範囲に白い煙を広げるだけだった。
ウロボロスたちの視界が潰される中、自衛隊は既に次の手を打っていた。
「着火弾、弾着––––今ッ!」
膨大な光、次いで莫大な衝撃波が街を襲った。
爆発点を中心に巨大なクレーターが開き、押し出された空気は音速を軽く超えて周囲に広がった。
「ギュアアアッ!?」
その威力は凄まじいもので、たった3発の砲弾による攻撃とは思えないほどだった。
爆炎は市街地を進んでいたウロボロスを次々に飲み込み、建造物をなぎ倒す。
空にはキノコ雲が出来上がっており、熱風が遥か後方の指揮所まで届いた。
テントが大きく揺れる。
「おいおい、さすがにオーバーキルだろう。俺たちは核砲弾でも撃ったのか?」
度肝を抜かれた特科大隊長に、指揮所の要員が話しかける。
「サーモバリックの類には違いありませんが、威力が桁違いです。おそらく……TNT換算にして2キロトンはくだらないかと」
「2キロトン!? 凄まじい威力だな、こんなのを平気で作るアメリカの方がモンスターよりよほど恐ろしいぞ。UAVの映像はあるか!?」
「間もなく回復します」
爆風の影響で通信が乱れていたが、それもすぐに収まる。
次にカメラに映った光景は、やはり全員が驚愕を隠せなかった。
「こんなもん、人間相手にはとても撃てんな……」
特殊砲弾が着弾した場所を中心として、巨大なクレーターができてしまっていた。
さらにはあれだけいたウロボロスが、1体も残さずに結晶へと変わっている。
市街地はまさしく焼野原。
加害範囲にしたら、余裕で半径数キロはあるだろう。
恐ろしい兵器だった。
だが、これで形勢は一気に逆転したと言える。
後は後方の軍団をどう片づけるかを、思案したところ––––
「なんだ!?」
テントのすぐ傍で、銃声が鳴り響いた。
慌てて外に出ると、何もない空間にひび割れが走っていたのだ。
自分もすぐに拳銃を構えるが、大気を割るようにして現れたのは……”最悪の敵”だった。
「クック、随分と物騒な攻撃をするなぁ……日本人」
黒色のコートを羽織った若い男。
”ダンジョンマスター”、エンデュミオンが地面に降り立った。
警備隊員が、一斉にアサルトライフルを構える。
「……錠前勉がいないな? ちょうどいい、まずは林の言うここの指揮所から潰すとしよう」
地面に立ったエンデュミオンは、辺りを一瞥してから呟いた。
その風貌を見て、自衛官たちは明らかに狼狽していた。
「異世界人には見えないな……、どこからどう見ても18歳前後の日本人だ」
SFP-9自動拳銃を向ける特科大隊長に、エンデュミオンは笑う。
「それはそうだろう、俺は平行世界の日本人なのだからな。もっとも––––」
敵の身体から、凄まじい量の魔力があふれ出た。
「俺の世界の日本は、最悪の失敗国家だったがな」
「撃ち方始め!!」
相手が日本人とはいえ、異世界の存在と確定してから自衛隊は改めて発砲。
飛翔したJ3高威力弾は、エンデュミオンの頭部を貫こうとして……。
「チッ!!」
アッサリとかわされた。
同時に、エンデュミオンは多数の蛇型モンスターを召喚した。
「銃弾は初速がトップスピード、一度見切ってしまえば軌道を修正しようと怖くない」
「くそ!!」
他の隊員がモンスターの対処に追われる中、エンデュミオンはテント目掛けて突っ込んでいった。
あそこが潰されれば、前線部隊が孤立してしまう。
特科大隊長は拳銃を撃ちながら、敵に立ちはだかった。
「悪いが貴様らに用は無い、モンスターも低級しか使わんぞ」
またもやエンデュミオンの身体から、蛇型モンスターが召喚される。
拳銃を撃ち尽くして無防備になった大隊長は、足や脇腹をえぐられ出血した。
「さすがファンタジーだな……!!」
「ッ!?」
しかし、特科大隊長は全くひるまなかった。
隠し持っていたナイフでモンスターを切り裂き、さらにはエンデュミオンのテント突入を阻止。
出血は酷いが、致命傷は避けれていた。
「悪いがこっちも戦闘で飯を食ってる身でね、まだまだ粘らせてもらうよ」
一旦距離を置くエンデュミオン。
まさか反撃されるとは思っていなかったが、しょせん誤差の範囲。
今度は特大魔法でも撃って、一撃で終わらせようと思った瞬間。
「チッ……」
今度はエンデュミオンが舌打ちをする。
視界の奥から歩いてきた、1人の少女を見ての反応だった。
「––––お世話になってる小隊以外は、正直あんましだと思ってたけどさ」
水色のサイドテールを下げ、執行者の制服に身を包んだ彼女は……巨大なハルバードを持ちながら大隊長の前に立った。
「最高だったわよ、自衛隊さん」
現れたのは、透に留守番を任されていた––––執行者ベルセリオンだった。
次回、ふえバスター炸裂




