第291話・わたしらでお手伝いしようじゃないの
「いやー、久しぶりにたくさん撃てそうでワクワクするわね」
そう言ってプラスチック製マガジンを手に取ったのは、LAVに背を預けて座る久里浜だった。
彼女は愛銃の“HK416A5”を傍に置きながら、ルンルン気分で弾を込めていった。
カチッ、カチッとM855A1という軍用規格の5.56ミリ弾が、マガジンに詰められていく。
「千華、お前は休憩を見つけたら速攻レンジ行って撃ちまくってたろうが」
そうツッコミを入れたのは、真隣で座りながら、同じく弾薬をマガジンに込める坂本。
彼もまた、地面にバイポットで立てた“64式自動小銃“を置いていた。
「アレはただの研鑽よ、わたしは実戦で撃つのが楽しみなの」
「バトルジャンキーだな、特戦ってみんなそうなの?」
「一応銃を撃たない職種の人もいるわ、工作専門とか支援要員とか」
「ふーん」
お互いが1個目のマガジンに弾を詰め終わり、次の物に取り掛かる。
坂本と久里浜は、なんというかほぼ密着状態で装填作業をしていた。
そんな2人を見ていた四条が、正面で呟いた。
「あの……、気のせいであれば申し訳ないのですが」
「ん? なんすか?」
「さっきから、お互いを下の名前で呼び合っていたような気がするのですが……」
ちょっと赤面する四条に、久里浜がなんの動揺もなく言い放った。
「まぁ、自分ら付き合ってますし……一応配信では隠そうって決めてます」
「そ、それはもうテオドールさんの爆弾発言で知っているのですが、えと……ちょっと聞きたいことがありまして」
今、透は錠前へ出発報告をしに行っているので、ここにはいない。
ならばと、四条はとことん踏み込んだ質問を繰り出した。
「ほ、本当にその……千華ちゃんは坂本3曹と“初体験”を済ませたのですか?」
2人が至近距離で顔を見合わせる。
久里浜の誕生日パーティーで、テオドールは久里浜のお腹に気配を感じると言っていた。
だがいくら異世界の魔法少女とはいえ、現代文明を生きる日本人であれば根拠が欲しいところ。
まして、自分がようやくお付き合いというステージに立ったというのに、後輩が数段先を行っていたら––––
「……まぁ、もうバレてるんで先輩には言うんですけど。とっくに済ましちゃってます」
「ッ……!!」
思わずPマグを手から落とす四条。
疑問が確信へと変わったことで、まだまだウブなご令嬢は震え出した。
「そ、それはその……そのままの意味で受け取って良いんでしょうか?」
「意味も何も、僕がこいつを気絶するまで※※※※イングリンモングリンしました」
「イングリンモングリン!!?」
大赤面した四条は、どうりでと納得した。
さっきから互いの距離がやたらと近い上に、最近の久里浜は体がさらに良い匂いになっていた。
さらには、しょっちゅう坂本が彼女の茶髪を触るのでもう確信犯と言って良い。
さっき言ったように、※※※※イングリンモングリンしたと言うなら全部の辻褄が合う。
そこを踏まえ、先輩という立場を一旦捨てて……大人の階段を登った2人にいっそ聞いてみた。
「ど、どうやったら相手を誘え……」
ここまで言ったところで、背後から声が掛けられた。
「おーうお疲れー、錠前1佐に出発の報告して来たぞー」
「っ!!?」
戦闘団本部に行っていた透が、このタイミングで帰って来たのだ。
すぐさま四条は落としていたマガジンを拾い、自然に弾込めを再開する。
「四条、2人となんの話してたの?」
「いえ、戦術の打ち合わせをしていただけですよ?」
「ふーん、M2重機の装填はした?」
「あっ、まだなのでお願いします」
「はいよ、じゃあやっとくわ」
LAVに乗り込み、上部に設置された12.7ミリ重機関銃を弄る透。
そんな一連の様子を見ていた久里浜が、手を動かしながら小声で喋った。
「ねぇ慎也、四条先輩……新海3尉と付き合ってるのかな?」
「だとしたら何だよ、言っとくが僕は隊長からなんか言われない限り関わんないからな」
「いやいや、そうは言うけどさ……四条先輩を見てみ?」
「んー?」
さりげなく目線を動かすと、座りながらマガジンを持つ四条。
だが、2秒に1回くらいのペースで透の方をチラ見していた。
「……めっちゃ見てんな」
「でしょ? だからさ……ここは1つ、部下としてお手伝いしてみない?」
「何をだよ」
目を輝かせた久里浜が、最後の1発を入れながら返した。
「あの焦ったい距離感をグッと縮めてあげるのよ、具体的には……そうね」
マガジンを地面にカンカンと叩き、弾のズレを直しつつ……久里浜は衝撃的な発言をした。
「キスするところまでとか」
「……ガチで言ってんの?」
「ガチに決まってんでしょ、わたしは敬愛する先輩を……アンタは大好きな隊長を、お手伝いしたくないわけ?」
「そりゃしたいけど……。そういうのって本人のタイミングじゃ……」
「決まりね、1つプランがあるわ……聞きなさい」
「まずお前が僕の意見を聞けよ?」
この1時間後、第1特務小隊を乗せたLAVは発進。
駐屯地を出てから少しして、配信を開始した。
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