第288話・ダンジョンの秘密
「くっはは、第1エリアを丸ごと封印するとは……なかなか大胆じゃないか」
––––ダンジョン内、エデンの間。
花畑とリンゴの木が生い茂るここで、ダンジョンマスターのエンデュミオンはコーヒーを飲んでいた。
そのメーカー名は、日本語で書かれていたが……この世界の日本には存在しない名前だった。
「おいおい笑い事じゃないでしょー、せっかく“ウリエルの死霊操術“が上手く行きそうだったのに……これ、執行者連中を逃した君のミスなんじゃない?」
対面に座った金髪の男が、腕を組みながら文句を垂れた。
背中からは純白の羽根が生えており、彼が人間ではないことを示している。
「そう慌てるなガブリエル。執行者なぞ、元々大した能力を持たなかったガキ共だ……その気になればいつでも殺せる」
「……本当かねぇ、確かに伝説より弱い印象を受けたけど。事実ならここまで大規模な封印作業はできないと思うが……」
「くはっ、つくづく杞憂を抱くのが好きだな貴様は。偶然、奇跡……それらがたまたま起きたに過ぎん」
このエンデュミオンという若い風貌の男は、全く知らなかった。
渋谷ではエクシリアや陳大佐との連戦で消耗しており、万全ではなかったこと。
執行者という存在が、正しい運用をすればどれだけ強力なのか……。
「君って本当に食事に興味無いよね、このコーヒーも激マズだし」
カップの中身を飲み干したガブリエルが、不満気に呟く。
「部下に美味いもんを食わせようって、気概とか無いわけ?」
「くだらんな、なぜ食事という行為にリソースを割くのか……まるで理解できん。生命活動など魔力があれば代替可能、味わうという行為に意味は無い」
「だーから執行者ちゃんたち逃げちゃったんでしょ、君の杜撰な栄養管理のせいで……。あーもったいない」
「なんだガブリエル、さっきからやけに執行者共にこだわって」
未だ意味を理解できていないエンデュミオンに辟易としながら、ガブリエルは説明した。
「そもそも、執行者という存在自体が特別なの。エクシリアは例外に近いけど……とにかくそれを3人も眷属として使役できたのは、本当に運が良かったんだ」
「ほう?」
「転生者の君は知らないかもだけどね、執行者は本来……1つの世界に1人までしか生まれないの」
「早速の矛盾だな、俺は最初に攻めた国……“エンデュアランス”でベルセリオンとテオドールをセットで見つけたぞ」
「だーからそれが僥倖だったって言ってんじゃん。執行者はね、1人使役できたらそのまま世界制覇できるくらい強いしレアなの。それを2人も手に入れたってのに……」
とても残念そうにするガブリエルは、激マズコーヒーを嫌そうに飲み干した。
「どうすんのさ、我々にノルマ分を支払いしてくれなきゃ……君に与えた“チート能力”は剥奪することになるけど」
「フッ、脅しか?」
「ただの事務連絡、こっちは久しぶりにダンジョン配信しようと準備中なの。君には実際のところ……興味が無い」
「しばらく待ってくれと言うしか無いな、まぁ心配せずとも……直近の内に支払うさ」
エンデュミオンもコーヒーを飲み干す。
お互い空になったカップを挟み、睨み合った。
そこに互いが味方だという認識は、微塵も存在しない。
「もう付き合って年単位になるけど、エンデュミオン……この世界に来てから君の目的が見えないな」
「はっ、どういう意味だ?」
「君は転生と特典のチート能力を貰い、代わりに我々の尖兵として……停滞した世界からダンジョンを使ってエネルギーを奪い、天界に譲渡する。そういう契約だったはずだよ?」
「そうだな、宝や冒険心目当ての阿呆共をダンジョンに誘い入れ……そこで殺害することでエネルギーを得る。もちろん忘れてないさ」
「全く上手く行ってないような気がするけどね」
「お前も知ったはずだろうガブリエル、この世界の日本は……数多ある世界線の中でもかなり歪。本来存在しない世界と言っても良い」
「確かに、魔法が存在しないのにどうやってこんな発展したんだろうね」
聞けば、この世界では“科学”という分野が幅を効かせているという。
この世の法則を数学や数理によって解明し、原子レベルで運用する迷信に近い力だ。
「鋼鉄竜バルベルクが一瞬で殺されたし、あのミサイル……? とか言う兵器もなんとか解析しないとね」
「それももちろんだが、問題は“ヤツ”だろう?」
2人の脳裏に、紅い眼がよぎった。
「現代最強の自衛官にしてアノマリー……、錠前勉だね?」
「渋谷でヤツに半身を吹っ飛ばされた貴様なら、ヤツの強さがわかるはずだ。錠前勉さえ警戒すれば……後は雑兵だろう。どうとでもなる」
「そうだね、錠前さえ気をつければ––––」
2人が結論に至ろうとした瞬間、横から声が掛けられた。
「お言葉ですが、それでは同じ失敗の繰り返しになるでしょう」
「「?」」
エンデュミオンとガブリエルが振り向いた先には、1人の青年が立っていた。
まだ若く凛とした彼は、人民解放軍の制服をカッチリ着込んでいる。
「ねぇエンデュミオン、こいつ誰?」
ガブリエルの疑念に、過去の記憶を漁ったエンデュミオンが答えた。
「……あぁ。錠前勉封印作戦の前に、陳大佐が連れて来ていた部下か」
「はい、自分は名前を林少佐と言います。先日までは報告のために中国本土へ戻っておりましたが、国防部より改めて派遣されて来ました」
「さっきの言葉、どういう意味だ?」
史上最強の魔導士と、天界最強の大天使に睨まれながらも……林少佐は微塵も怯まず返した。
「自分が啓蒙していた陳大佐もまた、お2人と同じく……錠前勉さえ封じれば勝てると思っておりました」
「それが間違っていると?」
「はい、だから大佐は渋谷で死んだのです。錠前勉の封印後……彼の部下と執行者によって」
「では何か? 俺たちは錠前以外も警戒すべきと?」
怒りすらこもったダンジョンマスターの問いに、したたかな笑みを見せた林少佐が答える。
「えぇ、我々が真に警戒すべき伏兵は……新海透および四条衿華と、その部下や眷属たちです」
林少佐。
彼はこの後起きる危機の立役者に、名を馳せる人物だった。
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