第303話・エクシリアたん
背中まで伸びたセミロングの金髪に、頭上の光り輝くヘイロー。
端正で整った顔は、たとえ姿が変貌したとしても見間違えるはずがない、第3エリアや渋谷で戦った……あの執行者エクシリアが立っていたのだ。
「えっ、……どういうこと?」
自販機のエナドリ缶サイズの3等身にまで縮んだ彼女を見て、透は本当に疑問符しか浮かばない……。
なぜ小さくなっている?
怪我は治ったのか?
そもそもなんでダンジョンにいる?
もしかしたらまた敵に––––
すかさず腰のIWBホルスターに入れた拳銃を抜こうとした透を、エクシリアがその小さな手で制止した。
「まぁそう慌てないで、あんた達にもう敵意は無いし襲わない。そもそもこんな体じゃ勝てるわけがないでしょ」
「そ、それもそうだな……」
ホルスターに伸ばしていた手を引っ込め、とりあえず持っていた食料を机に置いた。
「一番聞きたいところから聞くんだが……、なんでそんな事になった? お前重傷負って病院で仮死状態だったろ」
エクシリアは渋谷での戦いで、大天使ガブリエルから宝具による奇襲を受け……一度心肺停止となった。
その後はすぐに自衛隊中央病院に搬送され、一命は取り留めたがいつ目覚めるかわからないと聞いていた。
それが、突然チビキャラになって自室に現れたのだから、透としては困惑するしかない。
「まぁ、端的に言うならば……わたしの身体はまだほぼ死んでるの」
「うん、余計意味わからん」
「この小さい身体は一種の分身みたいなものなのよ、魂を抜かれた状態の本体は病院でくたばってる。怪我が治ったとかそういうんじゃないわ」
「つまり……アレか? その姿は漫画でよく見る偽りの姿的な? 魂はそれに入ってるけど本体じゃないっていう」
「漫画が何かは知らないけど、まぁその認識で大丈夫よ。死にかけには変わりないから……分身の身体もこんな小さくなっちゃったってこと。でも魂の仮置き場としては十分」
息を吐き、その場にチョコンと座るエクシリア。
アニメでこういうキャラはたまに見るが、まさか現実でお目にかかるとは当然思っていなかった。
珍しさから、つい指で頭を撫でてみる。
「……なによ」
「いや、ごめん。テオドールに知らせるか? お前アイツの師匠なんだろ? プチ復活したのを知ったら喜ぶと思うけど」
「別に良いけど、その前に1つお願いがあるわ」
改まっての声に、透は椅子に座りながら正対する。
小さくなったとはいえ……、あの傍若無人かつ執行者の中では最強のエクシリアだ。
一体どんな要求が来るのか、息を呑んで聞いてみると––––
「……お腹が空いたから、良ければそのご飯を分けてほしい」
「なんだそんな程度かよ……、コンビニのホットスナックとおにぎりだぞ? こんなんで良いのか?」
「別に良いわよ、この身体は魔力が殆ど使えないから最低限食事が必要なの。味なんて気にしない」
小さい生物は基本的に代謝が低い……なので真っ先に食事というのは意外だったが、そもそも人間がこのサイズなのがファンタジーである。
生物学的とか、そういう次元の考えは一旦捨てることにした。
「辛口チキンと梅おにぎり、どっちが良い?」
「どっちでも良いわよ、食事なんて50年に1度すれば良いんだから……カロリーが接種できれば問題無い」
「50年更新とかまるで原子炉……。えっ、じゃあお前何歳なの……?」
「女にいきなり年齢聞くとか……、まぁ良いわ。この世界の暦で言うなら”185歳”ってとこね」
「めっっっっちゃババァじゃねえか……、見た目完全に15歳手前くらいなのに」
「そんなに驚くこと? いいから、早くご飯ちょうだい」
言われて、とりあえずカロリーが高そうな辛口チキンの袋を破った。
そのままのサイズだと大きすぎると思ったが、かまわずエクシリアは両手で握って口を開けた。
なんとなく予感がした透は、こっそり私物スマホのカメラで録画を開始する。
「塩気強いし、たぶん辛いけど大丈夫か?」
「はぁ? 言ったでしょ、別に味なんか気にしないって。200年近く生きてたら食事で感動するなんて普通ありえない––––」
そう言いながら油たっぷりのチキンを噛み潰して、
「はっ……! はぇぇえええ––––––––––––っっっ!???」
1秒と経たずに無様な鳴き声を上げた。
「あっ、やっぱりテオの師匠だからちゃんと鳴くんだな」
その様子は、透のスマホでばっちり撮影された。
ほええ……
ふえぇッ
はぇえ!?




