第263話・典型的な現代日本人
「お言葉に甘えちまったけど、良かったのかな……」
テオドール達から離れた別の喫食スペースで、透と四条は買っていた焼きそばとたこ焼きを開封していた。
すっかり冷めてしまっているが、そこは別に問題ではない。
「まぁお2人は休暇をしっかり満喫したみたいですし、別に良かったのでは?」
「だな、俺らも少し休むか」
お箸を持ち、互いに「いただきます」と言ってから焼きそばを啜った。
「んっ……!」
夏祭りの屋台飯なんて長年食べてなかったが、こうして久しぶりに口に入れてみると、やはり美味しい。
若者ナイズされた調味料たっぷりのそれが、疲れ切った体に染み込んでいく。
「そういえば、四条は麺類が好きだったんだよな?」
「あ、はい。そうです。よく覚えてましたね」
前に初めてテオドールを新宿に連れて来た時に入った、レストランでのこと。
四条がパスタを選んだのが、透にとってはかなり意外で印象に残ったのだ。
「お前みたいなご令嬢は、薄味が好みだと勝手に思ってたんだ」
「親が厳しいのはそうでしたが、別に食事まで制限されてたわけじゃありません。普通にカップ麺も食べてましたよ」
「の割にはスタイル良いじゃん、ジャンキーな食事が好きとは思えねぇ」
「ッ……!!」
四条の頬が紅潮する。
まるで何かを隠すように、焼きそばを一口食べた。
「そ、それを言ったら透さんもモテてそうですよ。彼女さんとかいるんですか?」
「いやー、いねえなあ。彼女とか高校の時以来作ってない」
「い、意外ですね……てっきりいらっしゃるものかと」
「ははっ、ウブなベイビーだよ。俺はそこまで大人じゃないし、テオドールの世話でヒイヒイ言ってるんだ、まだまだ青二才よ」
透はたこ焼きを口に運びながらそう言うが、四条は全く正反対の感情を抱いていた。
これを口に出していいものか、だが言わずして沈黙を落とすのがなんとなく嫌だった。
「そ、そんなことありません。透さんはダンジョンで立派に活躍していますし、最初はあんなに印象が最悪だったわたしを……完璧に守ってくれたじゃないですか」
「仕事だったからな、まぁ認めてくれたのは嬉しいよ。お前みたいな高スペック人間に褒められたんなら、俺でもやる気出る」
四条は思った。
この新海透という男は、根底から現代日本人の特徴を強く持っていると。
いつもしっかりしているように見えるが、奥底では自分に全く自信が持てていない。
強い自分が想像できず、野心に満ちた目標が持てない……典型的な現代の日本人。
「立ち入るようで申し訳ないのですが、透さんは何故自衛隊に入ったのですか? 貴方の能力なら他にいくらでも選択肢があったはずです」
「うーん、そうだなぁ……」
たこ焼きをつまようじでつつきながら、透は思い出すように呟いた。
「今はもう引退したゲーム実況者がいてさ、俺はその人が大好きでよく見てたんだ。当時の俺は進路希望も白紙のクソガキで……よく担任がウゼーとか思ってた。そんな中でその実況者が言ったんだ」
「な、なんと?」
「もし私の実況が戦争でできなくなったら嫌だなー。って、その時は戦争系のゲームを実況してたから、まぁ別に普通の言葉だったんだけど……何を勘違いしたのか、次の日には進路希望に”防衛大”って書いてた」
「そ、そんなアッサリ……」
「大好きなゲーム実況が見れなくなるからなんて、志望動機としておかしいだろ? そういう部分では、坂本とあんま変わらないな」
笑いながら打ち明ける透だが、たったそれだけで日本最難関の防衛大学に入るのは、ハッキリ言って異常だ。
さらに任官までして、こうして実績を大量に残している。
透なら、3佐階級まで行くのもあまり遠くない話だろう。
そう考えた途端、急に彼が遠い存在に思えてしまった。
果たして、自分なんかがこんな感情を抱いてしまって良いのだろうか……。
食事の手が止まった四条を見ながら、透も思っていたことをつぶやく。
「ところでさ四条」
「は、はい! なんでしょう」
「俺も立ち入ったこと聞くんだけど……良いか?」
「えぇ、どうぞ」
自身の黒髪を触りながら、平然とした表情で返す。
そんな彼女に、透は120ミリ戦車砲級の一撃を与えた。
「お前もしかして……俺の事好きだったりする?」
四条の端麗な顔が、一気に赤面した。
新海は高校の頃から女たらしで、大勢の女子を無意識に惚れさせていたようです。
まぁ本人は家でゲームしたり、実況動画を見るのに夢中だったので気づいてないようですが。




