第3話・第1次ダンジョン派遣隊
「マジかよ……、初の実戦にしては特殊過ぎんだろ」
陸上自衛隊CH-47ヘリコプターの機内で、新海透3尉は項垂れていた。
それはもう、周囲から見ても「あー可哀想に」と思うくらいに。
「仕方ないですよ、隊長優秀ですし。SNSに詳しいヲタクだって上にバレてたんじゃないですか?」
気怠そうに隣で呟いたのは、目まで掛かった前髪が特徴的な陸自隊員。
名を坂本慎也3等陸曹。
年齢は透より少し上だが、何故か透の後輩的ポジションにいる部下だ。
性格はまさしく“陰”そのもので、この世のカップルは全員爆撃されろが口癖である。
「それ、お前の方がよっぽど詳しいだろ……」
「だから一緒になってチームへ放り込まれたんじゃないですか、まぁ自分は隊長と一緒ならどうだって良いんですけどね」
「…………」
この提案をした政府を恨みつつ、透は任務に集中することとした。
もう目の前に、巨大建造物が見えるのだ。
ヘリが着陸態勢に入る。
「坂本、銃器の最終点検だ」
「了解」
透が持っているのは、陸上自衛隊が2020年に正式採用した『20式5.56ミリ自動小銃』。
最新のトレンドを詰め込んだこの銃は、前任の89式小銃と比べてあらゆる点で勝っている。
高性能なライフルを国産で作れる国家は非常に少なく、日本は戦後から脈々と技術を紡いできたのだ。
よくベルギー製SCAR-Lのパクリだと言われるが、ぶっちゃけ現代の銃はどれも似た形になる。
ゆえに、透はそこまで批判を気にしていなかった。
なにせ性能が良いのだ。
最近開発された高威力弾薬も合わさり、破壊力はなんと米軍のM4ライフルをも上回る。
「隊長は良いっすよね、新しい物にすぐ馴染めて」
「そういうお前は古過ぎるんだよ……」
坂本がいじっていたのは、『64式7.62ミリ自動小銃』と呼ばれるライフル。
名前から察せる通り、なんと1964年に採用された骨董品だ。
「良いじゃないですか、7.62ミリの方がストッピングパワーも優れてますし、バレルが長いから精度も良い……最高ですよ」
とんだ物好きを部下に持ってしまった。
とりあえず、彼には準スナイパー的な役割を与えようと透は思う。
「着陸まで10秒!!」
銃器の点検が終わり、ヘリコプターの後部ハッチが開く。
戦闘配置のまま、せり出したダンジョンの庭部分へ展開する。
乗員と車両を下ろした輸送ヘリ部隊は、すぐさま離れていった。
今、自分たちは初めて未知の建造物に足を乗せたのだ。
「周囲に敵影無し!!」
「クリア!」
「クリア!!」
降り立った100名余りの隊員たちが、早速目の前の真っ暗な入り口へ目を向ける。
この先に、一体何が待っているのやら……。
「そういえば隊長、着陸したら広報と合流するんでしたよね?」
「あぁ、確か女性って聞いたんだけど……」
「へぇー、WAC(※女性自衛官)ですか。よく派遣が許可されましたね」
「なんでも関西––––伊丹駐屯地では有名な人だったらしいぞ、確か陸将の娘さんで……」
立っていた2人の後ろから、声が掛けられる。
「あなた達でしょうか、わたしの護衛を担当するっていう自衛官は」
2人が振り返ると、そこにはアっと声が出るほどに美人な––––しかし独特な覇気を持った女性が立っていた。
顔立ちは少し幼いが、黒色のショートヘアが全体のバランスをよく保っている。
日本人らしい澄んだ黒目が、透たちを見つめていた。
一瞬気押されたが、2人はすぐに姿勢を正す。
「練馬駐屯地の第1師団所属、新海透3尉です。あなたが例の広報の……?」
「えぇそうです、わたしは関西から来ました四条エリカ2曹と申します。先日までは兵庫地方協力本部にて勤務しておりました」
「なるほど、既に聞いてるとは思うけど……今回は普段編成される陸自の枠組みから大きく外れている。小隊って名前らしいけど、人数はこっちの坂本3曹を入れて3人だ」
「存じております、しかし……納得できませんね」
四条2曹は、怪訝な表情を透へ向けた。
「いくら最低限の護衛とはいえ、幹部候補生学校を出たての小隊長がリーダーですか……」
明らかな落胆の声に、坂本3曹が前に出る。
「がっかりするのは自由だけど、多分いざ戦闘になったら手のひら返すと思うよ」
「へぇ、それは楽しみですね。わたしは今回武装は拳銃しか持っていませんので。ぜひ頼りにさせていただきます」
その声に信頼は一切無い。
だが、透としては特に気にしなかった。
自分たちの役目は決まっている。
後はただ、任務を全うするだけだ。
「第1小隊!! 突入用意!! 入り口の先はドローンで既に偵察済みだ、敵影は無し……だが警戒して進め!」
作戦前にあらかじめ持ち込んでいた82式指揮通信車から、任務部隊の指揮官が指示を出す。
「馴れ合いは強要しないが、ちゃんと守れる範囲にいてくれよ。四条2曹」
「言われるまでもなく、わたしは粛々とこの作戦を配信するだけですので」
先頭を行くLAV(機関銃付き装甲車)に続いて、透たちは他の部隊と共に未知の迷宮––––『ダンジョン』へ入り込んだ。
今日ここで、日本という国は––––大きく変えられる。
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