第294話・特務小隊の実力
「多分だが、敵に戦術的な思考をできる地球人がいる……」
透の言葉は、全員にすぐさま確信を持たせた。
こちらの火力と機動力を潰す上で、モンスターがここまで巧妙な策を弄するわけが無い。
戦術においてモンスターが戦列歩兵以下なのは、これまでの戦いや執行者テオドールの証言でわかっている。
「車はどうします? 捨てますか?」
四条の問いに、透は即答した。
「徒歩じゃこっちの方が遅い。それよりも、LAV盾にして敵の魔法を防いだ方が良いだろう。全員––––」
小隊長の声が、森にこだました。
「撃ち方始めッ!!」
透の覇気がこもった号令で、第1特務小隊は一斉に愛銃を撃ち放った。
M2ほどの威力はさすがに無いが、やはりライフルだけあって400メートルは余裕で有効射程。
次々とモンスターを結晶に変えて行く中で、透の危機察知能力が動きを感知した。
「魔法攻撃! 来るぞ!!」
奥にいたスケルトンメイジが、神々しい光と共に攻撃。
透たちの盾である、LAVに直撃した。
「……手榴弾よりかは爆発するけど、破片を散らさない分脅威度は低い! 坂本!!」
名前を呼ばれた彼が、木をカバーに取りながら振り返る。
「ウチでスコープを持ってるのはお前だけだ、発射前に狙撃しろ。次は撃たせるな」
「了解」
マガジンを差し込んだ坂本が、コッキングレバーを引いて頭を出した。
同時に、敵にも動きがある。
前衛を担当していたゴブリンが、人間よりずっと速い速度で突っ込んで来たのだ。
しかし––––
「よっ」
LAVのドアを盾にした久里浜が、HK416A5を軽やかに発砲。
丁寧に調整されたホロサイトを使って、イレギュラーな機動をする敵をドンドン撃ち抜いていった。
さらにその横では、四条が腹這いになって89式小銃のバイポッドを展開。
究極の安定性を得てから、セミオートで着実に狙い撃っていった。
小隊内では唯一ドットサイトやスコープを付けていない彼女だが、2曹というベテランとしての経験値でカバー。
アイアンサイトにも関わらず、射撃精度は久里浜と同レベルだった。
「ッ! 坂本!!」
透が再び探知。
奥に隠れていたスケルトンメイジが、魔法を発動しようとして……。
「……スゥッ」
––––ダンダンッ––––!!!
「ギッ……!!?」
距離にして600メートルはあろうところを、坂本は草を貫いて弾を当てた。
「光が目立ち過ぎなんだよ」
続いて発砲。
今度もまた、魔法発動寸前の敵を撃ち抜いた。
ふと見れば、久里浜がなぜか少しドヤ顔になっている。
だが、ここに来て敵もやられっぱなしなことに苛立ったのだろう。
前衛に盾を持ったゴブリンを配置し、500体からなる大群で一斉に突っ込んだ。
「総員、突撃破砕射撃––––始めッ!!」
セレクターをフルオートに切り替えて、あらんかぎりの弾幕を展開。
マガジンは腐るほどあるので、まさに撃ち放題という状態だった。
【うおおおお!! いけえぇえええ!!!】
【LAVたんの仇だ! やっちまえ!!】
肉弾戦への持ち込みを、透たちは全力で阻止に掛かる。
しかしこれだけの一斉射撃をもってしても、敵の勢いを完全に削ぐことはできなかった。
「全員、遮蔽物に隠れろ」
20式を下ろした透が、一見拳銃のような物を敵に向けた。
トリガーが引かれると、弾ではなくレーザーポインタが照射された。
双方の距離は250メートル。
いよいよ終わりかと思われたとき、モンスター群の中央に炸裂する雨が降り注いだ。
オープンにしていたLAVの無線から、声が響く。
『こちらハンター1、機銃掃射開始します! なるだけ伏せていてください!』
約2キロ離れた上空で、AH-64Eガーディアン攻撃ヘリがホバリングしていた。
透が照射していたのは、レーザーデジグネーターという空爆座標を指定する機械だ。
そのハンドガンのような可愛らしい外見と裏腹に、強烈な近接航空支援を呼べることから、“世界最強の拳銃”なんて呼ばれたりする。
––––ダダダダダダダダダンッ––––!!!!
後方のガーディアンが、続いて30ミリチェーンガンを発砲。
これは弾頭が徹甲榴弾と呼ばれる物で、相手の装甲をぶち抜いて爆発する凶悪な砲弾だ。
ペットボトルほどの大きさの手榴弾が、マッハを超えて撃ち込まれるとイメージすれば良いだろう。
「わかってはいたけど、間近だと凄い威力だな……」
透がレーザーを向けると、その地点が爆発の嵐で覆われる。
これはなかなか、癖になりそうだった。
本来であればJTACと呼ばれる特別な方々がやる仕事だが、錠前パワーにより透も今回使用可能だった。
「敵の殲滅を確認。やっぱヘリってすげー……」
スコープで覗いた坂本が、感嘆の声を漏らす。
辺りには、当初考えていたよりも大量の結晶が散らばっていた。
まさに大収穫である。
腐りかけの弾薬でこれが手に入るなら、激ウマと言って良い。
【俺も自衛隊入りたい!!!】
【これがダンジョン派遣部隊、その中でも特別な人たち……なんか言葉出ねーわ】
【地球舐めんなファンタジー】
コメント欄を一瞥した四条が、透に駆け寄って来て……右手を挙げた。
一瞬なんだろうと思ったが、理解ある彼氏はすぐに察して––––
「お疲れ!」
––––パンッ––––!!
小気味良い音を響かせながら、互いに笑顔でハイタッチ。
上空を攻撃ヘリが旋回する中、透たちは結晶をたんまりと回収することに成功した。
ちなみにだが、この時……凄まじい勢いで流れるコメント欄に1つの言葉があった。
【女子2人ー。彼氏が活躍するたびにそんなドヤ顔してたら、周囲にすぐバレちゃうよ〜?】
非常に軽い口調のそれは、一瞬で流れ去ったため誰も気づかない。
1つ言えるのは、どこかの誰かさんが……留守番中に暇になって、適当に書き込んだのだろう。




