第26話・日本人はタイパを意識する
––––2025年 6月28日。
遂に地竜エリア攻略の日が来た。
各部隊は準備を整え、ここから40キロ先の最重要ターゲット。
『ラビリンス・タワー』へ向かう。
「さて、じゃあ今回は全員にカメラマンをやって貰いますよ」
戦車部隊の近くで準備をしていた透は、四条の唐突な提案に首をかしげた。
「4人も? どうせ配信は1画面しか使えないんだし……そんなに必要とは思えないんだが」
「確かにそうですけど、今のご時世––––日本人はとても多忙です。わざわざ生配信を見れる人は限られてしまいます」
彼女の言葉へ、防衛戦時に第2カメラを担当した坂本3曹が答える。
彼は今回も、サブアームすら持たない64式のみの装備だった。
「あー、なるほど。動画化ですか」
「そうです、多忙な社会人は……残念ながら平日に何時間も配信を見れません。現に、別の地本が上げた3時間超えのアーカイブは全然再生されていませんでした」
四条も言ったが、現代日本人はとても可処分時間が少ない。
バズってしまって感覚が麻痺しているが、数時間の配信なんて普通は何度も見れるものではないのだ。
「あー……わたし分かるかもそれ、最近だと映画やアニメもつい1.5倍速で見ちゃうのよね。すっごく友達に苦言を呈されたけど……」
HK416A5を肩から下げた久里浜が、同意といった感じで首を縦に振る。
「“タイムパフォーマンス”。通称タイパという言葉が流行るくらいには、世の中みんな時間を大切に使っているんです。そんなリスナーに寄り添うのは、配信者として当然の義務と言えます」
ここまで言われれば、透だって嫌でも理解できる。
「15分くらいの動画に、4人それぞれの視点を織り交ぜながら纏めるわけか。それなら休日や平日の合間に楽しんでもらえるな」
「その通りです、しかも見やすく編集すれば次の配信に興味を持って貰えるかも知れません」
背後で『90式戦車』のエンジンが掛かる。
相変わらず凄い音なので、透たちはその場を離れながら続けた。
「編集するなら字幕もつけるんだよな?」
「はい、基本は日本語ですが……今回の配信からは英語の字幕もつけてみようかと」
思い起こせば、最近の配信はかなり外国人のリスナーが多い。
諸外国に日本の自衛隊を知ってもらうには、うってつけだった。
「俺は英会話程度しかできないけどさ、四条は英語できるの?」
「親が親だったので英語は得意です、そこは問題ありませんよ。ただ……」
言い淀んだ四条が、表情を曇らせる。
「逆に言えば英語しかできません、できればもっと多くの言語に対応したいのですが……」
言語は市場に直結する。
より洗練された言語が多いほど、色んな国から注目してもらえるのだ。
どうしたものかと思ったところで、久里浜が手を挙げる。
「わたし、一応ヨーロッパ語圏とアラビア語圏の言語全部いけるけど」
「マジか」
驚く透の横で、柔らかい笑顔を見せる久里浜。
「特戦群は世界各地に派遣されるわ、だから言語能力を特に重んじるの。イスラム圏のコーランだってたくさん読んだんだから」
「おぉ」
さすがに特戦群、これは心強かった。
ちょうど四条と同じ部屋ということもあり、動画化はこの2人に任せれば良いだろう。
っとなれば、
「じゃあカメラは4人、せっかくならタワーに着くまで別々に行動しよう」
「っと言いますと?」
坂本の問いに、透は後ろで排ガスを吹く戦車を指差した。
「どっちみち少ない人数だ、戦車部隊、迫撃砲部隊、装甲車部隊をそれぞれ別動で撮影する。向こうには錠前1佐に話を通してもらえば良い。仕事の邪魔さえしなければ歓迎してくれるだろう」
少しでもチャンネルを盛り上げるため、透たち第1特務小隊は行動を開始した。
錠前1佐の連絡で向こうからのオーケーも出て、4人はそれぞれが担当する部隊に張り付いた。
ラビリンス・タワー攻略作戦。
通称––––『ダルマ落とし作戦』が始まった。
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