第293話・チート戦法
「おー、こりゃ凄いですね」
銃座から上半身を出していた坂本が、後部座席に置いてあった64式小銃のスコープで敵を見ていた。
倍率の掛かったそれに映ったのは、ゴブリンからオーク……果てはスケルトンメイジといったモンスターが大量に。
彼のカメラを見ていた視聴者も、遠目に映る大量の敵影にざわついた。
【これ……、逃げた方が良くね?】
【さすがに4人でこの数は無理だろ! みんな急いでにげて!!】
敗色濃厚。
視聴者たちの脳裏にそんな単語が浮かんだが、透は全く逆だった。
「坂本、距離は?」
「目視で400メートル! 凄い数ですよ……!」
普通なら慌てる場面。
だが、防衛大で歴史の勉強もしていた透は、微塵も動揺していなかった。
「ソンムの戦いって知ってるか? 第一次世界大戦じゃ数千人が一斉に突っ込んでも、機関銃を突破できなかった。怖がるな––––坂本、撃ちまくれ!!」
指示が飛んだと同時に、坂本は64式をスリングにかけてM2を撃ちまくった。
12.7ミリクラスの凶弾が、激しい豪雨のようにモンスターへ襲いかかる。
だがさっきまでで撃ち過ぎたのだろう……。
激しい連続射撃で、M2の銃身が真っ赤に染まってしまったのだ。
「オーバーヒート!」
マシンガンの弱点として、撃ち過ぎると銃身が熱で変形してしまう部分にある。
こうなってしまったら、熱が冷めるまで待つしか無いと思うだろう。
「おっし、じゃあ引き離すぞー」
慌てることなく、透はLAVのアクセルを踏んだ。
車が発進したと同時に、坂本が車内に顔を引っ込める。
「チビ助! 予備銃身取ってくれ」
「誰がチビ助よ! はい! サッサと取り替えてよね」
淀みないコミニュケーション?で、用意してあった新品の銃身が渡された。
時速80キロの車上で、坂本は断熱グローブを着けて素早く熱々の銃身を交換。
もう一度コッキングレバーを引いてから、射撃を再開。
この間……、なんと10秒程度。
坂本が銃撃を始めれば、また車は適当な場所に停車。
再び両者の距離が700メートルほど離れたところで、視聴者たちは気づいた。
【めっちゃ引き撃ちしてて草】
【まぁこっちの方が射程で勝ってるのに、わざわざ近づく意味も無いわな】
【ゲームだったら絶対許されない戦法やん】
【心配は杞憂だったか】
そう、今回は相手に機動力というものが皆無。
こちらは敵の射程内に入りそうになったら、車という現代のチートアイテムで距離を離せば良いのだ。
遠距離からほぼ一方的に敵を葬っていく様は、某地球防衛ゲームを彷彿とさせた。
「良いですね透さん、このまま確実に敵を減らしていきましょう」
助手席の四条が、安堵したように呟く。
このまま塩試合を続けていれば、現代兵器で武装したこちらが勝つ。
ゲームでは無いのだ。
卑怯と思われようが、確実に勝てる戦法があるなら使うべきである。
「隊長、また敵の炸裂魔法が来そうです。そろそろ移動を」
「わかった」
幾度目かの発進をしようとした時、後方で魔法の光が瞬いた。
「敵弾!!」
動き始めた車体の傍を、炸裂魔法が通りすぎる。
しかし狙いはお粗末なもので、大きく外れていた。
誰もが問題無いと思った時、それは起こった……。
「なっ!?」
運転席の透は見た。
進行方向にあった太い木に、炸裂魔法が命中。
音を立てて倒れてきたのだ。
「掴まれ!!!」
倒木は、左右から透たちの乗るLAVを挟むように押し潰した。
「あっぶ!!?」
銃座にいた坂本が、間一髪で車内に落っこちてくる。
装甲車なので潰れはしなかったが、久里浜が叫んだ。
「M2故障!! タレットごとやられました!!」
油圧ペダルを何度も押し付けるが、旋回機能は死んでいた。
「チッ!!」
すぐさま車体を動かそうとするが、透はここでようやく気づいた。
「あっ……、これスタックしてる……」
「「「はい!??」」」
LAVは2本の倒木によって、その身動きをガッチリ封じられてしまった。
最後に飛んできた魔法は、車ではなく最初から木を狙っていたのだ。
重機関銃を潰し、こちらの機動力を削ぐ……。
現代兵器を知っている者でなければ、ほぼ思いつかない戦法だ。
「あーっ、油断した。だるいなこれ……」
少し怪訝そうな顔をした透は、すぐさま20式小銃を持った。
「全員下車して応戦、多分敵に……こっちの装備を知ってる“地球人”が混じってるぞ。大方想像はつくけどな」
引き続き面白いと思った方、でも感想書きづらかったら一言
『( ゜∀゜)o彡。』とコピペでどうぞ!!




