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第300話・執行者ベルセリオンVS大天使サリエル

祝★300話★!!!

皆様への感謝を込めて、今回は通常の2倍以上のボリュームでお届けします!

 

「けほっ……、ベル、……セリオンちゃん?」


 朧げな意識は、確かにそこに立つベルセリオンを捉えていた。

 一方で、サリエルも信じられないといった顔をしている。


「なぜだ、執行者はまだ眠ってなきゃおかしい時期だろう……」


 ベルセリオンは封印作業の影響で、その消耗から寝込んでいるはずだった。

 だが、その答えは本人の口から明かされる。


「命の恩人が殺されかけてるのに、グースカ寝るバカがどこにいる?」


 人生でこれほど怒っている人間を見るのは、秋山もサリエルも初めてだった。

 彼女の身体から水色の魔力が溢れ出すと同時に、その金色の瞳がサリエルを睨んだ。


 零れ落ちる負の感情は、心の底から出た本音。


「殺す」


「ッ!!!」


 剣を引き戻すサリエル。

 一瞬で距離を詰めたベルセリオンは、予想していた数倍のパワーでハルバードを振るった。


「ぐぅううッ!!?」


 必死に剣で受け止めるも、勢いを殺すことは全くできない……!

 大ガラスをぶち破り、サリエルを美容室から叩き出した。


「お前はわたしの命の恩人を傷つけた……!! 絶対に許さない……!!! 今ここで––––死でもって償えッ!!!!」


「はっ! やなこった!」


 たまらず翼を広げ、高空へ逃げるサリエル。

 だが、ベルセリオンは魔法陣を足場にして空中を踏みつけるように肉薄。

 空中にいる大天使の眼前に飛び出た。


「うっそ!?」


 晒した隙につけ込み、ベルセリオンはハルバードに膨大な魔力を込める。


「”八界(はっかい)“ ”悠遠(ゆうえん)“ ”空蝉(うつせみ)(かげ)“––––」


 威力が下がる代わりに、本来省くことで隙を無くす詠唱を、フルで行った彼女は全力で武器を振るった。

 その細い腕から、信じられないパワーが噴き上がる。


「『空烈破断』!!!」


「ごっは!!?」


 振られた一撃は、大天使を数キロ以上も吹っ飛ばした。

 サリエルは駐屯地から遠く離れた無人住宅街に落着し、巨大な土煙を上げた。


「ごっほ……! なんなんだよこの力は、執行者がこんなに強いなんて聞いてないぞ!!」


 起き上がりながら文句を垂れるサリエルだが、お喋りな口はすぐに黙らされる。


「”八界“ ”悠遠“ ”空蝉の影“––––」


「ちょっ……!!」


 大天使ですら気づかないほどの速度で接近していたベルセリオンが、真上で武器を振り上げていた。


「『空烈破断』!!」


「ッ!!!」


 ダンジョン第1エリアに、地響きが走った。

 静かになった美容室内で秋山が座っていると、何やら外から声が聞こえてくる。


「なんだこの透明な壁は!」


「銃で撃ちますか!?」


「馬鹿野郎! 跳弾でもしたらどうする! ハンマー持ってこい!!」


 警備の自衛官たちがやって来たのだ。

 あの様子だともう少し掛かるかと思ったが……。


「みんな、離れて」


 聞き慣れた声と同時に、ガラスの割れるような音が響いた。


「お疲れ美咲、よく持ち堪えてくれたね」


 姿を現した顔馴染みの自衛官に、秋山はため息をついた。


「あぁー、なんとか生き延びた……。もっと早く来てよね錠前くん、殺されかけたよ?」


「ごめんごめん、でも美咲なら大丈夫って思ってたから。ベルセリオンくんが起きたのも知ってたし」


 たははーっと軽薄にそう言った後、錠前は静かに声を低くした。


「すまない、民間人である君を……負傷させた時点で僕の落ち度だ。もっとしっかり保護しとくべきだった」


