第277話・激突・日中空母機動艦隊③
中国軍は、今回の攻撃に合わせて切り札を用意していた。
『こちら、空警-500。たった今現場空域に到着した––––これより艦隊への航空支援を開始する』
この4発のプロペラに加え、機体上部に円盤のようなレーダーを付けた航空機こそ、中国軍の対ステルス戦闘機キラー。
名をKJ-500、軍でも生産数が極めて少ない早期警戒機だ。
国産高性能のレーダーは、理論上F-35ですら僅かだが捉えることができる。
加えて、高高度においての索敵能力も非常に高く、日本のイージス艦のミサイル……その射程距離外から作戦が遂行可能。
わざわざ大陸から飛ばして来たが、その性能をもってすれば、今までのようなやられっぱなしの状態を脱却できるだろう。
一方で、高高度を飛ぶそれは……当然ながらとても目立った。
「中国艦隊の後方に大型機を確認、艦載機ではないようです」
––––海上自衛隊、イージス護衛艦『はぐろ』。
その艦内にあるCIC(戦闘指揮所)で、レーダー員の報告を艦長は聞いていた。
「大型の4発機……多分だが、宮古海峡を通過した空警-500だろうな。用心深いことで、あんなに後方で飛んでやがる」
「艦長、距離にして200キロ以上離れています、SM-2はもちろんですが……最新のSM-6でも無理ですよ」
砲雷長の言葉に、艦長は「ふぅむ」と少し唸った。
『はぐろ』のイージスレーダーは、既に発艦した第二次攻撃隊を捉えている。
今は海面スレスレを飛んでいて見えないが、直に……具体的に言えば距離40キロ地点でホップアップ。
一瞬だけ上昇して、対艦ミサイルを発射するだろう。
韓国艦隊がやられた時と、同じ攻撃だ。
直掩のF-35Bを出したいところだが、空警-500のレーダーであればおそらく探知されてしまう。
かと言ってミサイルは射程圏外……。
もう時間が残されていない中、『はぐろ』艦長は決して慌てていなかった。
「“あの技”を使うぞ、2分で良い。『あたご』に本艦のカバーを頼むよう通信してくれ」
「まさか……アレですか、実戦では試したことなど無いですけど」
「敵さんは今頃こう思ってるだろう。どうせミサイルは届かないから高高度を飛んでも平気だとな。そこを突く」
確かに、レーダー上では高度9000メートルを飛ぶ空警-500が堂々と映っていた。
「電子戦用意! SPY-1レーダーの出力を限界まで上げろ」
「対電子戦! SPY-1の出力上げ!!」
艦長が不敵な笑みを浮かべる。
「見せてやろう、偽物や廉価版ではない……“本物のイージス艦”の能力を」
一方の空警-500はというと、『はぐろ』艦長の予想通り全く海自を警戒していなかった。
当然だろう、前面に壁として艦隊が位置し、さらには200キロも離れているのだから。
たとえF-35Bであっても、この障害を越えて来るのは不可能と言えた。
「レーダー、F-35Bは捕捉できそうか?」
コックピットの機長が、副長に質問した。
「もう少しレーダーの感度を合わせてやれば、いけるでしょう。そうすれば攻撃隊を安全に誘導できる」
「まぁ慌てるな、海自のイージス艦からは200キロも離れている。ゆっくり落ち着いてやれ」
デュアルバンドレーダーならもっと簡単にできるのだろうが、残念ながらそんな高級品は米軍しか持っていない。
空警-500が、ドンドンノイズに隠れたF-35Bの位置を洗い出して行く。
あと10秒で、海自航空隊の展開場所がわかる。
これでチェックメイトだと思った矢先……。
––––バチンッ––––!!
「なっ……!!?」
機体が大きく揺れたかと思うと、いきなり全ての電子機器が強制的にシャットダウンした。
レーダーどころではない、航法システムや空調に至るまでが完全に光を失った。
通常鳴り響くはずのアラートすら沈黙してしまっており、機体が海面に向かって落ちていく。
空警-500の機長は、「やられた!!」と叫んだ。
すぐに操縦桿を握り直し、全力で機体を引き上げた。
「電子制御はもう利かない!! 手動で操縦する!!」
「レーダー、センサー共に感無し!! 機長……一体何が!」
戸惑う副長に、機長がしてやられたと顔を歪めた。
「イージス艦の電磁波集中照射をモロに浴びたんだ!! クソっ!! 都市伝説くらいには出来ると聞いていたが、本当にやって来るとは!!」
「それは……、つまり?」
「機体に搭載された半導体が全部焼き切れたんだ! レーダーから機体制御システムまで全て! フル稼働した電子レンジに入れられたようなものだ!! これではもう何も出来ん!!」
「か、艦隊に通信を……!」
「無理だ! 電子機器は全部焼かれたんだぞ! もう何もかもが遅すぎる!!」
空警-500が戦闘不能になったことを知らず、山東攻撃隊は前進を続けていた。
彼らが向かう先は、大口を開けたアジア最強の艦隊防空網だ。
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