第274話・大虐殺
––––中国海軍 空母『山東』。
戦闘指揮所で様子を見ていた龍司令は、淡々と報告を聞いていた。
「航空隊の攻撃は成功、ヘリ空母を含めて全艦を撃沈しました」
相手の練度が低かったのか、それとも上手くレーダーから逃れられたのか……いずれにせよ、海自先遣艦隊と思われる戦力の撃破には成功した。
少々アッサリし過ぎているのはと、少し気になったが……。
「艦長、自衛隊のイージス艦っていうのはあんなもんなのかね? 訓練ではもっと手強かった印象だったが」
「レーダーの影からして、イージス艦だろうとは思います。旧式のこんごう型だったのか……いずれにせよ。こうして撃沈できているのですから問題ないでしょう」
「そうだな、次のフェイズに移ろう。北京の政治家に送るプレゼントの用意だ」
甲板上で、次の飛行隊が発艦準備に入る。
この空母『山東』は、最大で36機の戦闘機を運用できた。
今出撃している分と合わせても、まだ余裕が残されている。
『発艦を許可する、殲撃小隊は発進せよ』
次に飛び立った機体には、どういうわけか対艦ミサイルが搭載されていなかった。
最初は増槽かと思われたそれは、全く別の物だ。
「こんな無駄なことに貴重なリソースを割きたくはないんだがな……、北京の連中は本当にメンツが大事なようだ」
第一次攻撃隊と入れ替わる形で、殲撃小隊は韓国艦隊のいた座標へ向かった。
しばらくして、大量の黒煙が空に確認出来た。
「よし、先発のおかげで日本艦隊は既に壊滅している。始めるぞ」
「し、しかし小隊長……。これは明らかな国際法違反では……」
「黙れ、無事に祖国に帰りたければ献身しろ。中国人以外の人種に人道なぞ必要無い」
彼が旋回するJ-15から見下ろした光景は、あまりに悲惨なものだった。
海上に漂う大量の油と共に、大勢の人間が浮かんでいるのだ。
救命ボートを最後に出せた艦があったのか、現在はそれらが救助活動を行なっているところだった。
「攻撃用意、目標––––下方の救助ボート」
高度2500メートルで、J-15戦闘機から各1発ずつの物体が投下された。
かなり大きめのそれは、本来この戦闘機に搭載できない兵器。
「救助ボートが逃げ出しました、こちらの攻撃に気づいたようです」
「構わん、撮影を続けろ」
救助活動を行っていた韓国海軍も、中国軍の攻撃には気づいていた。
通常の爆弾は海上ではあまり効果など無いが、念の為退避を開始。
そう、その爆弾が通常の物であれば間違いではなかった……。
「散布弾、着弾」
海上の救難者、さらには走り続けるボートも覆う形で爆弾が破裂。
真っ白な煙のようなものが、一帯に散布された。
「着火弾、弾着」
一瞬だった。
白い煙に火が点火されると、周囲一帯が瞬時に燃え上がった。
音もなく、だが凄まじい速度で広がる火の海。
海面はまるで生き物のように波打ち、炎は何もかもを包み込んでいった。
「着火、成功だ」
小隊長は静かに報告、続けざまに指示を出した。
「撮影は続けろ。北京への報告用だ……日本人を徹底的に痛めつける様を、政治家たちはご所望だからな」
J-15戦闘機のパイロットは、モニター越しに燃え盛る光景を無感情に見つめていた。
爆発は通常のものとは違う。
これは、西側用語で言えば気化爆弾––––通称「サーモバリック・ボム」。
爆弾が着弾した瞬間に、広範囲に散布された燃料が空気と化学反応を起こし、爆風とともに火炎が一気に広がる。
この爆弾の恐怖は、その爆発力に加え、爆心地から半径数百メートルに渡って発生する高温と爆風の波及効果にある。
「見ろ、まるで地獄だ」
小隊長が呟く。
火の海に覆われた救命ボートは、炎を避ける術もなく燃え上がり、助かろうとした乗組員たちの悲鳴がかき消される。
化学反応の熱により、空気そのものが灼熱となり、酸素を奪われた彼らは息をする間もなく窒息死していった。
周囲一帯は炎と熱波によって焼き尽くされ、まるで命の痕跡が消え去るかのように無機質な世界に変わっていく。
さらに、爆発の衝撃波は海水を蒸発させ、衝撃が波となって遠方まで届いていた。燃料が完全に燃焼し終える前に、もう一発、別の気化爆弾が投下された。今度は救助活動を行っていた韓国海軍の別の大破艦艇を直撃する形で。
「着弾!」
巨大な衝撃音と共に、艦艇はたちまち爆風に包まれ、その巨体すらひしゃげたかのように崩壊する。
砕け散る甲板、炎に包まれる船体……。
「ぎゃああぁああ!!?」
人々は甲板から海に飛び込むが、そこはすでに灼熱の水面……既に逃げ場はなかった。
「おい! しっかりしろ! あぁあああ!?」
化学反応による爆風と火炎は、艦の外にいる者たちも一瞬で焼き尽くす。
彼らの皮膚は1秒で焦げ、内臓すらも焼かれながら、すでに何も感じることができないほどの苦痛の中で命が散っていく。
海上に浮かぶ遺体は、爆風で引き裂かれた者もいれば、全身が炭のように黒く焼かれた者もいる。
その全てが無惨で、見るに堪えない光景が広がっていた。
小隊長は再び指示を送る。
「これで終わりではない。念のため、もう一発投下しろ。火の海に残っている者がいれば、それすらも消し去れ。徹底的に殺せ」
再びJ-15戦闘機が旋回し、最後の気化爆弾を投下しようとした時……。
『こちら空母『山東』!! 敵機が急速接近中!! 懐に入られた!! 殲撃小隊は至急艦隊防空に戻られたし!!』
急報は突然だった。
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