第30話・戦場の女神
ラビリンス・タワーの周囲には、5つの地竜の巣が確認されている。
全長80メートルにも達する、岩石質の厄介極まる拠点だ。
中には数多の地竜が住んでいる。
結論として、タワーへ普通科を送り込むにはまず、この巣をどうにかすることが先決だった。
そこで、陸上自衛隊はとっておきの兵器を用意してしていた。
「まさか……、こんな骨董品が役に立つ日が来るとは」
フロントガラス越しに呟いた透の前には、履帯が付いた巨大な大砲が置いてあった。
FH-70よりもさらに巨躯なそれは、まるで艦船の砲を見ているようだった。
「『自走203ミリ榴弾砲』。陸上自衛隊ではとっくに退役して、ウクライナに送られるか協議中だったこれが……ここで役に立つなんて驚きです」
タブレット端末を操作しながら、LAVの中で四条が呟く。
運転席の透も、同意するように頷いた。
「155ミリが西側の主流になってから、兵站の面でも嫌われてたあの自走砲だけど……確かに分厚い巣を壊すにはちょうど良い」
この榴弾砲は米国製で、射程は約30キロ。
ここからラビリンスタワーまで20キロなので、地竜の巣までは余裕で届く。
陸自の最新型が19式と呼ばれるトラックタイプなのに対し、これは戦車と同じ履帯だ。
何も知らない人が見たら、でかい戦車と見紛うだろう。
「四条、もう配信はやってんの?」
「いえ、今はラビリンス・タワー上空の『スキャン・イーグル』と映像を同期しています。これは動画化素材の予定です」
スキャン・イーグルとは、陸自が保有するUAVの一種だ。
カタパルトで打ち出され、任意のコースを偵察できる優れた代物。
ウクライナで使用されている物とは、また違ったタイプだ。
四条の持つタブレットに、雲の下を飛行するUAVからのカメラ映像が映っている。
「なるほど、これで弾着観測するわけか」
「はい、特科の方々が協力してくれて助かりました。おかげで安全地帯からわたし達も砲撃を見られます」
そうこうしている内に、榴弾砲が射撃態勢に移っていた。
鳥が巣を作れそうなくらい大きく広がった砲門が、8つも上を向く。
送られた座標に従い、適切な仰角がつけられ––––
「発射ッ!!!」
––––ドガァンッッ––––!!!!!
203ミリ榴弾砲の一斉射は、距離を置いた自分たちですら耳が壊れそうだった。
思わず両手で塞ぎ、目を瞑ってしまう。
「弾着まで10秒––––!!」
発射された砲弾は、美しい弧を描いて飛翔。
坂本と久里浜がいる戦車隊を飛び越えて、ラビリンスタワーの目前まで辿り着く。
「3、2、1––––弾着。今ッ!!」
8発の203ミリ榴弾が、まず2つの巣を木っ端微塵に吹き飛ばした。
その破壊力たるや凄まじく、爆風と破片で近くにいた地竜まで殺傷してしまう。
スキャン・イーグルからの映像が、すぐさま四条の端末へ送られた。
「なんつー威力してんだ……、155ミリの比じゃねえ……」
「あれだけ硬そうな巣が一瞬で……、これは完全に崩れ去りましたね」
感嘆する2人の傍で、さらに2射目が放たれた。
各砲が2分間に1発撃てるので、たった20分で80発もの203ミリ榴弾が降り注ぐ計算である。
画面の向こうは壮絶で、空中から見ればラビリンス・タワー周辺の土地で、噴火でも起きてるんじゃないかと思ってしまうほどだ。
何より––––
「さすが特科だな、こんなにピンポイントで巣に当てれるとは」
今回の砲撃は、被害を巣に限定している。
一歩間違えばタワーに命中してしまうが、この数十発でタワーの近くに落ちた弾は1つも無い。
透から見ても、練度が成せる神技と言えた。
「最終弾発射!!」
100発目が放たれていくばくか経ち……、最後に残っていた巣が粉砕される。
いや、砕くどころか根本の地面まで掘り返してしまっていた。
かつて、砲兵は戦場の女神と言われた。
この榴弾砲は、これから突入する者たちにとってはまさに女神も同然。
圧倒的な火力が、敵拠点を叩き潰す様は見ていて鳥肌が立つ。
「終わったな、じゃあ––––行くかっ」
シフトレバーを操作し、LAVを発進させた。
同時に四条が、配信開始のボタンを押す。
––––ダルマの足は落とされ、残すは頭のみとなった。
この世界の25年度では装備品輸出関連法が、F-3戦闘機の影響で進んでいます。
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