第262話・お祭り飯は最高です
たこ焼き。
薄い小麦粉の皮の中に、文字通りタコが入ったお祭り定番メニューの一角。
濃い味が大好きな若者のため、ソースとマヨネーズがたっぷり掛かったそれに……ベルセリオンはつまようじを刺した。
「わぁ……、トロトロしてる」
生地の中身は半熟で、持ち上げると重い弾力を感じさせられた。
ソースとマヨが垂れる中、ベルセリオンは一思いにパクリと食べる。
生地の柔らかさのすぐ後に、タコのコリコリとした気持ち良い食感がやってくる。
たっぷり掛かったソースとマヨも合わさり、今まで薄い味しか知らなかった少女の舌を徹底的に破壊した。
「ふ、ふぇえ…………!!」
こんな情けない声を出すつもりは全く無いのに、その強烈過ぎる味覚への悲鳴として出てしまう。
生地の後に来るタコのコリコリ感が、ソースとマヨのトリプルパンチでぶん殴ってくる。
侵略者として笑顔を見せてこなかったベルセリオンは、すっかり年相応の幸せ顔を晒していた。
【ふぇルセリオンちゃんもリアクション最高!!】
【ほえちゃん、姉のこと全く気にせず横でほえほえしてるwww。めっちゃ可愛いw】
【異世界人って、何かこう……情けない鳴き声出さないといけない生き物なのかな? 可愛いから素晴らしい習性だと思うが】
【なまじ顔が良いだけに、鳴き声とのギャップが……ww】
コメント欄は大盛り上がりを見せる。
あっという間にたこ焼きを食べ終わると同時、群衆の中から四条が出てきた。
その手に持っていた物を見て、周囲の人間がざわつく。
「四条さん……、アンタは人の心が無いのか?」
「うっわ、このコンボで来るか……さすが自衛隊。容赦ない」
「なんて非人道的なんだ」
四条が持ってきたのは、“かき氷”と“ラムネサイダー”だった。
「お口、スッキリしたいでしょう?」
妖艶な笑みを浮かべた四条は、それらを2人の前に置いた。
かき氷には、こちらも定番のイチゴシロップがたっぷり掛けられており、子供が好きそうな鮮やかな見た目を強調していた。
「こ、氷……!? 日本人は氷をそのまま食べるの!?」
ベルセリオンの常識では、水を生で飲めば体調を崩す。
それは氷にも言えたことで、彼女の認知の外から繰り出される一種の攻撃。
カルチャーショックの連続に疲れる暇もなく、スプーンが渡された。
「ゴクッ……」
テオドールの方も、かき氷を食べるのは初めての経験。
このバカみたいに暑い中、こんな物を食べたらどうなるか……答えなどとっくに見えていた。
だが、もはや2人を止める障害は無い。
一思いにスプーンですくい、ハムっと頬張った。
「んぅッ……!!?」
暴力的とも言える冷たさと爽快さが、2人へ襲い掛かった。
おでこの奥がジーンと痛むが、それは妙に心地が良い。
シロップの甘味が舌の上で広がり、さっきのソースを打ち消すかのように氷が溶けていく。
「ふ、ふえ…………!!」
「ほえぇ…………」
完全にフルボッコ状態である。
焼きそばとたこ焼きに加え、かき氷による舌の塩気の強制リセット。
もはやこれは、食事を用いた異世界人への虐待ではないかというコメントもあった。
しかし、まだまだコンボは終わらない。
「喉乾いただろ、そろそろラムネ飲んでみたらどうだ?」
透に誘われる形でビンを手に取るが、ペットボトルのような蓋が見つからない。
「と、透……これはどうやって飲むのですか?」
「真上から手で思い切り、そのビー玉を押し込んでみろ」
「こ、こうで……ひゃあ!?」
テオドールがビー玉を押し込むと、それが中に沈んでサイダーが吹き出した。
蓋とは全く違う概念の開け方に、隣で見ていたベルセリオンは子供心をくすぐられた。
「こ、こうね……?」
––––カシュッ––––!!
同様に押し込み、中のラムネを噴き出させた。
漏れたものがもったいなく感じた彼女は、急いで中のジュースを口に含んで……。
「ッ!!?」
襲ってきたのは凄まじい炭酸と甘味。
初めての飲み物は、しょっぱさで乾いた体へドンドン染み込んでいく。
「ゴクッ、ゴクッ……ぷはぁっ!!」
中のビー玉に苦戦しつつも、ベルセリオンはこれ以上ないくらい幸せそうにしていた。
初めての炭酸飲料に、完全にハマったようだ。
「っ……」
撮影に徹していた透だが、ここで彼のお腹も鳴った。
そういえば徹夜の上に、今日はロクなご飯も食べていない。
それは四条も同じなようで、顔色があまり良くなかった。
しかし配信を中止するわけにはいかない。
ここは我慢すべきと思った矢先––––
「お疲れ様です隊長、後は代わりますよ」
背後から掛けられた声に振り向くと、そこには横浜へ行っていた坂本と久里浜が立っていた。
「隊長と先輩は、ちゃんとご飯食べてきてください。繋ぎはやっとくから」
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