「良いよ謝んなくて、警備なんて要らないって言ったのはわたしの方なんだからさ」


「だとしてもだよ、君の身の安全を守るのは僕の義務だ。自衛官として……怠惰を働いたのに違いはない」


 そこまで言って、しゃがんだ錠前はニッと笑った。


「それはそうと美咲、お前だいぶ訓練サボってただろ」


 いきなり図星を突かれ、秋山は思わず顔を背ける。


「ッ……まぁ、そ、それなりに」


「やっぱりな、全盛期のお前ならこんなアッサリやられるわけが無い。あの雄二をザクザクに切り刻んだ動き……もし今日できてたら勝てたっしょ」


 遠くの方から、地響きとそれに伴う爆撃みたいな音が響いてくる。

 秋山に手を出されたことで、人生最大級にブチ切れたベルセリオンが戦っているのだろう。


「加勢に行かなくて良いわけ?」


「今の彼女に水を差すのは野暮ってもんだよ、それよか……僕は他の大天使級の奇襲に備えて、ここで待機した方が良い」


「ベルちゃん……、勝てるかな?」


 不安気に呟いた秋山に、錠前は自信と信頼しかない顔で返した。


「勝つさ」


 ◆


 ダンジョン第1エリアを主戦場として、執行者ベルセリオンと大天使サリエルは、凄まじい激闘を繰り広げていた。

 あまりにファンタジーなそれは、現代世界においてフィクションと言っても良いレベル。


「ちょいちょいちょい……!! 色々おかしいでしょ!!」


 羽根を広げ、地面を滑るように高速移動するサリエル。

 彼は先程から全力で攻撃を行っているが、それら全てがまったくもって––––


「『空烈破断』!!!」


 無意味だった

 ベルセリオンのハルバードが振られると、凄まじい衝撃波が発生。

 ガードの上から、またもサリエルは吹っ飛ばされた。


「調子に乗ってくれちゃってさ! たかが執行者ごとき……!!」


 空中で姿勢を転換しながら、下にいるベルセリオンに極限まで圧縮した魔力を向けた。


「『爆裂魔法(エクスプロージョン)』」


 発射された魔法は、見事に命中。

 強烈な爆炎を周囲に発生させ、建造物を崩壊させた。


「ガブリエルでも食らえばタダでは済まない……、終わったかな?」


 ホッと安堵の息を漏らしたのも束の間、漂っていた炎や爆煙が吹き飛ばされた。


「うっそぉ……ッ」


 爆裂魔法が直撃したにも関わらず、ベルセリオンには火傷一つ付いていない。

 いくらなんでも、あり得ない話だった。


 錠前勉のような次元防壁を会得したのかと思ったが、答えはすぐにわかる。


「そうだった……!! 執行者には魔法が効かないんだった!」


 そう、ベルセリオンやテオドールと言った執行者は、魔法耐性が極限まで引き上げられている。

 第3エリアでエクシリアの魔法がテオドールに効かなかったように、大天使級であっても例外ではない。


「わたしを倒したかったら、自分の肉体で勝負することね」


 再び空中に肉薄してきたベルセリオンに、サリエルも全力で回避を行う。

 ハルバードの切先をギリギリで避け、即座にカウンターを打ち込もうとして––––


「甘い」


 まるで最初から動きがわかっていたかのように、ベルセリオンはフェイントを入れた。

 ハルバードの軌道は囮、自称イケメンの顔面へ蹴りを叩き込んだのだ。


【サリエル様!!】


【お願い!! 勝ってください!!】


 そんなコメント欄の願望も虚しく、ベルセリオンは全てにおいてサリエルを上回っていた。

 ハルバードで斬り刻み、殴打でもってボコボコにする。


【ちょっ……、ここまでやられると萎えるんですけど……】


【無双配信って……タイトル詐欺なんじゃ?】


 いよいよ雲行きが怪しくなってくる中、遂に決定打が繰り出された。


「はぁあ!!!」


 ベルセリオンの斬撃が、サリエルの右肩を斬り裂いたのだ。

 持っていた腕ごと剣が落ちる。


「がああああぁぁあああ!!!?」


