第252話・復活、現代最強
「僕を封印とか、舐めた真似してくれやがって……覚悟できてんだよね?」
エンデュミオンは完全に誤算を弾いていた。
たとえ最強たる錠前を無力化できても、自衛隊全体の力が無くなったわけでは無い。
第1特務小隊は防衛省にとって単なる1カードに過ぎず、組織としての強さは依然健在。
結果として、必然の逆転を許してしまった。
さすがの彼も、航空爆弾で封印自体を破壊されるなど想像もしていなかったのだ。
「くっひひ、この保険プランを最初に考えたのって……実は防衛大臣じゃなくて新海なんだよね。最初は僕のこと舐めてんのかと思ったけど、やっぱり持つべきは優秀な部下だよ」
両拳を握った錠前は、己に宿った特別な魔眼でエンデュミオンを見た。
「”暁天一閃”か……確かに強力だが、弱点として使用後はしばらく魔法使用に制限がつくな? 結界とか外付けとして付与した例外を除いてね」
「ッ……!!」
錠前の魔眼は、魔力に通ずるあらゆる事象を看破できる。
最大出力の奥義には、当然ながらデメリットも存在していた。
そこをしっかり捉えた錠前が、次に起こした行動は神速だった。
「そーれ」
一瞬で距離を詰めた彼は、エンデュミオンの顔面に渾身のパンチを打ち込んだ。
あまりに馬鹿げた威力に、吹っ飛んだ敵は瓦礫の山となった中国大使館へ突っ込む。
「僕さえ封印できれば勝てると思ってたんでしょ? アッハハ、その辺の砂糖菓子より甘い考えでホント助かるよ」
「解せんな……! 貴様は自分を最強だと言っていなかったか?」
瓦礫とボロボロの中国国旗を放り捨て、エンデュミオンは煙の中から現れた。
さすがにダメージがあったようで、殴られた箇所が出血している。
「うん、最強だよ。でも一個人が果てしなく強くて全部どうにかなるのって、結局のところフィクションの粋を出ないんだ。国防は連携プレー、つまるところ団体戦だからね」
そういうことかと、エンデュミオンはようやく理解した。
この男は自分が一番強いと確信しておきながら、組織の中では矮小な存在だと自認もしている。
国家防衛において、軍人に求められる素質はソロの世界チャンプ級パフォーマンスではない。
集団戦闘において、己の役割をこなしきる極めて地味な素質だ。
「っというわけで、今日は見逃したげるからもう帰ってもらえる? 君もわかってるでしょ、今の僕には逆立ちしたって勝てないってさ」
「……!! 情けか? 驕るのも大概にするんだな……ガキめ!!」
「いやぁーw、そうじゃないそうじゃない。沖縄でも言ったけど、今君を殺しちゃうとダンジョンがどうなるかわかんないの。だから保留するだけだよ。まぁ––––」
赤い瞳で見下ろした錠前は、軽薄に言い放った。
「きみ威厳もキャラ立ちも中途半端な、厨二病患者じゃん。弱すぎるんだよね〜……だからいつでも殺せるんだよ。せいぜい余生を楽しんどいて♪」
錠前の軽薄過ぎる回答に、エンデュミオンは頭からマグマを噴き出しそうになっていた。
だが、ヤツの言う通り……今の状態ではどう足掻いたところで勝ち目が無い。
「余生になるのは貴様かもしれんぞ?」
「アッハハ、負け惜しみは良いからサッサと消えて貰える? それとも半死半生にでもして欲しい?」
最後の捨て台詞も、錠前には通じなかった。
これ以上ない、最強の魔導士としてのプライドをズタズタにされながらも……エンデュミオンは転移魔法を発動する。
「覚えておけ、貴様だけは必ず殺す––––!!!」
「ご自由に」
エンデュミオンの撤退を確認すると、大使館の入り口からマルチカム迷彩の男たちが入ってきた。
「お疲れ様です、カタストロフィー」
「やっ、セイバー。空爆誘導ありがとうね」
「大した仕事じゃありません、アドリブもこなしてこその特戦群ですから」
「そりゃ結構、新海たちは?」
「渋谷で一戦終えたところをアーチャーが確保したはずです、今頃は富士教導団が引き継いだかと」
「なるほど……」
見れば、渋谷方面から異常な魔力量が魔眼で確認できた。
エンデュミオンかそれ以上、今の自衛隊なら問題ないだろうが……念には念を入れるべきだろう。
「みんなと少し距離があるな……、仕方ない」
魔眼を赤く光らせた錠前は、ゆっくりと構えを取った。
「少し……、派手にやろうか」
現代最強の自衛官は、渋谷に照準を定めた。
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