第312話・ユグドラシル駐屯地防衛戦②
ユグドラシル駐屯地防衛戦が開始された。
「桜より楠全隊、防空戦闘開始せよ!! 絶対に敵を近づけるな!!」
駐屯地の外延部に展開した防空ミサイル部隊が、一斉に誘導弾を発射した。
その光景は圧巻で、いくつもの白い尾が真っ青な空へ目掛けて飛翔……遠くの方で、次々に炸裂した。
現代のミサイルを回避する手段はワイバーンに存在しないので、発射された弾は全弾が命中する。
「SAM第1波、敵24体を撃墜!! 続いてSAM第2波を発射始め!!」
「桜より楠各隊、87式および各防空陣地はミサイルの撃ち漏らしを片付けろ!」
自衛隊のダンジョン侵入以来、これほど激しい対空戦闘は初めてだった。
空は突っ込んでくるワイバーンの群れと、それを迎撃するミサイルの軌跡が交差する、まさに嵐のような光景だった。
自衛隊がダンジョンに持ち込んだ短SAMは、合計で13両ちょっと。
それらが全力で弾幕を張るが、やはり100を超えるワイバーンを落とすには力が及ばなかった。
生き残った先頭集団が、距離5キロを切ったところで自衛隊はさらに迎撃を激しくした。
「こちら87式中隊、射撃準備完了!!」
「同じくVADS(20ミリガトリング砲)小隊、照準ヨシッ!! 発射準備完了!!」
陸自は近接防空兵器として、12両の87式自走高射機関砲を展開。
さらには空自で廃棄予定だったVADSを引き取っていたので、それらもここぞとばかりに動員した。
「レーダーロック、撃ち方始めっ!!!」
まず最初に、射程で優れる87式が攻撃を開始した。
つんざく様な音と共に、35ミリ炸裂砲弾が飛翔。
鉄筋コンクリートすら斬り刻むこれは、空中にいるターゲットの近くで炸裂。
発生した金属の破片で、航空機を落とす兵器だ。
「VADS部隊、攻撃始め!!」
––––ブヴヴヴヴヴヴゥゥゥゥゥゥン––––!!!!
ガトリングらしい、繋がった射撃音が轟く。
1秒間に75発の砲弾が発射され、急降下していたワイバーンを食い破っていく。
「1体も通すな! 撃ちまくれ!!!」
戦いはさらに至近距離へ。
塹壕から顔を出した隊員が、持っていた携行式対空ミサイルの発射を開始。
さらには高仰角で設置されていたM2重機関銃が、雨のように空へ向けて撃ちだされた。
曳光弾の弾幕は、想定以上にワイバーンへ打撃を与えていた。
だが、それでも十数体が生き残り、遂に戦闘団本部上空への侵入を許してしまう。
「クソっ! 抜けられた!!」
自衛隊防空部隊は、想定以上に善戦した。
だがこれほどの数のワイバーン相手では、さすがに完封などできない。
万事休す……、誰もがそう思った。
もちろんそれは決死の突撃を行ったワイバーンも同じで、後は戦闘団本部を吹っ飛ばすだけだと思考。
……その”青白い光”を見るまでは。
自衛隊員、そしてワイバーンは見た。
戦闘団本部の屋上で、膨大な魔力を放つ1人の少女を……。
「照準、誤差修正+3度。軸線に乗りました」
掲げられた日章旗の下で立っていたのは、銀色の髪を輝かせた執行者テオドール。
彼女は両手に尋常ではないほどの魔力を纏い、ワイバーンの正面に立ちはだかったのだ。
お気に入りの半袖パーカーにベージュの短パンという、非常に幼く可愛い恰好だが……そこから放たれる覇気は子供のそれを圧倒的に凌駕する。
「ッ……!!! う、裏切り者の執行者だ! 構わん! 丸ごと吹っ飛ばせ!!」
ワイバーンの口内に、爆裂魔法が形成されていく。
しかしテオドールは、微塵も慌てることなく金色の目で上空を見た。
「エネルギー充填率120%、セット20、45。モード……収束から拡散へ変更」
とうとう15体を超えるワイバーンから、大量の爆裂魔法が発射された。
誰もが終わったと思った矢先に、執行者テオドールは両手を眼前にある2つの極高密度魔力球へ叩きつけた。
「『拡散爆雷波動砲』––––発射ッ!!!」
空間の引き裂かれる音が響いた。
撃ちだされた2本ある超々高出力魔力ビームは、互いに螺旋を描きながら急上昇。
途中で巻き込んだ爆裂魔法を全て蹴散らし、ある一点で衝突した。
––––カァァンッ––––!!!!
互いにぶつかった魔力ビームは、衝撃により空を覆いつくすほど広がる大量の子弾を形成。
拡散という言葉に相応しく、まるでシャワーのような超広範囲攻撃が、残っていたワイバーンを1体も残さず消滅させた。
バラバラと結晶が落ちてくる中で、髪を風になびかせたテオドールはドヤ顔で腕を組んだ。
「アニメの力は偉大です」
奇しくも、透が見せたアニメより着想を得た技で……ユグドラシル駐屯地は守られた。
テオろ! ほえドール!!




