第246話・四条&ベルセリオン
マスター契約。
それは執行者という特別な存在を使役するため、本人らが認めた人間のみ交わすことのできる、いわば主従契約だ。
これを行うには、眷属として大き過ぎる存在である彼女らを受け入れるだけの才能と器がいる。
とある世界では、彼女らとの契約で世界を制覇したという伝承もあるという……。
それほどまでに、執行者と呼ばれる少女は特別なのだ。
魔導的に明確な上下はあるが、実際は互いの力を120パーセント発揮するための相互補助行為。
「ッ!! なんなのこいつら!!」
血界魔装に変身したエクシリアは、雑魚を間引く感覚でイカヅチを降らした。
なのに、倒すどころか四条は地球人ができる限界の機動で、かわして見せたのだ。
彼女––––四条エリカもまた、新海透に限りなく近い力……執行者を使役できるだけの器と才能を持っていたのだ。
「貴女は銃について少しは知ってそうなので、こちらも型破りな方法で行かせてもらいます」
なおも突っ込んでくる四条。
イカヅチによるダメージはゼロ。
おぞましい危機感を覚えたエクシリアは、すぐさま長身の剣を構えた。
こいつの狙いはおそらく、限界まで接近しての近距離射撃。
ならば剣を持つこちらにアドバンテージがある。
––––そう思っていた。
「なっ!?」
目と鼻の先まで肉薄した四条は、発砲ではなく……ストックによる打撃を繰り出した。
あまりにスピードの乗ったそれを、なんとか剣で防ぐが。
「よっ」
彼女は防がれると同時に銃を持ち替え、すぐさま射撃を織り交ぜた。
300ブラックアウト弾がエクシリアの胸を強打し、隙を作る。
「かはっ!」
「今です! ベルセリオンさん!!」
叫んだ四条の背後から、飛び越えるように巨大なハルバードを持った執行者が跳んできた。
「『空裂破断!!』」
ハルバードの切っ先が、エクシリアの張った魔力防壁とぶつかった。
激しい音と光を発生させるが、挑発も込めて笑う。
「ッ……無駄よベルセリオン、あなたの力じゃ本気のわたしに届か––––」
刹那。
エクシリアの防壁にヒビが入った。
まさかと思った時には、もう遅い。
「だああああぁぁぁぁあああ!!!!!」
防壁ごと振り抜いたベルセリオンは、あのエクシリアをまたも吹っ飛ばした。
急いで体勢を立て直すが、彼女は疑問符でいっぱいになる。
「なぜ? ベルセリオンにこんな力無かったはず……!!」
記憶にある彼女の実力は、エクシリアからすれば雑魚と同じレベル。
前の世界で行った手合わせでは、右ストレートの一撃で内臓を潰し、血を吐かせてから瀕死になるまでボコボコにした。
常識的に考えて、自分に有効打を与えられるはずが……。
「まさか!」
ここで思い至る。
テオドールがそうであったように、ベルセリオンもまた––––秋山の振舞った食事により潜在能力を100パーセント引き出していたのだ。
つまり、
「右がガラ空きよ!!」
「くぅっ……!!」
分厚い魔力によるガードの上から、ベルセリオンはハルバードで猛攻を仕掛けた。
その強さは当然であるが、日本食で覚醒したテオドールと同レベル……いや、部分的にはそれ以上だった。
「四条!!」
魔力防壁が薄まった瞬間、真横から駆け込んできた四条が肉薄。
勢いのついた回し蹴りを、エクシリアの顔へお見舞いした。
「がっふ! ぐっ、調子に……乗るなぁ!!」
すぐさま反撃を行うが、四条は持っていたMCXを横にして、エクシリアの剣を受け止めた。
強烈な衝撃が手足を痺れさせるが、かまわず正面から止めて見せる。
「ぐっ…………!! 銃の、強度を……舐めないでください!!」
本気の力で払い除け、なんと四条は銃撃と近接打撃を織り交ぜたコンボを披露。
エクシリアの攻撃は殆どが防がれ、代わりに殴打と銃撃が叩きつけられる。
そして、ベルセリオンとスイッチして交代。
とても今まで関りが無かった人間同士とは思えない連携で、エクシリアを圧倒していた。
「アンタはパートナーとかいらないって言うけどさ」
剣撃を繰り出しながら、ベルセリオンはつぶやいた。
「どんなに特別な力を持ったとしても、人間は1人じゃなんもできないの」
新宿駅の地下で、1人泣き叫んでいた時を思い出す。
孤独と空腹に押しつぶされそうになって、もう死ぬかと思っていた瞬間だ。
「いくら能力が優秀だからって、おいしいご飯が食べれなかったら意味なんて無いの」
昨日泣きながら食べた肉じゃがの味を思い出しながら、彼女は日本で得たかけがえのない体験を胸に秘める。
秋山に救ってもらい、四条がチャンスを、妹に償いをする機会をくれたことに感謝を込めて!
「頑張ろうと思えた時、自分を変えようと思った時、一緒に戦ってくれる人がいないと……人は真に前へ進めないのよ!!」
「クッ……!! 滅軍戦技––––」
エクシリアが反撃を試みるが、またもスイッチする形で四条が前に出た。
MCXに追加のマガジンを差し込み、ボルトを前進させる。
「秋山さんから預かった大切な子です、マスターとして……絶対に傷つけさせません!」
セレクターをフルオートにして、剣技を避け切った四条が銃口を突き付けた。
「これは––––たった1人で挽回しようとした貴女と、わたしを頼ってくれたベルさんとの決して埋められない差です!」
貫通不可能かと思われた防壁に穴が開けられ、MCXの銃弾がついにエクシリアを貫いた。
初見さん、常蓮さん、たくさんの感想コメントありがとうございます!!
めっちゃモチベモチベ湧きます




