第310話・天界の真実
「平行世界……。そう言われると、なんか急にフィクションっぽくて現実味が無くなりますね」
しかし、いくら常識という固定観念が否定しても……目の前にあるタブレットが、その存在を証明していた。
何より、今自分たちがいるダンジョンという場所が、そもそもファンタジー。
今更驚く方が、逆に不自然と言えるだろう。
「まぁ気持ちはわかるよ、僕もダンジョンが出る前はこんな話信じてなかったし」
「とはいえ現実ですからね、そのタブレット……文字が知らない言語なので、使えるのはここまでですかね」
透としては、まず結界が解けてから技研なりに渡すのだろうと思っていた。
だが、錠前はニヤリと悪い笑みを浮かべ。
「大丈夫、言ったでしょ……少し乱暴するって」
彼が画面に手を近づけると、タブレットの画面にノイズが走り始めた。
錠前の魔眼が光り輝くと同時、それまで見たことのない文字だったそれが……日本語で表示されたのだ。
一体どういうことだと思ったが、答えは本人の口から明かされる。
「僕の魔眼は魔力由来のあらゆる物質に干渉できる。ちょっと賭けだったけど、無理矢理言語を日本語に変えてやった」
相変わらずの規格外。
改めて画面を見ると、そこにはちゃんと読める文字で構成された……”ネット掲示板”のようなものが映し出されていた。
「こんなところまで地球と一緒なんですか」
「みたいだね、スレタイは……」
スクロールしていくと、そこには。
【悲報、ダンジョン攻略が全然進んでない件】
っと、これまたフォントまで似たそれが映っていた。
その下には、連なるようにたくさんのコメントが書き込まれている。
【こないだのサリエル様の配信、まだ引きずってるわー】
【執行者だったっけ、ガキのくせになんであんな強いんだよ】
【困ったよなぁ、早くエネルギー納品してくれないと船がもたない】
直感で確信する。
こいつらこそ、現在日本を侵略している……ダンジョン勢力の一員。
錠前1佐の言う、異世界人共だ。
【文明レベルの低い雑魚国家相手に、なんでここまで苦戦してんだろ】
【今襲ってるダンジョン、名前は地球だったっけ。そんなに手ごわいのか?】
【これまで襲った世界、エンデュアランスとかは楽勝って聞いたけど。今回のダンジョンだけやたら時間食ってるよね】
書き込みの内容から、透はこいつらが本当に異世界からの侵略者であるとわかった。
おそらくだが、自分たちが今いるこのダンジョンこそ、こいつらが言う”船”だろう。
自称天界人である彼らは、どういう理由かは知らないが……これを箱舟として、世界を渡っているようだった。
そして、現在地球にて足止めを食らっている。
エクシリアが言っていた地球滅亡までのカウントダウンと関係があるかは不明だが、どうやらこの船にも制限時間があるらしかった。
もっと情報が欲しいと思ったのは、隣の狂人も同じらしく。
「ちょっと僕らも書き込んでみようか」
「えっ、リスク高くないっすか……? バレたらヤバそうですけど」
「見たところ匿名掲示板だ、変なことさえ書かなければ大丈夫」
「しかし……」
「まぁ任せろって新海、こう見えて学生時代は結構ネットやってたんだ。要領は心得てる」
言いながら、1佐は手早く文章を打ち込んだ。
《初カキコ、スレ初見なんだけどそんなに切迫してんの?》
あまりに雰囲気が平成初期過ぎて、吹きかける透。
だがこの書き込みに、早速レスが付いた。
【なんだお前”起き立て”か? せっかくのコールドスリープの余韻が崩れるぞ】
《大丈夫大丈夫、とりあえず簡潔に教えてくれ。今俺たちはどこのダンジョンに来てるんだ?》
錠前が文字を入れていくたびに、透は思わず汗が出ていた。
今自分たちは、敵の端末を奪って中枢に侵入しているのだ。
これ以上のチャンスは、おそらくもう巡ってこないだろう。
ネットに自信ありの、錠前の手腕が試された。
【今は地球っていうダンジョンに来てるぞ、でもなんか天兵旅団の連中が手こずっててエネルギーが溜まってない】
《エネルギーって何だっけ、そもそも何に使うの?》
【数百年眠ってて忘れたか? 俺らが滅びゆく母星を捨てて、別の世界に脱出したのは覚えてるだろ? 備蓄には限界があるから、渡った先の世界の人間を殺して食料とか奪ってる】
《じゃあこの船は、一種の侵略兵器ってとこだね?》
【まぁ間違っては無いな、渡った世界を滅ぼして、ついでに一部を切り取ってまた旅をするから】
《エネルギーは何に使ってるんだっけ》
【俺らの延命装置や、船の次元跳躍だ。次元エンジンは強力だけど常時生命エネルギーを必要とする。それが枯渇したらエンジンが暴走して船が世界ごと巻き込んで爆発しちまう】
これらの内容は、透が隣で必死にメモを取っている。
一気に明かされる天界と呼ばれる勢力の情報に、息を呑みながらペンを動かす。
だがここに来て、スレの空気が変わった。
【ったく、天兵旅団も何を日本人ごときに手こずってるんだか……。俺らのいた世界線だったらソマリア以下の大失敗国家だったろ】
【それな、いつまでも内戦ばっかりしてて周囲に取り残された雑魚国家wwww。あとなんだっけ、国旗もクソださかったよな】
【あぁ、日の丸かw。よくあんな恥ずかしい国旗を採用したもんだw。この世界の日本もそこは同じらしいな】
一連の書き込みが行われた瞬間、錠前の額に血管が浮かび––––
「は?」
傍にいた透が凍てつくほどの殺気と怒りを、部屋中に放った。
しかもタイミングが悪く、タブレットはそこで充電切れを起こしたのか……画面を真っ黒にしてしまった。
恐る恐る上官を見た透は、やはりというか後悔した。
「クッ……はっはっは!! 凡庸な連中だと思ってたが面白いじゃないか! 見直したよ、どうやら天界人というのは揃いもそろって自殺志願者の集まりらしい」
現代最強、錠前勉に対して絶対にやってはならない事がある。
それは、日本という国家への侮辱行為だ。
よりにもよって、天界人たちは全く知らずにその禁忌を犯してしまったのだ。
ドス黒い笑みを浮かべながら、錠前はタブレットを置いた。
「日の丸を侮辱することは断じて許されない、新海……連中を一緒にわからせようじゃないか」
この瞬間、天界人の絶滅は確定路線となった。
そして3週間後、第1エリアを囲んでいた結界が遂に解除された。
間違っても錠前の前で国旗を蔑ろにしてはいけません……




