第239話・錠前勉、封印作戦
錠前が殴り込んでくる数時間前。
1つの机を囲みながら陳大佐、セルゲイ少佐、李大尉らが最終会合をしていた。
「で、本当にヤツ単独で来る保証があるのか?」
そう尋ねたセルゲイに、椅子へ座った黒装束の男……陳大佐は笑顔で返した。
「もちろん、今までの襲撃に業を煮やした自衛隊が来るのは明らかだ。そして、そんなイカれた任務を可能なのは……世界でただ1人。錠前勉しかいない」
「そりゃ可能性の話だろ、俺は確証があるかを聞いているんだ。こっちは公安の罠に掛かって部隊の主力を失ってる……後が無いのは俺らなのに、向こうが切り札を切ってくるか?」
錠前の親友––––真島の張った罠は、実に効果的な威力を拉致部隊に与えていた。
おかげで、いまや即応できる部隊は半数以下……大使館内の防衛に費やしている状態だ。
そんな状況で、なぜ陳はここまで余裕なのか……。
セルゲイと李は、気になって仕方がなかった。
「現代最強の自衛官……錠前勉がもっともその威力を発揮するのは、どんな時だと思う?」
陳の問いに、李がすぐさま答えた。
「間違いなく1人の時だ。どんな人間や兵器でも、アイツの周りじゃ足手纏いになる」
「その通り、大使館襲撃というグレーな攻撃を行う自衛隊側が、大部隊を動員するとは考えづらい……っとなれば、必然的に錠前を出すしか無いわけだ」
「本気であの化け物に勝つ気か?」
「勝てるさ、我々ならね」
そう言って陳は、3つの結晶を机に置いた。
「高純度の魔法結晶だ。飲めば一時的だが……魔力を使用できる、以前に新宿で自衛隊が使った方法だ」
セルゲイと李は目を見合わせた。
魔法結晶の存在は知っていたが、それを使うという発想はなかったのだ。
「魔力を使う……か。それで錠前に対抗できるか?」
セルゲイは半信半疑の表情で尋ねた。
「もちろん、これを使えば一時的にだが……我々も超常的な力を手に入れることができる」
陳大佐の声には確固たる自信が滲み出ていた。
李は結晶をじっと見つめながら、
「うーむ、この魔法結晶がどれほどの効果を発揮するんだ? 半信半疑だ……あの化け物の力に本当に匹敵するのか?」
思わず疑問を呈した。
陳が落ち着いて答える。
「大丈夫、その効果は実証済みだよ。新宿での戦闘で自衛隊がこれを使った時、本来連中では不可能なレベルの結界術が行使された。あの錠前と対等に渡り合うためには、もうこれしかない」
セルゲイは深く息をつき、考え込んだ。
「つまり、俺らも魔法結晶を使って、錠前と戦う対等な土俵に上がるわけか」
「そうだ。だが、これには当然リスクも伴う。魔力の使用には本来適性がいるからね……執行者や、新海透のような天才でもない限り、寿命が大きく削られるだろう。だが、この戦いに勝つためにはもうそれを受け入れるしかない」
セルゲイは黙り込んだ。
李もまた、思案顔をしている。
彼らは既に多くの犠牲を払ってきたが、これ以上のリスクを背負うことに僅かだがためらいを感じていた。
「他に選択肢はないのか?」
李が重々しい声で尋ねた。
「今の我々の状況を考えれば、これが最善の策だ。他に有効な手段はない」
陳大佐は潔く断言した。
魔法の極地に至り、軍人としても魔導士としても最強の存在に勝つためには、あらゆる物をかなぐり捨てねばならない。
しばらくの沈黙の後、セルゲイはゆっくりと頷いた。
「分かった。やるしかない……錠前勉に勝つためだ」
李もまた頷いた。
「我々が生き延びるためには、この道しかないらしい……クソ遺憾だがな」
陳大佐は微笑み、彼らに結晶を手渡した。
「これで準備は整った、我々は必ず勝利する」
「勝利っつっても、具体的にはどうするんだ?」
「簡単な話さ、私たちの目的は……ヤツの次元防壁を突破すること。それさえ叶えば、最強の手が打てる」
その時、警戒部隊から通信が鳴った。
「錠前勉を確認、真っ直ぐこちらへ歩いてくる」
「来たな」
セルゲイが立ち上がり、結晶を手にした。
「さぁ、行こう。我々の最後の賭け––––“錠前勉の封印作戦”を開始する」
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