第296話・あなたにとって第1特務小隊とは?
––––貴方にとって第1特務小隊とは?––––
今日も透たちがモンスター狩り配信に勤しむ頃、小隊監督室に、いつぞや来た防衛省の監察官が入っていた。
彼は無機質にメモを取ると、開口一番で質問を繰り出した。
「僕にとっての小隊か……、ずいぶんと変なこと聞くね」
椅子に座りながら配信を見ていた錠前1佐は、やれやれと前のめりになる。
タブレットを置き……サングラス越しに、紅い魔眼で正面を見た。
「そうだなぁ、僕にとってはみんな可愛い後輩であり……“推し”かな?」
––––推し……ですか––––
「そうそう! だってあんな個性的で面白い連中あんま見ないし。僕は上官であると同時に……世で言うなら箱推し勢ってやつになるのかな?」
––––上官が箱推しなんて、聞いたこと無いですが––––
「わかってないなぁ、部下だろうと推しには違いないんだよ。みんな大好きさ」
––––ではお聞きしますが、まず久里浜士長についてどう思っていますか?––––
メモにペンを走らせる監察官の問いに、錠前は機嫌良く答えた。
「そうだねぇ……、彼女は縁あってウチの小隊に入ったけど。一言で言うなら一番可能性を感じる逸材かな」
メモの音が響き続ける。
「あの歳で女の子なのに特戦群へ入ったんだ。まだ未熟なところは多いけど、間違いなく期待の星だよねー」
––––坂本3曹についてはどう思っていますか?––––
「アイツ、不器用そうな雰囲気しといて意外と器用だし気が利くんだよ。言うならば……無人島に持って行きたい自衛官かな」
メモの音が続く……。
「小隊で遠距離射撃させたら、たぶんトップだよ。なんであんなにゲームしてアニメ見てるのに、裸眼で視力良いんだろ……」
––––四条2曹についてはどう思いますか?––––
「彼女はなんたって陸将の娘さんだからね、こう言ったら悪いけど……地本で置いとくには勿体無い人材だった」
––––前から狙っていたと?––––
「そうだね、機会があれば市ヶ谷にまで上げる算段を立ててたんだけど……偶然、ダンジョン配信がバズってその必要が無くなった」
––––どの辺りを評価していますか?––––
「心技体の全部、それに配信の素質もあったから……特務小隊設立の時に僕が全面的に推した。本人はなんで自分なんかが……とか思ってそうだけど」
ケタケタと笑う錠前に、監察官は続いて質問した。
––––では最後に、新海透についてどう思っていますか?––––
「新海かぁ……」
しばらく黙った錠前は、いたって真剣に声を出した。
「アイツは僕に次ぐ“異能”だよ、一見どこにでもいる青年だが……彼と同じタイプの日本人は存在しないと思うんだ」
––––根拠があるので?––––
「根拠と言うにはとても曖昧さ、僕の直感だよ」
––––確かに曖昧ですね––––
「でも1つ確かなことがある。それはね……」
錠前の瞳が、一瞬暗くなったような気がした。
「根っこがイカれてんだよね……アイツ、僕と明確に正反対な人間なんだけど、ある意味僕と一番近い存在だ」
––––イカれている、ですか––––
「そっ、仲間がやられても決して激昂せず……やるべきをこなす。多分、腕が吹っ飛ばされても冷静に振る舞うよ……アイツなら」
どこか私情のこもった声で、錠前は続けた。
「新海は僕に並ぶ自衛官になる……いや、第1特務小隊のみんなが……いずれ僕に並ぶだろう。彼らにはそれだけの才能がある」
––––そこまで言いますか––––
「あぁ、みんなには……あり得ない話だけど、“僕がいなくなった後”を担ってもらいたいからね。期待してるよ」
端正な顔で話し終えた錠前に、監察官はメモを閉じた。
「以上で良いかな? 拙いインタビューで申し訳ない」
––––大丈夫です。ありがとうございました、お見送りは結構です––––
そう言って背を向けた監察官に……。
「ちょっとちょっと、忘れ物だよ」
錠前は服の下に隠していたSFP-9自動拳銃を発砲。
監察官の胸から、真っ赤な鮮血が噴き出した……。