 悲痛な声を上げるサリエルに、構わず追撃で左拳を叩きつける。

 地面が噴き上がり、砂塵が舞った。


 血飛沫が石畳に落ちる中、涙目の大天使をベルセリオンは冷たく見下ろした。


「瀕死の秋山には随分と威勢が良かったくせに、情けない姿だ」


「グゥッ……ふぐぅ! くっそ! クソクソクソッ!!! たかが執行者如きがぁ!!!!」


 配信を台無しにされた以上、もはや眼前の執行者を生かして帰すなどあり得ない。

 ニッと笑ったサリエルは、残った左手に残りの全魔力を集めた。


「……火力勝負といこう」


 魔法出力なら、大天使である自分の方がずっと上である。

 執行者……それもたかが子供に、劣るわけがない。

 魔法耐性が高いなら、さらに上の火力を撃ち込むまで。


 だがその目論見は……、既に粉砕されていた。


「ッ……!」


 大天使に相応しい魔力出力を放つサリエル。

 しかし、魔法陣を足場に空中で立ったベルセリオンは、左手を天空に掲げて……。


「………………嘘でしょ」


 十重二十重(とえはたえ)の巨大魔法陣が、第1エリアの空を覆い尽くした。

 今のベルセリオンは、最高の生活環境と秋山の食べさせた美味しいデザート、そしてキチンと大人からの愛情を受けたことで……執行者本来のフルスペックを取り戻していた。


「”神威(かむい)“ ”黄昏(たそがれ)“ ”(きら)めく刻印(こくいん)“––––」


 詠唱による出力の底上げ。


 ベルセリオンの左手に、おそらく最大級と呼ぶに相応しい魔力が集まっていった。

 それに比較すれば、サリエルの出力はゾウに対して……まさしくアリ同然だ。


 最愛の恩人を傷付けられた彼女は、怒りを乗せ……“120パーセント”の力でもって––––眼下の大天使に死を突き付けた。


暁天一閃(ぎょうてんいっせん)、出力最大––––『極ノ煌』」


 かつて透たちが戦ったボスエリアごと、全てが吹き飛んだ。

 破壊の嵐はあらゆる物質を引き裂き、浄化の光が悪しき肉体を焼け焦がす。


「ミッ…………!!?」


 虫のような断末魔を上げて、大天使サリエルはその肉体を完全に消滅させた。

 慈悲も憂いも無い、殺意だけの一撃。


 まさに圧倒的な力の権化として、ベルセリオンは天使を消滅させた。

 そして、この一撃によりボスエリアを通じた裏技的転移も実質不可能となった。


「ゴミめ……、二度と秋山の前に姿を見せるな」


 後に残ったのは、巨大な更地のみ……。

 指先から魔力を払ったベルセリオンは、まさしく本来の執行者そのものだった。


 ––––その一方で、ユグドラシル駐屯地。


 未だ警報が鳴り渡る基地内にある医務室で、1人の少女が騒音など関係なしに眠っていた。


「ほえぇ……、とおるぅ、お腹いっぱいなのでもうお寿司は食べられませんよぉ……えへへっ……」


 とっても幸せそうに寝言を呟いた執行者テオドールは、周囲のドタバタなど一切気にせず……もう2日ほどお寝坊した。

300話、60万字……ここまで来れたのは応援してくださる方のおかげです。

引き続きよろしくお願いします!!

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― 新着の感想 ―
十重二重(とえふたえ)? 十重二十重(とえはたえ)なら分かりますけど……誤字ではないですよね、ルビ有るし……
あっ、魔法は効かないんだった!はさすがに舐めプというか、いやむしろ配信ウケを狙った感じがしましたねえ・・・。ていうか分霊飛ばしてるんでしょ?だから余裕ぶっこいてやがったなって感じ。 とまれ、ふぇルセ…
これはクリスタルガラス製灰皿ですわ 投げてヨシ、殴ってヨシ >もう2日ほどお寝坊 ほえドールちゃんさあ・・・ かわいいのでヨシ!
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