第254話・終止符の一撃
荒野と化した中国大使館で、錠前勉はゆっくりと構えを取った。
彼の足元からは、ドス黒いイナズマが走り……周囲に圧倒的な威圧を放っていた。
「さぁ、少し派手にやろうか」
そう呟いた錠前の指に、ダンジョン勢力と比較するのも馬鹿らしくなるほどの魔力が集まっていった。
黒い炎は渦を巻き、ブラックホールのような深淵を形成していく。
「新しく現れた敵は、どうも他と違うな……逃げられても厄介だ。ここで仕留める」
射線上に長大な魔法結界を展開。
中国大使館から渋谷までの数キロが、丸ごと結果内に収められる。
「良いんですか? あなたは今魔法のパフォーマンスが100分の1以下まで落ちている。そんな状態で大技を撃ったら……最悪、二度と魔法が使えなくなるかもしれませんよ?」
若干の心配を込めたウォッチャーの問いに、エネルギーを溜め続けながら錠前は返した。
「大丈夫大丈夫、僕––––魔法なんて使えなくても“絶対負けない”から」
それは本人が最強が故の発言。
「愚問でした」と一歩下がる特戦を前に、錠前は極超高密度にまで凝縮させた黒焔を操作した。
既に敵は魔法結界に捕らえられており、友軍や街の被害も無視して良い。
フルパワー、現状における120%の攻撃を、錠前は躊躇なく繰り出した。
「焔属性魔法–––– ”暁天一閃”」
魔眼が見開かれ、現代最強……錠前勉の本気の一撃が放たれた。
「出力最大、『極ノ弾』」
それはあまりにも規格外の攻撃だった。
ズンッ……と、軽い地響きが鳴ったと思った瞬間、黒焔の巨大な球体が破滅を撒き散らしながら発射されたのだ。
音速にまで達したそれは、新宿から渋谷までのあらゆるビルや道路の基盤を丸ごと抉り取りながら進む。
「やばっ……!!!!」
そんな異次元の攻撃を向けられたガブリエルは、即座にできうる限りの防壁を展開。
しかし、現代最強のアノマリーが放った一撃を防ぐことはできない。
黒焔は巨大なビルも大天使の防壁も、まるで存在しないかのように薙ぎ払った。
いや……根こそぎ消し飛ばした。
後に残ったのは、錠前の正面に形成された魔法の通り道のみ。
深さにして80メートル、横幅は130メートルにも達する巨大な亀裂が新宿〜渋谷間に形成された。
「……やり過ぎたな、これじゃあ仕留めたかわからん」
「少なくとも手傷は負わせたでしょう、本当……あなたが秩序側の人間で良かったです」
「どうもテロリズムは嫌いなんでね、これで任務完了かな?」
軽く言う錠前に、特戦の面々が近寄ってくる。
全員が錠前のあまりの魔王ぶりに驚愕しつつも、平静で話した。
「まだ大使館からドル箱を貰ってませんよ、秋山さんのお家……壊れたままでしょう」
「あーそうだった! 美咲にちゃんと弁償しなくちゃね。アヴェンジャー、金庫の場所ってわかる?」
「おそらくあっちの地下なので、瓦礫をどかして通路を見つけましょう」
「ばっちこい、さぁ……楽しいお宝探しの時間だ♪」
もはや廃墟となった大使館だが、徴収をするにあたって気になることがあった。
瓦礫を凄まじい速度で蹴散らす錠前に、プリテンダーが質問する。
「この結界内で起きた事象って、死者に関すること以外は元に戻るんですよね? だったら結界内で金庫を漁っても意味がないのでは……」
「あぁ、結界の要件を変更しといたから大丈夫。現実世界で監視カメラ越しに見たら、鍵のかかった金庫の中からお金だけが消えていくイメージ」
「つまり、こっちからはいくらでも干渉できて、証拠も残らないと」
「そういうこと、でもこんな都合の良い魔法とも今日でお別れだから。同じことはもう二度とできないよ」
錠前勉は、さっきの大技によって今度こそ魔法が使用できなくなっていた。
今は外付け的に付与した結界が、最後の仕事をしているだけに過ぎない。
これもすぐに消えてしまうものだ。
「おっ、入口っぽいのあった」
銃を持った特殊部隊を引き連れて、錠前は階段を下りていく。
しばらく地下を進んだ先には、予想通り巨大な大扉があった。
「キャスター、吹っ飛ばせ」
「了解」
用意していたありったけのC4爆薬で、速やかに破壊。
中に入ると、そこには広大な空間の壁中に、所狭しと金庫が並べてあった。
「ドルが7割、円が3割ってところかな?」
「秋山さんへの賠償なら、金庫1個未満だけでも十分過ぎるほどですが」
「侵略者に遠慮なんているかよ、大方……日本国内で活動する工作員への支援金だろ。持てるだけ搔っ攫うぞ。掛かれ」
ごうと……訂正、賠償金の請求に来た怖いお兄さんたちは、魔法結界が維持されている間にのべ”1000万ドル”以上を回収した。
結界解除後は、呼んでいた3t半トラック数台にありったけを詰め込んで帰投。
夕方のニュースは、富士教導団とドラゴンの戦闘がメインで放送されたため、第1特務小隊と特戦群の動きを知る者は誰もいない。
新宿と渋谷で行われた一連の戦闘は、自衛隊の勝利で終わった。
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