第272話・復活、日本空母機動艦隊
––––太平洋上、千葉県沖550キロの海域。
世界で一番広大なこの海は、夜明けを迎えて明るく輝いていた。
その光に覆われた水面を、巨大なグレーの艦が白波を切って進んでいる。
「司令、先ほど横須賀より通信が届きました。防衛出動が発動。総理大臣による中国艦隊への直接攻撃が下命されました」
––––DDH184『かが』のFICで、艦長の町田が受け取った指示を伝える。
前面のパネルを見つめていた第1水上戦群司令の若葉海将補は、腕を組みながら静かに答えた。
「そうか、まさか俺が現役の内にこんな事態になっちまうとはなぁ。艦隊の状況は?」
「全艦戦闘準備よろし、航空隊もいつでも行けます」
「では艦載機の発進準備を急げ、こっちが先にやっこさんの居場所を掴んでる。空母同士の決戦は先制攻撃が肝––––まずはジャブといこうじゃないか」
この護衛艦『かが』は、いわゆるただの護衛艦ではない。
海自最大規模の艦体を誇るこれは、いわゆる全通甲板と呼ばれる洋上に浮かぶ滑走路のような、航空基地の機能を持った艦。
世界的に言うならば、”航空母艦”だ。
艦載機は2024年の改修をもって、SH-60ヘリに加えて最新鋭ステルスジェット戦闘機のF-35Bを搭載。
空自で導入予定の物は間に合わなかったので、アメリカで訓練を終えたパイロットを機体ごと持ってきたのだ。
塗装はアメリカがこだわったのか、予定が詰まっていたのにグレーの日の丸を入れてくれていた。
群司令の若葉は、通信機を取った。
「司令より全艦へ達する!! 本艦隊はこれより、前大戦以来となる敵空母機動艦隊への攻撃を行う!! 非常に過酷な任務だが、この日のために研鑽された諸君ら乗員の練度を私は信じよう!! 今度こそ––––日本を守り抜こうではないか!!」
艦隊全艦の士気が一気に昂る。
群司令の命令によって、『かが』の飛行甲板に載せられたF-35B戦闘機が発艦準備に入った。
乗組員が艦橋へ上がり、1枚の信号旗を掲げた。
意味は、
––––本艦は固定翼機を運用している––––
航空母艦『かが』の艦上で、ジェットエンジンが始動した。
凄まじい轟音と共に、発艦作業員が忙しく行き交う。
「町田くん、戦後80年……遂にこの日が来たな」
「はい、今度こそ……勝って国民を守って見せましょう。そのための空母です」
甲板上では、1機目の戦闘機が準備を進めていた。
「主翼および後部の機能よし、フラップの起動確認。火器管制のチェックを行う」
パイロットが非常にメカニックなヘルメットをかぶると、彼の視界に大量の整理された情報が映し出された。
それらは全て、戦闘を最大限効率的に行うためのモニターだ。
「ミサイルのアクティブを確認、フライバイワイヤの起動確認。エンジン正常始動」
航空管制から、遂に発艦許可が出た。
エンジンを最大限ふかすと共に、スロットルを上に上げた。
『コントロールよりストライク1、発艦を許可する』
「ラジャー、これより発艦する」
『幸運を祈る』
甲板員がGOサインを出すと、F-35Bは一気に加速。
『かが』の飛行甲板から、翼を広げて飛び立った。
パイロットが周囲を見渡すと、『かが』を囲むように海に浮かぶ何隻もの艦隊が見えた。
先頭から時計順に、
DD-120対潜護衛艦『しらぬい』
DDG-177イージス護衛艦『あたご』
DD-105汎用護衛艦『いなずま』
DD-115防空護衛艦『あきづき』
DD-104汎用護衛艦『きりさめ』
DD-118防空護衛艦『ふゆづき』
DD-109汎用護衛艦『ありあけ』
DDG-180イージス護衛艦『はぐろ』
そして中央に空母『かが』を据えた、完全編成の大日本帝国海軍以来となる“空母機動艦隊”だ。
そして、次々に発艦していく戦闘機隊の名称も。
「“第一航空戦隊”、ストライク小隊発艦完了! 続いてフェニックス小隊の発艦を開始します!」
かつて日本海軍の中核をなした航空隊の名を冠している。
まさに、現代に蘇った帝国海軍だった。
日本は最高レベルの海軍整備計画によって、限られた予算で世界屈指の空母機動艦隊を作り上げることに成功したのだ。
その戦闘力は、イギリスやフランスと言った列強をゆうに上回る。
「合戦用意!! 全艦、対艦対空、および対潜警戒を厳となせ!!」
艦隊が南下を続ける中で、F-35Bが8機……中国艦隊に気づかれず接近していく。
だが、ここでレーダー員が声を上げた。
「本艦隊西方に艦影多数、ヘリ空母級1隻と駆逐艦2隻、フリゲート5隻が中国艦隊に向けて突っ込んで行っています」
「識別信号は?」
「確認出来ました、韓国海軍です」
隊員の声に、若葉は顔をしかめた。
「なぜこんなところにいる? 連中の守備エリアは日本海や黄海だろう」
「司令、おそらくですが……先の仁川でのミサイル攻撃の報復かと。中国艦隊に一矢報いようとしているのかもしれません」
「誤用の方だし、言っちゃ悪いが役者不足だ。すぐに通信で呼びかけて撤退させろ」
通信手が秘匿回線で何度か呼び掛けるが……。
「ダメです、全く応じません」
「仕方ない。航空隊は迂回経路を取れ、あそこは戦闘海域のど真ん中だ……いざとなっても助けられんぞ」
韓国艦隊は、なおも中国機動艦隊へ突っ込んで行っていた。
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