第285話・秋山美容室、開店準備中!
––––ユグドラシル駐屯地 秋山美容室ダンジョン支店。
『っというわけでさ美咲、秋山美容室の新たな支店として––––“ダンジョンに来ない?”』
錠前の悪どい提案によって過去の精算をしにダンジョンへやって来た秋山は、なるべく早期の開店に向けて準備をしていた。
民間という名目で入ったため、当然であるが自衛官は開業を手伝えない。
そして、雇う人間もまだこれから。
一体どうやって準備するのだと思われたが、そこは彼女を恩人とする女の子が手を上げた。
「秋山ー、この荷物はこっちに置けば良い?」
「オッケーそこそこ! さすがベルセリオンちゃん、洗顔用の超おっもいチェアもアッサリ運んじゃったわね」
久里浜の誕生日パーティーから引っこ抜いて来たベルセリオンが、嬉々として秋山美容室の開店準備を手伝っていた。
服装はまだジャージとかは慣れないらしく、執行者時代の制服と大きなマントという、ファンタジー感溢れる格好。
それでも、動きにくいという様子は無さそうだった。
秋山的には、こんな無垢で可愛い少女を……あのイカれた最強と一緒にさせたくなかったので、ベルセリオンには大荷物の搬入を主に手伝ってもらっていた。
「これくらい大したことじゃないわ、他に何かある?」
褒められて少し得意気になったベルセリオンが、水色のサイドテールを振りながら答えた。
彼女は当然であるが魔力を使えるので、テオドール同様……幼い見た目に反してコンクリを粉砕するほどの力を持つ。
「まだ細かいやつとか色々あるんだけど……、一旦休憩にしましょうか。君にはもう4つも洗顔チェア(20キロ)を1人で運んでもらったし」
「はーい」
素直に返事をしたベルセリオンを、さっき運び入れたシャンプーチェアの上に座らせる。
そこで、秋山はバッグから水筒を取り出した。
「ジャジャーン、今日は君へのお給料代わりに手作りミックスジュースを作って来たよー」
「ミックスジュース……? なにそれ」
不思議そうな顔をする魔法少女に、秋山は陽気に答えた。
「簡単に言えば。色んな果物を混ぜて作った飲み物」
「し、新鮮な果物を纏めて一緒に!? そ、そんな贅沢が許されて良い訳……!?」
ガクブルと恐れ慄くベルセリオンに、秋山が笑った。
「あっはは! 大丈夫大丈夫、そんな高い物じゃないし……手作りと言ってもミキサーで混ぜて色々足したくらいだから」
そう言って、水筒をベルセリオンに渡す。
保冷されていたのか、どこかヒンヤリと冷たく……彼女をさらに驚かせた。
「ほ、本当に貰って良いの……?」
「もちろん、頂いてください」
「じゃ、じゃあ……」
蓋を開けた瞬間、ミックスジュース特有の甘さが絡み合った匂いが鼻に入る。
嗅いだことの無い匂いにちょっとビクビクしつつも、ベルセリオンはゆっくりジュースを口に含んで……。
「んうッ!?」
思わず唸る。
濃厚なバナナとミルクの風味が来たかと思えば、直後に柑橘系の心地よい酸味が舌の上で踊ったのだ。
「お、美味しい……!!」
「比率としてはバナナとミルク多めで、次に桃と少々のオレンジってところかな……。君は甘いのが好きだろうからお砂糖多めに入れといたけど」
「ごくっごくっ!」
労働で乾き切った体に、ミックスジュースが染み込んでいく。
思わず一気飲みしたベルセリオンは、水筒から口を離して呼吸するや……。
「ふええ…………っ」
鳴いた。
好き嫌いの別れがちな飲み物だが、甘党のベルセリオンにはピッタリであった。
ダンジョン側時代は、泥のような風味の紅茶を飲んでいた分……その感動はひとしおだ。
「良かった、喜んでもらえて」
「これっ、本当に美味しい……! また暇な時で良いから作って欲しい!」
「じゃあマスターの四条さんにも作り方教えておくから、わたしが空いてない時は彼女にお願いしてね」
コクコクと、何度も頷くベルセリオン。
––––クピッ、クピッ––––
最後の一滴まで飲み干して、彼女はとても満足そうな顔になった。
「ふぇ…………」
幸せいっぱいの鳴き声を聞いて、秋山も癒される。
その後は一通りの荷物の搬入が終わったので、人さえくれば数日以内に開店できるところまで来た。
「ありがとうベルセリオンちゃん、本当に助かった」
「別に良いわよ、秋山はわたしの恩人なんだから。また大変になったら言って」
そう言って立ち去ろうとしたベルセリオンは、ピタリと足を止め……秋山へ振り向いた。
「ん? どうしたの?」
疑問符を浮かべる秋山に、彼女は声を低くして呟いた。
「秋山……お願いだからその場を絶対に動かないで、じゃないと“死ぬ”から」
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