第304話・陥落の最強執行者
コンビニの辛口チキンを頬張ったエクシリアは、悶絶するような笑顔を見せてから……ようやく一口目を飲み込んだ。
その表情は、即死魔法を食らったかのように驚愕で満ちていた。
「はえええ……!!! なっ、なにこれぇ!! こんな美味しい鳥さん食べたことないんだけど!!! アンタ……まさか王族だったの!?」
金色のアホ毛がピコピコと跳ね回り、その小さな足をパタパタさせて驚嘆する。
予想通り……っというか、思っていたよりオーバーなリアクションに透は少し驚きつつ……。
「俺はただの一般庶民、あとそのチキンは日本ならどこにでも売ってるぞ」
「はあぁあ!?? こ、これが一般食ですって!? なにがどうなったら魔法の発達しない世界でこんな美食が大衆レベルになるのよ!!」
「お気に召したようで何より、俺もおにぎり食おっと」
録画を終了し、スマホをしまう。
なんというか、180年以上生きたにしては随分と幼い。
多分だが、15歳くらいの容姿に精神年齢も引っ張られてしまっているのだろう。
もしそういう分野専攻の友人がいたなら、ぜひ聞いてみたいところだ。
……まぁ、透は特に友達と呼べる人間が坂本しかいないのだが。
「……めっちゃ食うじゃん」
透が買ったコンビニチキンは、今のエクシリアからすればとても大きい。
なのにも関わらず、彼女は一心不乱にモグモグと頬張っていた。
まるで、今まで怠って来た食事を取り戻すように……。
「なぁ、日本に来る前はテオとどんな師弟関係だったんだ?」
「モグモグッ、へ? 別に……普通にしごいてただけだけど」
「テオはたぶん……性格的に戦いは苦手だったと思うんだ、それをあそこまで強くしたお前の手腕が気になってな」
おにぎりを食べる陸上自衛官と、チキンを頬張るちっちゃい執行者という妙な光景。
だが、透は特に気にせず雑談してみることにした。
そんな彼の人たらしな性格が、エクシリアの無意識にしていた警戒心を溶かしていく。
「そうね、あの子は戦闘が本当に苦手だったから……毎日気絶するまで徹底的に戦闘技術を叩き込んだわ」
「めっちゃスパルタだな……」
「全部あの子に強くなって欲しかったからしたことよ、でも……今思えば少し乱暴だったかもね。いずれ謝らないと」
「でもテオはお前に感謝してたし、渋谷で仮死状態になった時もすっごい心配してたぞ。多分嫌われてないから安心しろよ––––師匠さん」
透の言葉に、少し頬を赤くしたエクシリアは目を逸らす。
「アンタ……、女にはいっつもそんな態度なの?」
「そうだけど……、なに?」
「酷い女誑しって言われない? もし彼女がいるのならもう少し改めた方が良いわよ?」
「うぐっ……!」
100歳以上は年上の方からのガチ忠告に、透はダメージを受ける。
そういえばテオドールや錠前にも、いつぞや女誑しと言われたことがあった。
彼としては普通に接しているだけのつもりなので、改めろと言われても結構困る。
ただ、彼女の言う通り……四条という彼女がいる今、あんまり他の女子と親しくするのはやめた方が良いのかもしれないと思った。
「と、ところでお前。どうやってダンジョンに入ったんだ? 結界が張ってあるのは知ってるだろ? その体じゃ魔法も使えないのに……」
「単純よ、結界が張られる直前––––ダンジョンへ搬入される食糧に紛れて入ったわ」
「古典的すぎねぇか……?」
「あら、でも効果的だったわよ? 検査の自衛官も……まさかこんな小さな人間が入ってるなんて想定してなかっただろうし」
まぁ、確かにそうかもしれない。
日本にとっては忌々しい事件だが、裁判で仮釈放中だったとある外国人が大きな楽器入れに入って、国外脱出を決めた事案だってある。
キャベツと一緒に段ボールに入られたら、案外すり抜けるのは簡単なのだろう。
余談だが、その外国人は逃亡先でイスラエル軍の無差別爆撃に巻き込まれて、現在は消息不明となっている。
「なるほどな、で……そこまでして俺たちのところに来た理由があるんだろ?」
勘だけは鋭い透の問いに、チキンをきっちり食べ終わったエクシリアは口を拭う。
「そうね、結論から言いましょうか」
極めて冷静に、エクシリアは衝撃的過ぎる言葉を発した。
「もしダンジョンの……エネルギー不足。この状態が続けば、あと10年で地球は崩壊するわ」
書いてて思ったんですが、新海は女誑しもありますが、どっちかというと人誑しの方が近いのかも……?
でもこいつ、女子への距離感ちょっとおかしいしなぁ……(悩み)




