第306話・小さくなったお師匠と、成長した愛弟子
明けましておめでとうございます!!!
今年はさらなる躍進を目指して、去年に続いて一層物書きとして頑張っていきます。
また、色々とお待たせしている各種お知らせも、今年から解禁できればと予定しております!
一通りの食事を終わらせた透は、ひとまず慰労会の会場にエクシリアを連れて来た。
その小さく3頭身になった彼女を見て、錠前を除いた誰もが驚く……そして案の定、まずは弟子のテオドールが大急ぎで駆け寄って来て。
「し、師匠〜っ!! なんとお労しい姿に––––!!!」
チビっこい師匠を、ガッシリと全力で抱きしめる。
っが、少々力を込め過ぎたせいで……。
「て、テオドール……! 潰れるッ! 潰れるから!! お願い、一旦離して…………ッ!」
肉体強度がハムスターレベルのエクシリアは、口から泡を噴きながら必死に腕を叩く。
「はっ! 申し訳ありません師匠! 目覚めたのが嬉し過ぎてつい……!!」
とりあえずハグをやめ、近くのテーブルの上に置いた。
「ゲッホッゲホ……! ふぅ……まぁ気持ちは痛いほど伝わったわ……。心配掛けたわね」
「で、ですが師匠……なんでそんな姿に?」
ついさっきの透と同じ疑問を抱いたみんなへ、もう一度エクシリアが説明した。
これは魂の仮置き場で、小さくなったのはまだ死にかけだからだと。
ただ、もう山場は超えたので死ぬことは無いから安心してほしいなど。
「ふむ……本人が問題無いなら、配信で映せば視聴数が稼げるでしょうか」
興味津々と言った様子で、四条が呟く。
彼女はアナリティクスを結構よく見る、っというかちゃんと視聴者を増やさないと怒られる立場なので、結構真剣だった。
「良いわねエリカ! こいつ昔から生意気だったから、この痴態を日本人に晒し上げましょう!!」
どうやらダンジョン勢力時代にボコられたらしいベルセリオンが、明らかな私怨からかノリノリで肯定。
確かにこんなミニキャラが出れば、トレンド1位なんて軽いものだろうが……。
「ダメ! 師匠が嫌がることをしてはいけません」
前に出て両腕を広げたテオドールが、全身で守りに入った。
どうやら、小さくなった師匠を自分が守らなければと思ったらしい。
それを悟ってか、秋山が横から入った。
「まぁでも、いきなり映したら大変な騒ぎになるでしょ……。結界が解けても、余計に日本本土へ帰り辛くなるよ?」
ベルセリオンを拾ったことで中国軍に狙われ家を破壊された彼女は、大人らしく冷静に言った。
「まっ、ここは美咲の言う通りでしょ……ただでさえ我が小隊の人気は世界レベルなのに、ここで拍車を掛けたらいよいよ制御ができない」
珍しくマトモな意見を言う錠前。
確かに現状でも東京地本を満足させられているので、逆にこれ以上ハードルを上げるとなると後が面倒だ。
防衛省はお役所なので、最大成果を出したら次はそれが最低水準となる。
仕事が増えれば必然的に寝不足が増え、結果的に小隊全員の負担が爆増すると踏み……。
「そうですね、ではエクシリアさんの件については……ダンジョンでの機密扱いということで」
処遇が自動的に決まっていく。
しかし、問題はまだあった。
「けど、その体だと移動が大変そうだな。魔法も使えないんじゃ結構支障出るだろ」
透の懸念はもっともだった。
転移魔法が使えれば別なのだろうが、今のエクシリアにそれは不可能。
一体どうしようかと全員が悩んだ瞬間––––
「大丈夫です!!」
自信満々に呟いたテオドールが、机に座っていたエクシリアをヒョイと持ち上げ。
……銀色の髪に覆われた自分の頭へ、チョコンと乗っけた。
「これなら師匠に移動で煩わせる必要はありません!」
世界のアイドルの上に、同じく3頭身となった美少女が座る様はインパクト抜群。
その絵面の良さから、思わず私物のスマホで写真を撮る四条と秋山。
ついさっき機密扱いと言ったのは、一体何だったのかと問いたくなったのは透だけじゃないだろう。
一方のエクシリアは、ちょっと困惑した様子で声を漏らす。
「いやっ、あの……別にここまでしてもらわなくても……」
そう言いかけたところで、テオドールの声の抑揚が下がった。
「えっ、師匠……ご迷惑でしたか……?」
愛弟子の寂しそうな表情に耐えられなかったエクシリアは、ちょっと考えてから頭の上に座り直す。
「まっ、まぁアンタが良いなら甘えさせてもらうわ。ありがとうテオドール」
彼女の表情がパッと明るくなる。
「むふふー、師匠のお役に立てて嬉しいです」
本当に嬉しそうに言うテオドール。
そこで、消灯まであと3時間を伝える放送が流れた。
「テオドール、そろそろ戻るわよ」
姉のベルセリオンが、指でクイクイと合図する。
ならばと、テオドールは元気に提案した。
「では師匠、一緒にお風呂に入りましょう! さっき触った時ちょっとキャベツ臭かったので、わたしが綺麗にしてあげます!」
当然だが断れない。
秋山はやることがまだあると言うので、四条を連れて4人で大浴場へ向かった。
「ちょっと前まで執行者は3人共敵だったのに、今では仲良く風呂か」
錠前と一緒に後ろ姿を見送った透は、ふと思い出した。
「久しぶりに有馬温泉へ行きたくなりましたよ」
「へぇ、新海あそこ行ったことあるんだ。でも君の実家からだと遠いでしょ」
錠前の問いに、彼はごく普通に答えた。
「防大入る直前に長期休暇で少し……。親戚が神戸にいるので、せっかくだからと立ち寄ったんです」
「金湯とか入った? あそこの浴場結構良いって聞くけど」
「自分は足湯で十分でしたよ、そういえば……」
透は少し言葉を遅らせて……。
「あの財布、ちゃんと落とし主に届いたかな……」
遠い記憶を蘇らせる……。
「財布なんて拾ったんだ、まぁあそこは観光客多いしね」
「えぇ、めっちゃ現金入ってました」
「なるほど。っで……謝礼金いくら貰ったわけ?」
「全く貰ってませんよ。電車の時間があったので交番に届けてすぐに帰りました」
「新海らしいねー、いつかその落とし主に出会える縁を祈ってるよ。積んだ善行はきっとどこかで帰ってくるからさ……。ところで––––」
肩をトントンと叩いた錠前は、ニヤリと笑った。
「今から監督室に来てくれない? 財布じゃないけど……結構面白そうな物拾ったんだ♪」




