第301話・ほえふえ労いの会
大天使の奇襲を受け、慌しかった駐屯地は3日経ってようやく静けさを取り戻した。
今回の攻撃で負傷した秋山だが、彼女は今……四条と一緒に料理に勤しんでいた。
作っているのは、パフェやケーキと言ったデザートである。
その動きに怪我の影響は全く見えない。
っというのも、戦いが終わった直後……戻ってきたベルセリオンが秋山にある処置を行ったのだ。
「いやー、ファンタジーの住人って本当に凄いねー。まさかアザすら残らないとは」
包丁でイチゴを切りながら、感心しつつ秋山は呟いた。
会話の相手は、迷彩服の上からエプロンを着けた四条。
彼女もまた、冷やし終えたカスタードクリームを軽くこねくり回している。
「まさかベルさんが治癒魔法を使えるようになってたとは……、驚きでしたね」
「本人いわく元から使えたらしいけど、前だと出力が低すぎて使い物にならなかったとか」
「栄養はやはり正義……っというわけですか、あっ、こっちのクリーム終わりました」
混ぜ終わったカスタードをボウルごと受け取った秋山は、専用の注入袋へ入れた。
既に焼き終わった生地へ中身を入れれば、甘いシュークリームの出来上がりだ。
結界を張ってから今日で1週間弱。
錠前の予想より早くテオドールとベルセリオンの目が覚めたので、今回––––2人を労うデザートパーティーを開くこととなったのだ。
発案者は透で、理由は単純……疲れた子供には甘味が一番とのこと。
封鎖前に食料や素材は大量に搬入したので、枯渇の心配は無い。
むしろ、果物の類は早く消費してくれと補給課と錠前が言っていたのだから、やらない手は無かった。
せっせと準備が進む中で、食堂では錠前が1人でジュースのペットボトルや、紙コップを用意している。
「ったく、上官に雑務を押しつけるとは……新海は将来大物になるね。いや、もうなってるか」
なんて呟きながら、一通り揃えた頃……執行者2人を連れてきた透が入ってくる。
「すみません1佐、準備お願いしてしまって」
「構わないよ、僕はグレートな上官だからね……可愛い部下のためならとことん働くさ。まして、功労者を労うパーティーならね」
透に案内され、昨日起きたばかりのテオドールが歩いてきた。
服装はいつものプリントTシャツにベージュのショートパンツ、そこへハイソックスとスニーカーを合わせた小学生スタイル。
マスターの透的には、もっとオシャレしても良いだろと言ったのだが……。
『動きにくい服装は嫌です、スカートは特に嫌いです』
っと、お子様な眷属が言うので泣く泣くパス。
前は着ていた気がするが、いつぞや……透との組手でパンツを見られたのが相当恥ずかしかったようで、もう彼女の洋服棚からスカートは消えた。
「す、すっごい良い匂いする……!!」
次いで入ってきたベルセリオンが、カスタードや生クリームの匂いを感じて興奮していた。
彼女の服装はある意味テオドールと正反対。
シルクの服と黒いスカート、そして全身を覆えるほどのマント。
いずれもダンジョン勢力時代の物だ。
「あっ、来ましたか。もう準備ができるので椅子に掛けてください。透さんはカメラと配信の準備をお願いします」
奥から顔を覗かせた四条の声に、軽く返事をした透がカメラの用意を始める。
「そういえば坂本と久里浜がいねーけど、なんか聞いてる?」
「お2人は射撃場に行きましたよ?」
「そりゃまたなんで」
透が疑問を抱くと、横にいる錠前がニヤニヤと笑っていた。
「……あなたですか?」
「大当たり、2人には”新しく導入した物”のテストをお願いしたんだ」
「なるほど、じゃあ配信は俺と四条で回しますね」
「そうだね、よろしく」
あらかたの準備が終わり、椅子へ座った執行者の前へカメラをセット。
スマホを操作し、配信の準備を進める。
「透、今日は何を食べさせてくれるのですか? なんだか甘い香りがします!」
「今日は主に洋菓子を食わせてやる、今外には買いに行けないけど……四条と秋山さんが手作りしてくれた。お前らめっちゃ頑張ったからな」
そう言った透が、テオドールとベルセリオンの頭を優しく撫でた。
髪はフワフワで、ベルは少し恥ずかしげに……テオは素直に笑顔を見せる。
「むふぅ……、楽しみです」
やがて時刻はお昼の3時。
配信が開始される。
【配信始まった!】
【おぉ! タイトル通りほえちゃんとふえちゃんがいる!!】
【2人共久しぶりー!! やっぱり可愛いなー】
【しばらく見ないから心配したよー】
同接数は一瞬で1億を突破した。
もう慣れてきてしまったが、相変わらずこの数字は規格外過ぎて実感が全然湧かない。
「お久しぶりですー!」
「ひ、久しぶり……」
元気に挨拶するテオドールと、まだちょっとぎこちないベルセリオン。
【相変わらずの美人姉妹!】
【可愛いなー】
和やかに配信が始まってすぐ、奥から四条がお皿を持ってきた。
「まずは予定通り、シュークリームからどうぞ」
【四条2曹キタ!!】
【こっちもやっぱり美人さん! エプロンに迷彩服ってギャップが凄いwww】
【このギャップが良いんだろうが】
執行者2人の前に置かれたのは、ふっくらと焼き上がったシュークリーム。
すかさずテオドールが反応した。
「これ、こないだ新宿で買って食べたヤツですね!」
先日の東京旅行で、テオドールは別行動中……正確には群衆を戦闘から守るための陽動に徹していた際、お店で500円ほどの物を買っていた。
なので、初見ではないのだが……。
「お、お店の物と焼き加減が全然違います」
「うーん、わたしは初めて見るからわかんない」
リアクションは期待できそうだった。
カメラの外で、錠前が「食べさせてあげな」と合図。
2人で仲良く掴み、お口に持って行って––––
「「はむっ」」
噛んだ瞬間だった。
「「ッ!!!」」
電流が走る。
秋山の熟練の腕で焼き上がった生地は、市販のそれと比べてもハイレベル。
クッキーのようなサクサクの感触の先に、トロトロになった四条仕立てのたっぷりカスタードが待っていたのだ。
気持ちいい食感、芳醇な香り、極上の甘味。
これらを一括で叩き込まれたテオとベルは––––
「ほえぇ……っ」
「ふええ……!」
とろけるような笑顔で、とっても情けないいつもの鳴き声を出した。
だが、労いのパーティーは始まったばかりだ。
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