第253話・VS富士教導団
渋谷で交戦を開始していた富士教導団は、戦闘を非常に有利に進めていた。
アパッチと16式の猛攻は、鋼鉄竜バルベルクの装甲を紙切れのように引き裂く。
特に16式の攻撃は非常に強力で、軽量な装輪車にも関わらず“戦車砲”を撃つのだ。
これは諸外国にもまず見られない装備で、日本の極めて高い技術力が産んだ、都市部で運用可能な大火力である。
さらには上からアパッチが30ミリ機関砲を撃っているので、ガブリエルは下手に手出しもできない。
「バルベルク! 上に飛べ! 奴らの攻撃範囲にも限界はあるはず、上空へ逃げろ!!」
ガブリエルの指示で、鋼鉄龍バルベルクは翼を大きく広げる。
だが、それは熟練の富士教導団にとってチャンス以外の何ものでも無い。
『16各車、こちら16! 弾種変更徹甲!! 目標の翼を撃ち抜け!!』
『了解! 逃すかよ、人の家のリビングで暴れやがって……こっちが何もできないと思ったか!』
今までの爆発する弾と違って、今度放たれたのはAPDFと呼ばれる徹甲弾だった。
貫通力に特化したこれは、超高速で飛翔––––バルベルクの硬い翼を引き裂いた。
「ガアァアッ!!?」
空を飛ぶことは叶わず、地上に叩き落とされるバルベルク。
砂埃の舞った路上へ、アパッチが次なる兵器を斉射した。
『発射!!』
撃ち尽くしたミサイルに代わり、ハイドラ70ロケットランチャーが次々に発射される。
1発でも歩兵小隊を粉砕する弾頭が、100発以上……雨のように降り注いだ。
「鋼鉄を貫通する魔法に、意味不明な爆裂魔法……マジでなんなんだよこいつら!」
切り札格のドラゴンが手も足も出ない状況で、ガブリエルは起死回生の一手を探る
あの未知の戦力を粉砕するには……決めるしかない。
––––無制限の、広範囲大魔法を––––!!!
ガブリエルがそう思考したと同時に、渋谷から離れた東京湾海上に……1隻の艦が浮いていた。
「予備プランの発動を確認しました、既に火器使用は無制限で許可されております。艦長」
海上自衛隊、横須賀基地所属の護衛艦『おおなみ』は、神奈川県の川崎沖に展開していた。
この艦は、以前行われたリヴァイアサン迎撃にも参加した精鋭だ。
穏やかな海を走りながら、CIC(戦闘指揮所)で艦長は呟く。
「自国の首都に撃ち込むのは正直反対だが……、致し方あるまい」
「損害は全て中国に請求するので大丈夫でしょう、なので遠慮なく撃ち込めと防衛副大臣から電文が飛んで来ています。民間人の避難も完了とのこと」
「よし……わかった。左舷対地戦闘用意!! 試製12式対艦ミサイル––––発射!!」
「データ入力完了、GPS、INSでの誘導準備完了。SSM発射用意よし!!」
「撃ェッ!!」
『おおなみ』の艦体中央が、豪炎に覆われた。
45度で設置された筒形ランチャーから、国産最新式の改良型12式対艦ミサイルが発射されたのだ。
「バーズアウェイ」
ロケットブースターに点火してすぐ、ミサイルはあっという間に音速を突破。
東京都の上空を高速で飛行した。
「バルベルク! こうなったら後のことなんてどうでも良い、あのふざけた鉄の塊共を粉砕してくれ!」
ガブリエルの指示に全力で応えたバルベルクは、なんと被弾しながらブレスのチャージを開始した。
「16各車、目標の頭部へ集中砲撃せよ!!」
残ったHEAT弾で、16式部隊が全力射撃を敢行。
バルベルクの首から上が爆炎で覆われて、10秒が経った……。
「ガアァッ!!!」
ドラゴンは、驚異的な耐久力で耐え抜いていた。
主であるガブリエルに応えるため、死に瀕した状態でも自衛隊に一矢報いるべく攻撃を放とうとしたのだ。
「よっし、いけ! バルベルク!!」
大はしゃぎで攻撃命令を出す大天使。
鋼鉄竜の本気は、前の世界で戦列歩兵を軍団単位で蹴散らした。
いよいよ特大のブレスが放たれようとした時、彼らの上空を轟音が覆った。
「は…………?」
一瞬の出来事だった。
渾身の反撃を繰り出そうとしたバルベルクへ、精密誘導された12式対艦ミサイルが真上から直撃。
凄まじい爆発は、大型巡洋艦を一撃で粉砕する威力を持つ。
「ちょっ!! バルベルク!!」
叫んだ時にはもう遅い。
対艦ミサイルの直撃を食らったバルベルクは、鋼鉄で覆われた体をバラバラに四散させた。
数百年を共にした召喚獣が、ほんの数秒で原型も残さず弾け散ったのだ。
「ヒュウッ! 海さんの火力は凄まじいな……まるで鋼鉄の花火だ」
16式の射手が口笛を吹いた。
数多の魔法や剣を防いできた鱗は、自衛隊の新型ミサイルによって呆気なく貫かれた……。
今まで相手をしてきた、どの世界にもこんな魔道具は無かった。
圧倒的すぎる科学の力を前に、ガブリエルは激昂した。
「君ら……! ちょっとやり過ぎたよ」
大天使がついに自らの全能力を開放。
遍く星々の力を借りた、最大級の一撃を繰り出そうとした時––––
「ッ……!!」
中国大使館のある方角から、膨大過ぎる魔力が放たれた。
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