第257話・公安外事課第3係
嵌められた……!!!
そう確信した時には既に遅く、さっきまで一般人だと思っていた人間たちが、全員周少尉たちへ拳銃を向けていた。
それなりに注意はしていた、確認だって何度もした。
だがこの公安連中は、殺しの気配を完璧に隠し通していたのだ。
凄まじい練度と、修練の結晶。
そして、何より眼前のこの男……。
「勉から連絡があってな、残党が情報持って逃げようとしてるから始末を頼むってよ。ったく……自衛官が警察をこき使うんじゃねえよ」
ため息混じりながら呟くこいつ、
恐ろしく強い……!!
錠前勉とはまた違う、だが能力で言えば最も近いレベルを感じさせられた。
「ここは見逃しちゃくれないかね? おまわりさん。仮にも首都にある新築の駅でドンパチなんてしたくないだろ?」
「あ? 何勘違いしてんだよ」
一歩前に出た真島は、拳銃を構えながら恐ろしい殺意を覗かせた。
「お前らが入った時点で駅の封鎖は完了してんだ、そして……貴様らのバックについていた親中派の連中も今日で消え去る」
周少尉はこの言葉で、後ろ盾が無くなったことを即座に悟った。
部下に戦闘開始の合図を送ると同時に、眼前の真島へ襲い掛かる。
「警察風情が、俺たちを倒せると思ったか」
まずはこの油断しきった男を無力化し、肉の盾にする。
部下は数人失うだろうが、新幹線に乗ることはできるだろう。
中国で武術の鍛錬を大量に積んだ周なら、確実に倒せる自信があった。
「距離を詰めたのが間違いだったな」
周囲の公安が発砲するよりも早く、少尉は真島の持っていた拳銃へ蹴りを繰り出す。
だが、放たれた攻撃が迫った時……。
「よっ」
「ッ!?」
なんと、真島は持っていた拳銃を弾かれるより早く真上へ放り捨てた。
空を切った蹴りは、周少尉へ致命的な隙を作ってしまった。
「無力化して盾にでもしようとしたか? お生憎、その手の戦術は第3係じゃ想定済みなんでね」
銃を捨てて身軽になった真島は、半端ではない瞬発力でパンチをお見舞いした。
周少尉の体勢が崩れ、鼻血を吹き出す。
––––こいつ!!
「まだまだ!!」
一度見せた弱点を、真島は容赦なく攻めた。
強烈なパンチを中心とする打撃のコンボで、周少尉を文字通りサンドバッグ状態にしたのだ。
彼––––真島雄二は、確かに錠前勉より才能で劣るかもしれない。
しかしそれは、現代最強たる彼と比べてしまった場合であり、並みの天才と比較した時は……この限りではない。
「少尉!!」
隊内でトップの戦闘技術を持った周少尉を、真島は赤子を相手するように殴り続けた。
それもそのはず、真島は防衛大時代––––なんとあの錠前と体術において”まったくの互角”を演じた天才。
日本でこの男を殴ろうとするならば、錠前勉か、異次元の危機察知能力を持った新海透にしか不可能。
「今の日本は景気が良い、貴様ら中国に媚びなくても……駅の補修くらい、いくらでもできんだよ」
凄まじい打撃のコンボを10秒足らずで繰り出した真島は、落ちていた自身の拳銃を拾い、周少尉の胸倉を掴んで額へ押し付けた。
「お前……思ってたより弱いな、思考が見え見えだったのが原因かね」
引き金がひかれる。
なんの感慨も無く、真島は周少尉を射殺した。
駅のホームに脳みそが飛び散る中、彼は周囲を見渡す。
「終わったか?」
辺りには、決死の突撃を繰り出した周少尉の部下たちが”死体”として転がっていた。
全員、民間人に偽装していた公安にやられたのだ。
「錠前勉に比べれば、雑兵でしたね」
近寄ってきた部下は、昨日––––レストランでウエイトレスに扮して錠前を刺した女性公安。
彼女もまた、相手が悪かっただけでその実力は世界ランカーの格闘家を上回る。
「全部で9人か、掃除屋を呼べ。引き継ぎを済ましたら次のターゲットに向かうぞ」
「気が早いですね」
「こういうのは時間との勝負なんだよ、羽田と成田に向かう道路には全部検問を敷いてある。プライベートジェットで逃げられても困るからな」
「っとなると、次はそれなりにお金持ちさんがターゲットですか」
「あぁ、今から朝川TV新聞の重役宅へ向かう。この時間ならまだ港区のタワマンにいるはずだ、それが終わったら政府与党の親中派派閥トップを消せと指示が来てる」
「忙しい夜になりそう……、シャワー浴びれるかな」
駅を出た公安実行部隊は、着替えを車内で済ましてから速やかに次のターゲットの暗殺へ向かった。
真島は錠前と比べてしまった故に心を折られて任官拒否に至ったわけですが、能力的には天井に近いです。
基本的な戦闘能力は、アノマリー化以前の錠前と互角の設定ですから。




