第29話・対ソヴィエト連邦決戦兵器
「目標正面、丘陵上! 弾種対榴! 撃てェッ!!!」
––––ドパパパァンッ––––!!!!
90式戦車隊の正面に現れたのは、明らかに異質な地竜だった。
これまではただ少し硬いだけの甲殻に覆われていたのが、正面部位をまるでダイヤモンドのような物が包んでいる。
距離2キロで放った対戦車榴弾は、地竜にダメージを与えるも即死まで持って行けなかった。
「なんだアイツら……、明らかに硬いじゃん」
カメラを正面に向けていた坂本が、無線で戦車長に聞いてみる。
「弾かれたように見えましたけど、大丈夫なんですかね?」
それに対する戦車長の返事は、豪快だった。
「外皮硬度が他の個体と違うな……! しかし一向に構わん! 現代の戦車砲に貫けない物は無い!!」
横隊に整列した戦車が、30体はいる仮称––––“ダイヤモンド地竜”へ砲門を向けた。
「目標、正面地竜!! 弾種徹甲! 撃てッ!!」
激烈な射撃音と同時に、90式戦車からAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)が飛翔していく。
砲弾の威力は、質量と速度の2乗で決定する。
弾頭重量が重ければ近距離でのダメージは大きくなるが、代わりに遠方では速度が足りずに威力が落ちてしまう。
そんな悩みを解決したのが、この一見矢のように見えるこの弾頭。
質量と速度の中でも、特に速度にステータスを振った砲弾だ。
重さがたとえ平均でも、とにかく弾速が速いのがこの弾の特徴だ。
弾着時の速度が発射時とほぼ変わらなければどうなるか、結果はこうだ。
「ゴガァッ!!?」
地竜のダイヤモンド装甲が、呆気なく粉砕された。
それどころか貫通してしまい、弾頭が地面に突き刺さる。
絶命した地竜が、結晶に姿を変えた。
「なるほど、弾速を維持できてると……至近距離で当てた時と同じ威力を与えられるのね」
「その通りだお嬢ちゃん!! 全隊、次弾装填! 弾種そのまま––––」
カメラを向ける久里浜に、戦車隊は素晴らしい映像を与えようと動く。
なんと、4両が一斉にエンジン全開で前へ飛び出したのだ。
「おいおい、マジかよ」
さすがに驚愕する坂本。
互いの距離が1キロにまで迫った時点で、90式戦車小隊は急カーブ。
横移動しながら、砲身を旋回させた。
「弾種徹甲! 小隊行進射––––撃てェッ!!」
––––ドパパパパァンッ––––!!!!
驚くことに、両方移動しているにもかかわらず砲弾は全てが、ダイヤモンド地竜に命中した。
遡れば、この90式戦車はかつてアメリカと世界を二分した超大国––––ソヴィエト連邦と戦うために作られたものだ。
圧倒的なソ連陸軍に対し、少しでも生存性を高めようと当時の人間はあらゆる技術を詰め込んだ。
今やった“行進間射撃”も、その時に開発された現代戦車の必須機能。
とにかく性能が高水準で、同じ西側戦車ならアメリカのM1A1エイブラムス、ドイツのレオパルド2A5と並ぶもの。
しかも陸自は、ソ連を北海道で叩き潰すため––––こんな高性能戦車を200両も保有していた。
このダンジョンに持ち込まれたのは、あくまでごく一部に過ぎない。
もし日本本土で戦闘となれば、これを遥かに上回る10式戦車が出動する。
90式でさえウクライナに供与されていれば、アメリカのエイブラムスと同等の戦果をロシア軍に対して叩き出すだろう。
日本は旧陸軍の時の戦車後進国から一転、世界でも有数の戦車先進国となっていたのだ。
「第1特務小隊の諸君、撮れ高は十分かな?」
亜種としてパワーアップした地竜も、90式の前では無力だった。
完全なワンサイドゲームで、戦いは終了する。
「ありがとうございます中隊長、おかげで良い映像が撮れましたよ」
「そりゃ良かった、動画化したら教えてくれ! すぐに財務省の戦車不要論を唱えるバカ共へ見せに行くからよ」
「あー、了解です」
ふと思い出す。
ウクライナ戦争勃発時、当時の財務省は歩兵用の対戦車ミサイルジャベリンがあれば、戦車などいらないと言った。
これはとんでもない暴論で、ミサイルの射程に近づくまでに何人の兵士が死ぬかも考えていない、凄まじいものだった。
当然批判が湧き上がり、当時国会では「財務省が特別対戦車チームを編成して、自ら敵戦車撃破に向かえ!」と言われたほど。
この戦車中隊長も、漏れなく激怒した者の1人なのだろうと坂本は悟った。
––––ラビリンス・タワーまで、あと10キロ。
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