第286話・執行者本来のスペック
筆が乗ったのと、皆さんの応援&感想でモチベ上がってるので更新でーす。
「えっ、死ぬってどういう…………?」
突然の警告に意味がわからなくなった秋山だが、すぐに理由が判明した。
「うそぉ…………」
気づけば自分の背後にドス黒い影が立っており、漆黒の爪を首に当てていたのだ。
そういえばと、秋山はこの美容室が居抜きになった理由を思い出した。
「なるほど、こういうことか……錠前くんは相変わらずだなぁ」
思わずため息が出た。
“幽霊騒ぎ”。
今までは少々驚く程度で済んでいたものが、とうとうここに来て害をもたらし始めていたのだ。
その第一のターゲットが、不幸にも民間人の秋山であった。
「ねぇベルセリオンちゃん、これ……反撃したらマズイ?」
秋山の問いに、ゆっくり正対したベルセリオンが答える。
「秋山にリスクは背負って欲しくない……下手に怪我したら嫌だし、ここはわたしに任せて」
「オッケー、任せるわ」
大人しく、隠し持っていた眉毛カット用のナイフを床に落とす。
今までのベルセリオンであれば、このような状態になった瞬間……混乱して愚策を取った場面だろう。
しかし、
––––“ファントム種”なのは確定ね、普通ならこんなの執行者の権限無しでダンジョンに出ないはずなんだけど……。自衛隊によるエリア開放で綻びが生じた結果かしら。
その小さな頭で、とてつもない速度の思考と熟考が展開されていた。
––––実体化してるのは首に当てた爪部分だけみたいね、物理攻撃は相性が悪いと見て良さそう。秋山に静止をお願いして良かった。
今の彼女は、かつての執行者時代と明らかに変わっていた。
僅か2秒にも満たない時間で、膨大な情報を処理……こちらが取りえる最良の選択肢を探っていく。
この世には、“貧すれば鈍する“……という言葉がある。
これまで無能ムーヴばかり決めて来た彼女は、その実……ただ酷い栄養不足で、脳の処理が全く上手くいっていなかったに過ぎない。
「そこの不調法者、自分が今何をしているかわかっているのか?」
普段と口調を変え––––低く力のこもった声で、影に話しかける。
ユグドラシル駐屯地で暮らし始めて、今日で1週間……。
この間で、
1日3食、栄養満点の食事を人生で初めてお腹いっぱい食べ。
午後はテオドールや、他の自衛官と一緒に体力トレーニング。
その後はシャワーで身体を綺麗に洗い、豪華な大浴場でたっぷり30分……疲れが取れるまで湯船に入浴。
そして、夜にはエアコンの効いた部屋でフカフカのお布団に包まれ、柔らかい枕に頭を預けて7時間以上熟睡……。
これら圧倒的な生活改善策により、今のベルセリオンはかつてと別物のスペックを誇っていた。
「わたしは第1エリアを含むダンジョンの執行者、ベルセリオンだ。一体誰の許可を得てその方の首に爪を当てている?」
怒気すら孕んだその声に、影は僅かに揺らぎ始めた。
ベルセリオンの水色の髪と、金色の瞳が魔力で輝きを放つ。
「命令だ、今すぐ立ち去れ……。さもなくば容赦はしない」
荘厳な彼女の言葉に、影の口部分が動いた。
「オレタチ……、マケテナイ。デモ、ダイジナヒト……ウバワレタ……」
秋山にはただのノイズにしか聞こえないそれも、翻訳魔法を使うベルセリオンはハッキリと聞き取った。
「そう……、で? お前は何がしたい? その方を殺しても、無くした物は返って来ないぞ?」
「オレタチ……、エンデュアランスのシュゴシャ……。コイツ……クニノフッカツ二ヒツヨウ……。ダカラモラウ」
”エンデュアランス”……。
聞き覚えのあるような単語だったが、今は秋山の安全が最優先だ。
「ふむ、つまりは交渉決裂ってことね」
ベルセリオンの纏う魔力が、一気に膨れ上がった。
水色のオーラは激しく波打ち、強風を辺りに発生させた。
「最後の警告、今すぐ秋山から離れろ……さもなくばこの場で貴様を祓う」
ベルセリオンの最終通告に、影は答えなかった。
代わりに、秋山の首に当たっていた鋭利な爪が深く刺さろうとして––––
「《『失 せ ろ 』》」
桁違いの魔力を乗せた言葉が、ベルセリオンから撃ち放たれた。
まるで轟砲のようなそれは、耳鳴りにも似た音と共にユグドラシル駐屯地中に響き渡った。
「うおっ!!?」
非番でくつろいでいた自衛官や、警門の守衛が声を上げて驚く。
「きゃっ!!?」
食堂では夕食の洗い物をしていた給養員が、一斉にお皿を床に落として砕き割った。
まるで”王”のような覇気を纏ったそれは、余波だけでユグドラシル駐屯地のほぼ全ての人間に悪寒を覚えさせるもの。
「ァ…………ッ」
当然であるが、そんな規格外の魔力を直撃させられた影は……跡形もなく一瞬で蒸発してしまった。
ペタンと尻もちをついた秋山に、ベルセリオンが近寄る。
「ごめん秋山、驚かせちゃった?」
「あ、ハハッ……」
まるで信じられなかった。
こんな小さい子供から、今の戦車砲のような覇気が出てきたのかと。
さっきまでミックスジュースを飲んで鳴いていたのが、嘘のようだ。
「異世界人って凄いねー……」
「別に、それより秋山に怪我が無くて良かった。けどもう猶予が無いのも事実ね……」
腰を抜かした彼女を立ち上がらせたベルセリオンは、少しだけ表情を険しくした。
「“アレ”をやるしか無いか……、テオドールやエリカの手伝いが必要ね」
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