第283話・無邪気!爛漫!ほえドール!!
––––食堂。
錠前と共に訪れた透を迎えたのは、ウキウキ状態のテオドールだった。
相変わらず、どこかお人形のような幼さの中に端正さを持っており、常人ならこれを見ただけで悶えるだろう。
「透、みんな待ってましたよ!」
透の胸ほどの身長の彼女は、いつもの可愛いプリントTシャツに黄色のショートパンツ。
そこに加えて、小さな手にクラッカーを握り締めていた。
煌びやかな銀色の髪をなびかせ、金色の瞳で見つめてくる。
「すまないねテオドールくん、新海にはちょっと僕に付き合ってもらってたんだ。怒るならこっちにしてくれ」
「そうですか……、まぁ錠前のことだから仕事のお話だったのでしょう。とにかく、早く来てください」
急かされる形で食堂に行くと、次は四条と坂本が出迎えた。
「あっ、どもっす隊長。錠前1佐もお疲れ様です」
「こっちの準備はできましたよ」
2人はいつも通りの迷彩服で、まぁなんてことはない格好。
その代わり、こちらも手にクラッカーを持っていた。
そしてその奥で––––
「し、四条先輩……なんか今更になって恥ずかしくなって来たんですけど……」
同じく迷彩服を着た久里浜が、落ち着かなげに茶髪をいじくりながら座っていた。
頭には紙で作られた三角帽子をかぶり、肩から掛けた帯には……。
【本日の主役】と書いてあった。
テーブルの上には豪華な料理がたくさん並んでおり、特にお酒の類いが充実していた。
7種類以上のチューハイから、ビールまで。
そう、なんと言っても今日は––––
「何を言ってるんですか千華ちゃん、今日は貴女の“20歳”を迎える誕生日なんですから。小隊として、盛大に祝うのは当然ですよ」
黒髪を振った四条が、恥ずかしがる久里浜を向く。
既に机には4Kカメラがセットされており、四条がボタンを押せば配信開始となる。
日本では最近の法改正で、18歳以上から成人扱いされるようになって久しいが、酒類やタバコは依然として20歳以上のみ。
なので、今回のパーティーは久里浜の初お酒デビューでもあるのだ。
「久里浜、最初に飲む酒はもう決めたか?」
透の優しい声に、彼女はドギマギしながらも1つの缶を取った。
「こ、このシークワーサー・チューハイにしようかと。お子様……かな?」
「おっ、それって俺もよく飲むやつじゃん。“エナドリで割る”と酸味がヤバくなって良い具合になるんだよ」
「「「「…………」」」」
いきなり出てきた透のヤバい飲み方に、錠前が遮る形で前に出た。
「まぁこういう隊長がいるわけだから、久里浜士長も外聞とか気にせず……好きに飲むと良い。今日は最低限の節操を守るなら、いくらでも騒いで良いよう許可も取ってる。楽しもう楽しもう」
錠前に頭を下げた久里浜は、ちょっと安心したようにお酒を手元に置いた。
それに合わせ、各自も好みの物を手に取る。
透はハイボールに加えて、割る用にエナジードリンクを。
坂本は無難に大手メーカーのビール。
四条は桃味の、アルコール度数4%という可愛らしいチューハイ。
錠前は下戸なので、いつものオレンジジュース。
テオドールは当然であるが、実年齢が13歳なのでアップルジュースが与えられた。
ここで、透が1つ気づく。
「そういえば……、ベルセリオンはどこにいるんだ?」
テオドールの姉であり、四条の眷属である彼女が見当たらない。
何かあったのかと思ったが……。
「秋山さんの美容室開設、そのお手伝いに行ってますね。一応誘ったんですけど……」
苦笑いになった四条は、オレンジジュースをコップに注ぐ上官を見つめて……。
「錠前1佐が来ると聞いた秋山さんが、『あんな狂人と酒の席にいちゃダメだよー』と……連れて行ってしまいました」
「はっはっは! 美咲は後で処刑かな」
笑いながら、果たして冗談かわからないことを言う最強。
まぁ、秋山さんとしても、力仕事のできる人間が欲しかったのだと透は思った。
「じゃあ、配信始めますよー」
四条が配信ボタンを押すと、すぐに同接数は1000万を突破した。
【久里浜士長のお誕生日配信キター!!!】
【相変わらず美人さんだよなぁ……、結婚したい】
【今年で20か、人生で一度の酒の味を知るイベント】
コメント欄が盛り上がる中、小隊長として透が音頭を取った。
「それじゃ、久里浜の二十歳の誕生日……おめでとう!!!!」
「「「「「おめでとう!!」」」」」
––––パンッ、パパンッ––––!!!
カラフルなクラッカーが、晴れて成人となった久里浜を包む。
次いで、人生で初めてお酒を口に含んだ。
「じゅ、ジュースみたいだけどぜんぜん違う……なんか変な感じ」
「そりゃそうだろ、アルコール入ってるもん」
チキンやサラダを紙皿に乗せた坂本が、久里浜にそれを渡す。
今回の配分担当は坂本なので、彼は結構忙しい。
「はい、テオドールちゃん」
ローストビーフやチキン、お寿司といったとにかく味の濃い物を乗せて、彼女に渡す。
「わぁ、ありがとうございます!」
【ほえドールちゃんは今日も可愛いなぁ】
【なんか最近、テオちゃんの服装がドンドン動きやすさ重視系女児になっていってる気がする】
【テオドールちゃん、靴下の柄教えてー」
【キモ、通報した】
【お巡りさんこっちです】
そんなコメントを気にする様子もなく、テオドールはフォークでローストビーフを突き刺し……。
「はむっ、モグ、ムグ…………ゴクッ」
タレの付いたそれをお口いっぱいに頬張ってから、彼女は至福の鳴き声を出した。
「ほえぇ…………」
幸せいっぱいの表情に、リスナー達の心が撃ち抜かれる。
まさに団らんと言った感じで、錠前以外の5人がカメラの中で楽しげに食事を囲む。
「テオドールちゃん、お膝の上座るー?」
「はーい」
甘えたい盛りのテオドールが、ちょこんと久里浜の膝の上に座った。
「うはー……! テオドールちゃんの髪フワフワして良い匂い〜! お肌もあったかくて柔らかーい」
久里浜がテオドールを触り倒す。
世界のアイドルをこれだけ好きに触れるのは、まさに役得であった。
このまま何事もなく、パーティー配信は終わるだろうとみんながそう思っていた。
この後のテオドールによる、無邪気な言葉が無ければ。
「モグッ……。そういえば久里浜、前から気になってたことがあるんですよ」
「なーにー?」
笑顔で応じる久里浜に、テオドールは不思議そうに呟いた。
「夏祭りの時からずっと、“久里浜のお腹の中から坂本の気配を感じる”のです。一体どういうことでしょうか……」
透と四条は表情そのままに固まり、久里浜と坂本は文字通り凍りついた……。
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