第25話・特別配信チーム総監督、錠前1佐
「以上が、先の防衛戦の資料です。配信のアーカイブはご覧になったでしょうか?」
––––ユグドラシル駐屯地、ある1室。
戦闘を終えた透は、武器をしまってから、いの一番にここへ来ていた。
部屋には、『第1特務小隊 監督室』と書かれている。
「あぁ、部屋で見ていたよ。あんな激しい戦闘に参加できなかったのは悔やまれる。だがやはり……配信というのはこれくらいぶっ飛んでなきゃいけないね」
透の正面に座るのは、スマートな身体を持ち、糸目が特徴的な1人の陸上自衛官。
まだ若め……だが、明らかに他の者と雰囲気が違っていた。
「貴方は前線で銃を取るべき階級じゃないでしょう、錠前1佐」
錠前と呼ばれた佐官は、端正な顔端を吊り上げる。
どこか不気味で、しかし言い知れない覇気があった。
「だからこそだよ新海、せっかくダンジョンに来たんだ……つまらない事務仕事ばかりだと、身体が鈍っていかん」
「錠前1佐は、戦争がお好きだと聞きましたが……そのせいですか?」
「はっ、何を言う。戦争などと言う非生産極まる行動は人類の恥だよ、まぁあいにくとわが国の周辺は……そんな恥を知らない国が多いのも事実だけどね」
この錠前という男こそ、透たち配信チームを直轄する大頭だった。
彼の上に立つ人間はもはや防衛大臣しかおらず、配信の責任は全てこの自衛官が請け持つ。
「それよりどうだい、久里浜士長の様子は?」
「初めてで緊張はしていましたが、任務に支障はありませんでした。坂本のカメラで様子なら見れるかと」
「いや大丈夫だ、彼女は特戦群––––あの城崎群長が送って寄越した人材だ。信頼しているよ」
錠前の言葉に嘘は無い。
なにせ透の“直感”で、この男の持つ強さは心身共にデタラメ級の規格外だろうと予測できたからだ。
噂によれば、彼はある日陸上自衛隊の名簿から消えた過去を持つという。
確信をもって、“特殊作戦群”に所属していたと言えた。
証拠に、以前会ったばかりの頃の錠前の胸を見たことがある。
レンジャー徽章、空挺徽章、冬季戦技徽章、格闘徽章と溢れんばかりに着けていた。
今はこうして配信チームにいるが、彼の影響力が無ければここまで派手にダンジョン配信などできていない。
あの四条をもってして、謎が多い人物だった。
「ふむ、まぁラビリンス・タワー攻略前の予行演習にはなっただろう。再生数は5億5千万……悪くないじゃないか」
「四条2曹がこの少し前に銃器レビュー動画を撮りましたが、問題無かったでしょうか?」
「20式ライフルの性能さえ隠せればそれで良い、HK416A5なんぞ今どき誰でもスペックを知っている。製造会社も実戦で評価されているなら文句は言わんだろう」
資料をあっという間に読み終えた錠前1佐は、極秘と書いたハンコを押す。
これは後ほどダンジョンから速達され、明日には防衛省に送られるだろう。
「皮肉なもんだね、保守的過ぎて電子に移行できず……未だ紙媒体でやり取りしているのが、まさか中国に対して有効打になるとは」
中国のハッカー部隊は極めて厄介で、日本中が被害を受けている。
だが錠前1佐の言う通り、自衛隊は古来より紙媒体にこだわって来たため脅威を逃れていた。
有害とされた判子文化が、ハイテクに勝利したのだ。
「新海、明日のダンジョン配信はさぞ苦労するだろうが……どうか頑張って欲しい。全ての責任は僕が負うから、安心して行って来てくれ」
「はい、ありがとうございます」
敬礼し、部屋を出ようとする透へ––––最後に錠前が話しかける。
「新海」
「なんでしょう?」
「……今回の襲撃、何か通常起こり得ない恣意的なものを感じた。明日は十分気をつけたまえ」
「了解です」
分厚い扉が、バタンと閉められた。
1人になった部屋で、錠前はつぶやく。
「神の気まぐれか、悪魔の見当違いか……いずれにせよ敵は明確に“日本人”にターゲットを絞っている。さて、いつどこで恨みを買ったのかな?」
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