第315話・ユグドラシル駐屯地防衛戦⑤
【配信キタ!!】
【これ、タイトル通りなら駐屯地が襲われてる感じ?】
【今までと雰囲気が違うわけだ】
配信が始まってすぐに、コメント欄は滝のような勢いで流れ始める。
今回のカメラ担当は、透と四条。
当たり前だが作戦中のため、ノイズゲートで会話などは入らないようにしていた。
「僕と四条2曹がペアってのも、なんか新鮮ですね」
LAVの後部座席で、110ミリ個人携行対戦車弾を点検していた坂本が、ふと思い出したように呟いた。
彼の足元には、同様の対戦車兵器がゴロゴロ転がっている。
また誰も座っていない助手席にも、01式が鎮座していた。
「そうですね、まぁカメラ役が一緒にいては意味がありませんし……妥当な判断では?」
運転を続けながら、四条はマニュアル・ミッションのギアを切り替える。
オートマが普及した現在で、自衛隊は軍用という観点から戦闘車両がマニュアルであった。
当然であるが、透や四条はマニュアルで免許を取っている。
カーブに差し掛かったところで、2速に切り替え。
ガッコンとレバーの音が響くと、坂本は前髪で隠れた瞳を四条に向けた。
「なんか機嫌悪くないっすか?」
「え、そう見えます?」
応答する四条に、無反動砲を抱えながら坂本は切り返した。
「ハンドルとギアの切り替えに力がこもり過ぎっす、大方……隊長と別の班になったのが……、いや、久里浜が隊長と2人きりになったのが嫌と見ましたが」
「っ……」
4速に戻す。
前を走る透のLAVは、非常に綺麗なカーブで車体を殆どゆらしていなかった。
後部でニッと笑みを浮かべた坂本が、長い足を組んだ。
「驚きました、2曹も結構感情的だったんですね」
「貴方には言われたくないですよ……、まぁ多分当たってるので何も言い返せないのですが」
そう、四条はさっきから胸の内にモヤモヤを抱いていた。
今回の任務も必ず成功させる、それに揺らぎはない。
だが、透が自分ではなく久里浜をペアとして選んだ事実に少しイライラしていた。
もちろん合理的判断なのは理解していたし、彼女の理性が公使の区別をつけろとうるさく言ってくる。
だがそれが、四条に余計な葛藤をもたらしていた。
「わかりますよ、自分の恋人が別の異性と一緒になってると結構イラつきますよね」
「はい……参考までに聞きたいのですが、こういう時坂本3曹はどう心の整理をつけているのですか?」
「あぁ、簡単っすよ。相手に理由を問い詰めて、その上でちゃんとマーキングする意味もこめてぶち※※します」
「げっほ!?」
LAVが大きく揺れる。
「あの、できればもうちょっとわたし向けなアドバイスは無いでしょうか? っていうか、千華ちゃんにいっつもそんな扱いしてるんですか!?」
「別に僕が主体でやってるんじゃないですよ。千華のヤツがすごいドMなんで、こういう付き合い方に自然となっちゃってるだけっす」
「ふ、フーン……」
まぁ愛情の形は人それぞれなので、自分がとやかく言うのは筋違いだろうと引っ込む。
「まぁでも、四条2曹はずっと前から隊長をマーキングしてましたもんね。気持ちはわかりますよ」
「はい? わたし……そんなアピールしてましたっけ」
「覚えてないっすか? 千華がダンジョンに初めて来て、隊長とタイマンで決闘した日。四条2曹に僕聞きましたよね?」
記憶を辿り、当時の会話をボンヤリと思い出す。
『そうそう、他人の戦いはそれくらいリラックスして見るのが一番楽しいよ。親しい人間なら尚更ね』
『べ、別に親しくは……』
『じゃあ1つ気になってたんだけどさ』
『っ? なんですか?』
『なんでさっきから隊長のこと、下の名前で呼んでんの?』
そういえばそんな会話をしたなと、四条は息を吐いた。
「もう2か月も前じゃないですか」
「へへへ、僕の予想当たってたでしょ」
「ッ……否定はしません」
「まぁ千華は僕が後でたっぷりおしおきしとくから、四条2曹はそんなに気にしないで良いっすよ」
「えぇ、そうします」
無線から、透の声が飛び出した。
『ポイントB2に到着だ、総員––––対戦車戦闘用意!!』
自分のあずかり知らぬところで、勝手におしおきが決まる久里浜に合掌




